2023年8月30日水曜日

市中肺炎

NEJM,2023,vol.389,no.7
Clinical Practice Community-Acquired Pneumonia

米国では肺炎での入院は人口10万人あたり年間成人650人とされる。
市中肺炎で多い病原菌、グラム陽性球菌:肺炎球菌、MSSA、化膿性連鎖球菌など連鎖球菌。グラム陰性桿菌:ヘモフィルス、モラクセラ、腸内細菌(クレブシエラなど)。非定型肺炎:レジオネラ、マイコプラズマ、クラミジア。呼吸器系ウイルス:インフルエンザ、SARS-CoV-2、RSウイルス、パラインフルエンザ、ヒトニューモメタウイルス、ライノウイルスなど。多くない病原菌、グラム陽性球菌:MRSA、ノカルジア。グラム陰性桿菌:ESBL産生性・カルバペネム耐制腸内細菌。非定型肺炎:クラミジア・シッタシ、コクシエラなど
肺炎の重症度:CURB65で評価。0-1点は外来治療。2点:短期間入院または外来での頻回観察。3-5点入院推奨。
市中肺炎の外来治療:ATS-IDSAガイドラインでは、AMPC1g×3、ドキシサイクリン100mg×2またはアジスロマイシンまたはCAM500mg×2。マクロライド系は肺炎球菌の耐制が25%以下の地域に考慮されるべきで、米国では30%以上となっている。
市中肺炎の入院治療:呼吸器が必要or敗血症性ショックの場合、PIPC/TAZorセフェピムorセフタジジムorIPMorMEPM+アジスロマイシンorCAMorドキシサイクリンorLVFX+VCMorリネゾリド。PIPC/TAZ+VCMの併用は急性腎障害と関連があり、一般的には可能な限り避ける。重症市中肺炎のグルココルチコイド使用は最近、ベネフィットが示されているが、インフルエンザ、アスペルギルスでは避けるべきである。市中肺炎治療では病原菌の同定に伴いde-escalationが行われるべきであるが、特定できない場合、エンピリカル治療は継続すべき。鼻腔のスワブでMRSA非検出の場合、抗MRSA治療は中止できる。適切な治療であれば48時間で解熱し、3日で安定する。最低5日間は抗菌薬を継続すべき。

2023年8月23日水曜日

プライマリケアにおける高齢者でのアスピリン投与中のピロリ菌除菌、HEAT研究

Lancet,2022,vol.400
Helicobacter pylori eradication for primary prevention of peptic ulcer bleeding in older patients prescribed aspirin in primary care(HEAT): a randomised, double-blind,placebo-controlled trial

英国のプライマリケア1208施設で60歳以上、アスピリン325㎎以下の投与を内服中、ピロリ菌尿素呼気検査陽性を対象とし、胃潰瘍で治療中は除外。対象を1:1に無作為化し、実薬群にはCAM500mg、メトロニダゾール400mg、ランソプラゾール30mg投与。30166例にピロリ菌呼気検査が実施され、5367例がピロリ菌陽性。除菌治療群2677例、プラセボ群2675例に割付。主要評価項目は出血性胃潰瘍による入院or死亡。介入後3.95年後に10%の人に追加のピロリ菌検査を実施したところ、除菌治療群は90.7%にピロリ菌陰性。プラセボ群でも24.0%が陰性化していた。中央値5年の観察では2.5年未満ではイベントは0.92vs2.61/1000人・年で、ハザード比0.35(0.14-0.89)と有意にリスクを減らしていたが、2.5年以上では、1.75vs1.33/1000人・年、ハザード比1.31(0.69-2.56)と差を認めなかった。

2023年8月16日水曜日

進行性の呼吸困難をきたした21歳男性

NEJM,2023,vol.389,no.4
Case Records of the MGH
Case 23-2023: A 21-Year-Old Man with Progressive Dyspnea

数か月前よりバレーボール、キャンパス内の歩行時に呼吸困難を自覚。6日前に家庭医受診、検査実施。心電図では右脚ブロック、右室肥大所見を認め、心エコーでも著明なhypokinesiaを伴う右室肥大、右室圧84mmHg、重度TRを認めた。室内気での酸素飽和度93%であった。血液検査ではAST:61、ALP:160。造影CTでは肺塞栓症は否定的。現症では肺性P音、バチ状指を認め、肝脾腫認めず。

鑑別診断:右室圧上昇する病態、1)肺動脈高血圧、3)肺疾患、低酸素血症に伴う肺高血圧、4)慢性肺動脈血栓塞栓症、5)前毛細血管性の肺高血圧、2)左心不全に関連する後毛細血管性の肺高血圧に分けて考える。
この患者では造影肺CTでは、肝に一部石灰化陰影、下大静脈拡大を認めた→肝動静脈・門脈系の異常が肺高血圧の原因ではないか。
→造影MRI等による最終診断:先天性肝外門脈大循環シャント(アバネシ奇形)
→本患者では肝移植が実施され、その後のカテーテル検査では右室圧は正常化した。

2023年8月9日水曜日

重症市中肺炎での治療でのコルチコステロイドの追加の効果と安全性、ランダム化試験のメタ解析

Critical Care,2023,vol.23,no.274
Efficacy and safety of adjunctive corticosteroids in the treatment of severe community-acquired pneumonia: a systematic review and meta-analysis of randomized contolled tiral

2023年の大規模RCT(仏、NEJM)でICU入室の重症市中肺炎でコルチコステロイドの有用性が示されたが、RCTのみを用いてメタ解析を実施した。対象は重症市中肺炎で、その定義として、ICU入室者、米国胸部疾患学会の重症市中肺炎、PSIのクラスⅤを満たすもので、敗血症性ショックにフォーカスした論文、事後解析の論文などは除外。5580論文を評価し、最終7論文がメタ解析された。7論文はいずれも二重盲検試験で、合計1689人、ヒドロコルチゾン5論文、メチルPSL2論文で、3論文は40%以上が人工呼吸器装着であった。主要評価項目は30日後の死亡、一つ抜き交差検証やI2解析で異質性の評価、TSA逐次解析も実施。30日後の死亡はステロイド使用でリスク比0.61(0.44-085)で、敗血症性ショックの有無や60歳以上でも同様の結果であった。さらにステロイドの種類も同様の結果で、ステロイドの漸減なし、使用期間8日未満の方が有意に良好であった。呼吸器装着RR:0.57(0.45-0.73)、ICU入室期間、入院期間でも有意に短縮。有害事象は消化管出血、感染症、AKIとも両群で差なし。2023年Chest誌のメタ解析(Saleem ら)では、非重症市中肺炎も含んでのメタ解析で、重症市中肺炎では、コルチコステロイドの有用性が示唆された。

2023年8月2日水曜日

COVID-19後の急性続発症のリスクとモルヌピラビル

BMJ,2023,vol.381
Molnupiravir and risk of post-acute sequelae if covid-19: cohort study

米国の退役軍人省のデータを用いて検討した。2022年1月~2023年1月で退役軍人でSARS-CoV-2検査陽性者は33万9千人あり、そのうち、モルヌピラビルのphase3試験であったMOVE-OUT研究の対象である60歳以上、BMI>30、癌、心血管疾患、CKD、CLD、DM、免疫不全等を一つ以上有し、モルヌピラビルを投与した者13007人の内、適応外使用、eGFR<30を除いた11472人、および同様のリスクを有し、抗ウイルス療法を実施しなかった217814人を対照群とした。転帰はコロナ後の死亡、入院とし、コロナ続発症として、虚血性心疾患、不整脈、肺塞栓、疲労、筋痛、AKI、認知機能低下、自律神経障害、息切れ、咳などの13症状とした。全体では平均69.8歳、男性91.6%、コロナワクチンなし12.7%、ワクチン3回以上63.3%、併存疾患:癌23.3%、CLD33.9%、DM45.3%など。コロナ後30日の時点でのコロナ13続発症はモルヌピラビルvs対照群で18.58%vs21.55%、RR:0.86(0.83-0.89)であった。コロナ後死亡は1.44%vs2.32%、HR:0.62(0.52-0.74)、コロナ後入院8.82%vs10.15%、HR:0.86(.80-0.93)といずれも有意に減らしていた。