2024年5月8日水曜日

心停止、心原性ショック、低酸素血症をきたした55歳男性

NEJM,2024,vol.390,no.11
Case Records of the MGH
Case 8-2024: A 55-Year-Old Man with Cardiac Arrest, Cardiogenic Shock, and Hypoxemia

レストランで夕食を食べていた男性が意識を失い、第1発見者がAEDで除細動、CPR施行。4分後に救急隊がVF確認し除細動。アミオダロン、エピネフリン経静脈的投与。VT持続。ERに搬送され、心電図にて下壁誘導にST上昇型心筋梗塞所見。到着時、心拍数123、BP188/107。BMI:27.0。RCAに薬剤湧出性ステント導入。カングレロール、アミオダロン、バンコマイシン、セフェピム開始。経皮的LVAD(左室補助心臓)装着。ノルエピネフリン4μg/分、LVAD補助最大でもBP81/72。
SARS-CoV-2RNA陽性。侵襲的心拍出量モニタリングのデータでは、中心静脈血酸素飽和度56.6%、混合静脈血酸素飽和度76.8%、動脈血酸素飽和度93.0%。

鑑別診断
RCAにステント留置、経皮的LVADにも関わらず心原性ショック、低酸素血症増悪。
心係数(CI):1.7であれば、混合静脈血酸素飽和度は40%が予想。
肺動脈カテーテルが正しい位置にあるとして、急性心筋梗塞で予想より混合静脈血酸素飽和度が上昇するのは1)心外AVシャント、2)分布異常ショックを伴う心原性ショック、3)乳頭筋破裂・心室中隔破裂
診断
心エコー再検にて中隔下部に16mmの欠損、左右シャント。
最終診断
下壁梗塞に伴う心室中隔破裂、急性乳頭筋破裂

2024年4月24日水曜日

転倒、認知機能低下をきたした82歳、女性

NEJM,2024,vol.390,no.14
Case Records of the MGH
Case 11-2024: A 82-Year-Old Woman with Fall and Cognitive Decline

8か月前まではウォーキングクラブに参加する自立した女性。徐々に歩行速度低下、5ヵ月前には階段が上れなくなる。3か月前、転倒し、他の病院で尿路感染症、SIADH指摘。2週間前にも転倒し、他院にて脳MRIで脳室拡大が指摘。また尿便失禁をきたす。
今回、転倒を繰り返すため、受診。右手背等に触れると強い痛みがあり、そのために動かせない程。両側のMP関節、PIP関節の紅斑、腫脹、疼痛あり。入院4日目に神経伝導検査が施行、左脛骨神経と両側腓骨神経のCMAPが低下しており、左尺骨神経CMAPも軽度低下。伝導速度や遠位潜時は正常であった。筋電図は異常な自発放電等なし。ビタミンB6は正常。

鑑別診断
ミオパチーや脱髄疾患は否定的。症状や電気生理検査からは多発単神経炎。多発単神経炎の最も多い原因は自己免疫性血管炎。結節性多発動脈炎PN。ANCA関連血管炎(GPA、MPA、EGPA)。クリオグロブリン血症関連血管炎。
他の自己免疫性疾患での血管性ニューロパチー:SLE、RA、SjS、PSS、MCTD、炎症性筋炎。
診断的検査
血液検査ではRAが示唆。腓腹神経生検:リンパ球性の小中血管炎による血管性神経障害
最終診断
RA、RAに伴う血管炎による多発単神経炎

2024年4月17日水曜日

4例の重度麻痺に対する植込み型血管内電極によるブレイン・コンピュータ・インターフェイスの安全性評価

JAMA Neurol,2023,vol.80,no.3
Assessment of Safety of a Fully Implanted Endovascular Brain-Computer Interface for Severe Paralysis in 4 Patients
-The Stentrode With Thought-Controlles Digital Switch(SWITCH) Study-

内頚静脈から上矢状静脈洞に16の電極のあるデバイスを前中心回に留置。豪の王立メルボルン病院にて、2019~2021年に5例のALS、PLSの患者(平均61歳、全例白人男性)が登録され、1例は横静脈洞欠損のため除外。全身麻酔で実施、手術時間232分、被爆時間43分。12ヶ月の観察期間中、死亡や重大な有害事象なし。静脈洞血栓の発生なし。電極の位置移動なし。4例ともアイ・トラッキングを伴うPC使用は何回かの訓練で可能となり、文字入力は16.6文字/分。最終的に1例はアイ・トラッキングなしにYes-Noの入力が正答率97.4%で可能となる。全例、満足感、充足感を表明された。

2024年4月10日水曜日

体動困難の84歳男性

NEJM,2024,vol.390,no.20
Case Records of the MGH
Case 9-2024: A 84-Year-Old Man with Fall

3週間前に一過性肉眼的血尿。1週間前に失語、右上肢しびれ(その2週前よりリバロキサパン開始)。他院に入院し、MRIでは微小血管虚血性変化を認めるのみで、TIAと診断。経胸心エコーではLVEF:60%、中等度MR、軽度AR。今回、浴室で倒れていたのが発見されER搬送。全身的な筋力低下、ふらつきあり。既往歴はAF、心不全、COPD、高血圧、抑うつ状態、前立腺がん。発熱なし、左肘屈側に紅斑あり。同部はエコーにて血流のない低エコー病変(1.7×0.5×1.3㎝)があるも、形成外科にて特に外科的処置を要しないとのコメント。尿培養でMSSA検出。また、第1入院病日の血培でグラム陽性球菌が4検体中1つから検出。体部造影CTでは、左副腎に結節影、胸部大動脈瘤あり。第3入院病日、突如、胸痛を訴え、動けない状態。 

鑑別診断
尿培養でMSSA検出されているが、尿道カテーテルがない場合、血行性の感染を考えるべき。
診断的検査
CTA再検にて仮性胸部大動脈瘤の拡大(19→30mm)あり。血培のグラム陽性球菌はMSSA。
最終診断:MSSAによる菌血症、感染性大動脈瘤
治療:
VCM中止しCEZに変更。胸部大動脈瘤に対しては、ステントグラフト挿入術。6週間の抗菌薬点滴後、長期の経口抗菌薬治療へ。

2024年4月3日水曜日

高齢AF患者におけるカテーテルアブレーションによる認知症リスク、死亡リスク

J Am Geriatr Soc,2023,vol.71
Catheter ablation and lower risk of incident dementia and mortality in older adults with atrial fibrillation

米国のヘルスネットワークのTriNetXの2022年9月のデータを用いて検討した。65歳以上のAF患者でカテーテルアブレーションを実施したAF患者44施設、20747人、対照群としてカテーテルアブレーション非実施のAF患者58施設76万7千人から、プロペンシティスコアをマッチさせた20747人を抽出し、比較検討した。年齢は68.4歳、男性59.1%。経口抗凝固薬16.6%。5年間の観察期間で、新たな認知症発症はCA群253人、1.2%、非CA群439人、2.1%で、HR 0.52(0.19-0.61)で有意に認知症発症リスクを減らしていた。ADでHR 0.30(0.19-0.45)、脳血管性認知症でHR 0.54(0.35-0.82)であった。サブ解析ではほぼ全てのサブ因子でCA群で認知症リスクを減らしていたが、抗凝固療法なしでは有意差を認めず。総死亡についてはCA群で2447人11.8%vs3509人16.9%、HR 0.58(0.55-0.61)で有意に総死亡を減らしていた。

2024年3月13日水曜日

発熱、咳の17歳女性

NEJM,2022,vol.387,no.2
Case Records of the MGH
Case 21-2022: A 17-Year-Old Girl with Fever and Cough

Covid-19パンデミック中の発熱、咳。倦怠感、眼瞼結膜発赤、咽頭痛、鼻閉、鼻汁、筋痛。SARS-CoV-2のPCR陰性。BMI:35.9.クレアチニン:2.0、Hb:6.7g/dL、WBC:11890、PLT:52.6万、尿RBC:100/HPF、尿赤血球円柱+。肺CTで斑状のすりガラス影が両側末梢優位に多発。CTRX、アジスロマイシンで治療開始。

鑑別診断:貧血の原因、ウイルス性疾患、多系統炎症性症候群、SLE、GPA
腎生検:球状、分節状の壊死性病変、フィブリン沈着糸球体、細胞性半月→壊死性半月体性糸球体腎炎
血液検査:PR3-ANCA強陽性(21504U)
診断:GPA(granulomatosis with polyangitis)
高用量グルココルチコイド、シクロフォスファミド、リツキシマブで治療開始、しかしクレアチニン4.38に悪化。血漿交換+エクリズマブにて血尿、クレアチニン、C3改善。14か月後にはクレアチニン正常化。

2024年3月6日水曜日

倦怠感、寝汗の21歳男性

NEJM,2024,vol.390,no.8
Case Records of the MGH
Case 6-2024: A 21-Year-Old Man with Faigue and Night Sweats

4週前まで健康。4週前、嘔気、嘔吐。その後、倦怠感増悪。その後、徐々に動けなくなり、ER受診。汎血球減少、ビリルビン上昇、LDH>2500。ダニ刺傷既往なし。血尿なし。違法薬物使用なし。アルコール歴なし。検査データ:Hb値5.7、WBC:2110、PLT:14.1、MCV:101.8、網状赤血球3.8%、LDH:2947、総ビリルビン:1.9、直接ビリルビン:0.2。直接クームス陰性。

鑑別診断:先天性:GATA2欠損、ファンコニー貧血、ウィスコット・アルドリッチ症候群
感染症:CMV、EBV、パルボウイルス、アデノウイルス、バベシア症
リンパ腫などの悪性疾患
自己免疫疾患:免疫介在性貧血、PNH
栄養障害:B12欠乏、葉酸欠乏
末梢血白血球過分葉あり。B12<150pg/mL、葉酸:4.9ng/mL、抗胃壁細胞抗体陽性、抗内因子抗体陽性。B12筋注にて改善。

2024年2月28日水曜日

心不全に対する心臓再同期‐除細動療法の長期転帰

NEJM,2024,vol.390,no.3
Long-Term Outcome of Resynchronization-Defibrillation for Heart Failure

RAFT研究では植込み型除細動器治療より心臓再同期‐除細動治療の方が5年生存で成績が良好であったが、今回、さらなる長期成績を検討した。NYHAクラスⅡ、ⅢでLVEF<30%、QR幅120msec以上の心不全の患者をICD単体またがCRT-D群に無作為に割付。主要評価項目は全死亡、二次評価項目は全死亡、心移植、左心補助デバイス使用の複合。1798例が登録され、1050例で長期予後検討。中央値7.7年(3.9-12.8年)、生存患者は中央値13.9年(12.8-15.7年)フォロー。ICD群530例、66.8歳、LVEF22.1%、PCIあり24.2%、CABGあり36.6%、CRT-D群520例、66.3歳。全死亡はICD群76.4%vsCRT-D群71.2%、加速係数0.80(0.69-0.92;p=0.002)。二次評価項目の複合転帰も77.7%vs75.4%。

2024年2月14日水曜日

同種幹細胞による急性期脳梗塞の細胞治療、TRESURE研究フェーズ2/3

JAMA Neurol,2024
Allogenic Stem Cell Therapy for Acute Iscemic Stroke The Phase 2/3 TREASURE Randomized Clinical Trial

同種幹細胞の大量生産品MultiStem用いた日本44施設での多施設二重盲検試験。NIHSS:8-20のラクナ梗塞、脳幹梗塞を除く急性期脳梗塞、20歳以上(途中で84歳以下に制限)で発症後18-36時間以内に1回MultiStemを投与。主要評価項目は90日時点でのmRS等。207例でランダム化され、105例でMultiStem、102例でプラセボが投与された。MultiStem群の年齢中央値79歳、NIHSS:14点、tPA投与23.1%、機械的血栓除去術(MT)30.8%(tPAとMT併用は除外されている)。90日後のmRS1以下は14.4%vs11.6%、mRS2以下は35.1%vs24.2%で差なし。層別化した探索的検討では、DWIでの梗塞巣≧50mLではmRS2以下は29.6%vs8.1%でp=0.04で有意に良好であった。64歳未満でも良好な傾向を認めた。365日時点でのBI≧95では35.6%vs22.5%でp=0.05で有意に良好であった。

2024年2月7日水曜日

非重症の入院を要する市中肺炎の第1選択の抗菌薬の効果の比較

Chest,2024,vol.165,no.1
Comparative Effectiveness of First-Line and Alternative Antibiotic Regimen in Hospitalized Patients With Nonsevere Community-Acquired Pneumonia

カナダ、オンタリオ州19施設のGEMINIデータベースを用いて、非ICUの市中肺炎の治療、治療効果について検討した。誤嚥性肺炎は除く。23512例のデータを用いた。ベータラクタム(BL)+マクロライド(M)39.7%、BLのみ38.9%、キノロン(FQ、レボフロキサシンorモキシフロキサシン)19.2%、BL+ドキシサイクリン(D)2.2%。院内死亡率はBL+M:7.5%、BLのみ9.7%、FQ:6.7%、BL+D:6.0%で、BL+Mに比してBLのみの生存退院の修正ハザード比は0.90(0.84-0.96)であった。BL+M、FQ、BL+Dは効果に差を認めなかった。

2024年1月17日水曜日

女性ホルモン療法中のスタチン使用と静脈血栓症リスク

JAMA Network Open,2023,vol.6,no.12
Statin Use and the Risk of Venous Thromboembolism in Women Taking Hormone Therapy

米国の6700万人のデータベースCDMを用いて、12ヶ月間、VTEを罹患していなかったもので、初回のVTEと診断され、30日以上、抗凝固療法を実施または下大静脈フィルター留置を行ったものを症例群とし、年齢等をマッチさせた対照群を1対10で選出し、VTE診断日前のホルモン補充療法、スタチン使用を検討した。症例2万359人、対照20万3590人。ホルモン補充療法のVTEの修正オッズ比は1.51(1.43-1.60)。スタチン使用者のVTEの修正オッズ比0.88(0.84-0.93)。ホルモン補充療法者でスタチン非使用はVTEの修正オッズ比1.53(1.44-1.63)、スタチン使用ではOR1.25(1.10-1.43)。スタチン非使用のホルモン補充療法者に対し、スタチン使用(ホルモン補充療法者)のOR0.82(0.71-0.94)で、高強度スタチン(アトルバスタチン40㎎またはロスバスタチン20mg以上)のOR0.69(0.50-0.95)であった。

2024年1月10日水曜日

ペルおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)と腎細胞癌のリスク

JNCI,2021,vol.113,no.5
Serum Concentrations of Per-and Polyfluoroalkyl Substances and Risk of Renal Cell Carcinoma

米国住民の98%にPFASの4化合物が検出されるとの報告がある。国際ガン研究センターではPFOAは腎癌に関連し発癌物質group2Bとしている。住民ベースの前向き研究、nested case-control研究としてPFOAおよび他7種のPFASと腎癌の関連について検討した。ランダム化された住民ベースのPLCO研究(前立腺、肺、大腸、卵巣癌スクリーニング研究)のデータを用いた。PLCO研究は全米10ヶ所の55-74歳の15万人が1993-2001年に募集された。同研究で腎癌と診断されたものは326例、年齢、性、人種を一致させた対照326例を抽出し、PLCO研究登録時の血液データを用いて検討した。PFAS濃度は固相抽出液体クロマトグラフィ・タンデム質量法で計測。対照群に比して腎癌群では高血圧、肥満が有位に多かった。PFAS濃度は非ヒスパニック白人の比してアフリカ系で多かった。PFAS濃度の第1四分位に対して第4四分位ではPFOA(ペルフルオロオクタン酸)でオッズ比2.63(1.33-5.20)、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)でOR2.51(1.28-4.92)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)OR2.07(1.06-4.04)で有位に高かった。他のPFASでは傾向を認めなかった。この研究でのPFAS濃度は全米健康栄養調査(NHANES)でのPFAS濃度と同様の結果であった。