2022年11月30日水曜日

脳卒中の原因となる単一遺伝子の変異の浸透率での血管リスクと遺伝的リスクの関連

JAMA Neurology,2022
Association of Vascular Risk Factors and Genetic Factors With Penetrance of Variants Causing Monogenic Stroke

脳卒中に関連する単一遺伝子異常として、CADASILの原因となるNOTCH3変異、CADASIL2のHTRA1変異、および微小血管脳卒中、脳出血に関連するCOL4A1/2変異が知られている。CADASILはこれまで10万人に4人程度と報告されてきたが、最近の報告ではNOTCH3変異の陽性は452人に1人程度とされており、英国のUKバイオバンクのデータを用いて検討した。
UKバイオバンクでの40-69歳、2006年-2010年に集められたデータでの前向き研究。454756人の全エクソン解析が行われ、遺伝子解析にはPLINK formatが用いられた。内38332人では3TのMRIにて、拡散テンソル画像等にて、WMH容積、PSMD(骨格化平均拡散率ピーク幅)などを評価した。NOTCH3変異キャリアは973人(467人に1人)、HTRA1変異は546人(832人に1人)、COL4A1/2変異は336人(1353人に1人)で、NOTCH3変異では全脳卒中のハザード比(HR)2.16(1.67-2.74)、虚血性脳卒中2.65(1.96-3.50)、脳出血2.42(1.23-4.22)、血管性認知症5.42(3.11-8.74)などに有意に関連していた。HTRA1変異では全脳卒中1.86(1.30-2.59)、虚血性脳卒中2.01(1.27-3.00)などで有意に関連し、COL4A1/2変異は脳出血3.56(1.34-7.53)でのみ有意に関連していた。MRIでの解析との関連では、NOTCH3変異、HTRA1変異ではWMH容積、PSMDともに有意に増加。中央値12.6年の観察でもNOTCH3変異は脳卒中、血管性認知症、HTRA1変異は脳卒中の発症と関連していた。血管リスクの影響に関しては、フラミンガムリスクスコアFRSにて検討したところ、高FRSは遺伝子変異キャリア、非キャリアともに関連していたが、統計学的には非キャリアのみが有意に関連し、変異キャリアにおいては倍数的相互作用は見られなかった。ただし、NOTCH3変異、HTRA1変異ではFRSでの血管リスクは追加的相互作用は見られた。
このコホート研究では脳卒中の原因となる単一遺伝子異常はこれまで考えられたより頻度が高く、脳卒中、認知症に関連していた。

2022年11月16日水曜日

CKDにおけるエンパグリフロジン

NEJM,2022
Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease

CKDに対してSGLT2阻害薬であるダパグリフロジンは有用性を示したが、eGFR<30の症例に限定されていた。ENPA-KIDNEY試験によるエンパグリフロジンの評価。ベーリンガー・インゲルハイム社の提供あり。8カ国241施設で実施。対象はeGFR20-45のCKDおよびeGFR45-90で尿アルブミン・クレアチニン比200以上のCKD。主要評価項目は末期腎障害への進行(透析、腎移植、eGFR<10、ベースラインのeGFRの40%以下、腎疾患死)。6609人(63.8歳、女性33.2%、糖尿病なし54.0%、平均eGFR37.3±14.5、eGFR<30が34.5%)、中央値2.0年観察、624人が最初の主要イベントとなり、正式な中間評価にて試験終了となった。末期腎障害への進行+腎疾患死はエンパグリフロジン群3304人中432人13.1%vs対照群3305人中558人16.9%で、ハザード比0.72(0.64-0.82,p<0.001)で有意に減らしていた。全入院は24.8vs29.2入院/100人・年でハザード比0.86(0.78-0.95)で減少。心不全入院、全死亡は差なし。末期腎障害への進行のハザード比0.71(0.59-0.89)。有害事象では重篤な尿路感染で1.6%vs1.6%、高カリウム血症2.8%vs3.3%、急性腎障害3.2%vs4.1%で差なし。サブグループ解析でも糖尿病の有無、eGFRの程度によっても主要イベントに差なし。尿アルブミン・クレアチニン比では300以上でエンパグリフロジン群で改善を認めた。

2022年11月9日水曜日

せん妄のリスクを有する948人の患者でのせん妄予防でのラメルテオンとスボレキサントの実臨床での有効性

J Clin Psychiatry,2020,vol.81,no.1
Real-Worid Effectiveness of Ramelteon and Suvorexant for Delirium Prevention in 948 Patients With Delirium Risk Factors

日本の総合病院9施設で2017-2018年の1年間、65歳以上の急性疾患および予定手術で入院し、せん妄リスク(認知症、MCI、股関節骨折、重症疾患、せん妄・不眠の病歴)のあるものを対象とし、訓練されたリエゾン精神科医によって評価を受け、ラメルテオン8mgを19時、ズボレキサント15mgを21時に服用が提案された。
967人の患者(79.6±9.1歳)が評価され、541人がせん妄なし、425人がせん妄ありとされた。せん妄リスクがあるが、せん妄なし541人のうち、ラメルテオン、ズボレキサント投与は401人、投与なし125人でせん妄悪化は15.7%vs24.0%で、多変量解析ではオッズ比0.48(0.29-0.80;P=0.005)で有意に減らした。
せん妄がすでに出ている425人のうち、ラメルテオン、ズボレキサント投与は333人、投与なし89人では、せん妄悪化は39.9%vs66.3%で、オッズ比0.36(0.22-0.59;P<0.0001)で有意に減らした。

2022年11月2日水曜日

結腸直腸癌とその関連死に対して、大腸内視鏡検査によるスクリーニングが影響するか

NEJM,2022,vol.387,no.17
Effect of Colonoscopy Screening on Risks of Colorectal Cancer and Related Death

2009年~2014年で、ポーランド、ノルウェー、スウェーデン、オランダ(オランダのデータは新しい同国の法的規制により使用できず)の55-64歳で、一般市民登録された健康な男女から無作為に抽出された人をスクリーニングとして大腸内視鏡検査を1回受ける様に招待する群と、通常群に、1:2に割付し、フォローアップした(NordICC研究)。主要エンドポイントは10-15年後の大腸癌と、その関連死。84585人の参加者(招待群2822人、通常群56365人、年齢59歳、中央値10.0年観察)で、招待群で実際に大腸内視鏡スクリーニング検査を受けたのは42.0%(ノルウェー60.7%>ポーランド33.0%、60-64歳43.1%>55-59歳40.9%)であった。招待時の内視鏡スクリーニングで、大腸癌と診断されたのは65人0.5%で、腺腫が指摘されたのは30.7%、ポリペクトミー関連の消化管出血は15人0.13%であった。穿孔や内視鏡関連死は認めず。
10年後の大腸癌は招待群vs通常群では0.98%vs1.20%で、リスク比0.82(0.70-0.93)でリスクが18%減少し、10年間で大腸癌1例を予防するためのNNTは455であった。大腸癌による死亡は0.28%vs0.31%、リスク比0.90(0.64-1.16)で差を認めず。全死亡でリスク比0.99であった。