2022年8月31日水曜日

ADHDにおける腸内細菌叢とプロビオティクス(生菌)療法

Progress in Neuropsycopharamacology & Biological Psychiatry,2021
Gut microbiota and probiotic therapy in ADHD: Areviw of current knowledge

ADHD注意欠陥多動性障害は多動、注意障害、衝動的行動を特徴とする神経発達障害で、子供の7.2%が関連するとの報告がある。多因子性であるが、双子の研究から遺伝的要因がよく知られ、ドパミン、セロトニンの伝達遺伝子であるDRD4、DRD5受容体遺伝子の関連が指摘されている。しかしADHDに関連する特定の遺伝子は同定されていない。最近のメタ解析では12の独立した遺伝子、染色体7のFOXP2の重要性が指摘。新しい研究では腸内細菌叢の変化、不均衡の関与が示された。
脳の発達等に腸内細菌叢の影響が報告され、うつ病、統合失調症、自閉症スペクトラム、過敏性腸症候群、パーキンソン病、アルツハイマー病などですでに報告された。腸内細菌叢はドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、GABAの生成、代謝に関連する。
最近ではADHDと腸内細菌叢の関連を示唆した論文は10本ある。腸内細菌叢のプロフィールを16sRNA遺伝子配列解析し、さらにそれらのシャノン指数を用いて検討した。ADHD の病因と症状の原因となる特定の細菌株を明確に示す結果は現時点はない。論文中の潜在的な指標には、ビフィズス菌、ナイセリア、バクテロイデス、フェカリバクテリウム、およびルミノコッカス属などが示された。
小児の研究では抑欝、不安、ストレスに対するプロバイテイクス療法で好ましい結果が示された。ADHDの小児では胃腸重症度指数が高く、便秘や鼓腸の頻度が高い事が報告された。ADHDでのプロバイオティクス補給のRCTの総説では7論文中、認知機能への有効性が示されたのは1論文のみであった。ある予備的なRCTでは32人(4-17歳)のADHDで、ラクトバシラスのプロバイオティクス療法で血清サイトカインの改善を報告した。
今後の研究では、研究方法の統一、同じ年代層の患者比較などが必要。

2022年8月24日水曜日

糖尿病と心不全進展(ARIC研究から)

JACC,2022,vol.79,no.23
Diabetes and Progression of Heart Failure 
-The Atherosclerosis Risk In Communities(ARIC) Study-

ARIC研究は米国4地域15792人が参加した研究であるが、その5回目、2011-2013年の観察6538人で心エコー検査を実施。心不全ステージCやデータ欠損を除外した4774人(75.4±5.1歳、女性58%、DM30%、ステージAのHF32.5%)で検討した。主要評価項目は急性非代償性HFまたは慢性安定HF。8.6年観察し、470HFイベント発生。ステージAのHFでDMなしではHFイベントは3.6/1000人・年に対し、DMありで5.7であった。腎機能、LDLコレステロール、血圧、血圧治療などで調整したハザード比ではステージAでDMなしに対し、DMありでHR1.56(0.86-2.85)、ステージB、DMなしでHR4.16(2.78-6.21)、ステージB、DMありでHR5.32(3.48-8.13)であった。さらにHbA1c≧7.0でみると、DMなし、ステージAに対し、HbA1c≧7.0、ステージAのHFイベントはHR1.52(0.53-4.38)であったが、イベント発生の年齢は若年化し、ステージB、HbAic≧7.0でHR7.56(4.68-12.20)であった。
ステージA、BでのDM管理がHF進展阻止に重要であることが示された。

2022年8月17日水曜日

胆嚢癌とその播種での遺伝子モデル

Annals of Oncology,2014,vol.25
A genetic model for gallbladder carcinogenesis and its dissemination

胆嚢癌自体は2人/10万人の多くない疾患。一方、チリやインドでは3.9~8.6/10万と多い。胆嚢癌では異形成、過形成が重要。胆石症は関連する因子。K-rasやp53変異は癌化に重要。胆石での慢性炎症での化生(metaplasia)も重要。胆嚢癌の播種の関連する遺伝子:p53変異は胆嚢癌の進行での早期に見られる変化の一つ。過形成からの胆嚢癌の経路としてp16/cyclin d1/CDK4の役割も強調された。KRAS変異は癌の59%、胆石関連異形成の73%で認められる。COX-2の過剰発現が胆嚢の癌化の早期に見られた。
胆嚢癌ではEGFR(上皮成長因子受容体)が高頻度(11.3~100%)で発現。正常胆嚢から化成/過形成、異形成でのEGFRの役割の検討が研究中。胆嚢疾患では9つの独立した上皮ムチン遺伝子が同定され、胆嚢疾患ではMUC5ACが過剰生成が見られ、血清MUC5ACレベルが予後不良の予測因子と報告された。
進行した胆嚢癌ではこれまで、ゲムシタビンや5FUなどの化学療法が実施されてきたが、最近の報告では腫瘍形成モデルでの理解から、抗-血管新生、抗HER2/neu、MEK阻害剤の可能性が指摘された。

2022年8月10日水曜日

二分脊椎

NEJM,2022,vol.387,no.5
Spina Bifida review article

妊娠3週の時点で神経管が閉鎖しないと発生し、頭蓋レベルでは無脳症、脊髄レベルでは脊髄髄膜瘤となり、両方だと頭蓋脊椎裂と呼ばれる。神経管閉鎖障害は遺伝的な要因、環境因子によるとされ、後者は母体のDM、高体温、抗てんかん薬、肥満などが関連するとされる。遺伝子は単一遺伝子ではなく複数の遺伝子異常となれ、げっ歯類のモデルではヒトの複雑な症状のモデルは作れていない。環境因子では葉酸が関連し、米国では葉酸の内服およびある種の食品への葉酸の添加が義務付けられている。10万出生あたりの頻度は最貧国で300以上、中所得国54-87、先進国34-37となっている。葉酸の内服時期、量、タイプなどはまだエビデンスがない。ケースコントロールスタディで、母体の赤血球中の葉酸レベルと神経管閉鎖障害が関連するという報告が一つある。
出生前手術を評価したMOMS研究では18歳以上、BMI35以下、妊娠19-26週で前向き、RCTが実施され、脊髄髄膜瘤では出生前手術が出生後手術に比して、30ヶ月の運動機能が優れている、1年後の水頭症の頻度(40%vs82%)、キアリ2型奇形(64%vs96%)であった事が示され、さらにその後の5-10歳での評価(MOMS2研究)でも出生前手術群のADL自立度が優れていた。水頭症に対してVPシャントが施行されるが、1年後のシャント不全が30-40%と報告され、神経内視鏡による第3脳室開窓術が実施されるようになっている。さらに神経内視鏡による脈絡叢のアブレーションも併用され、115人のウガンダでの病児の研究では70%がシャント不要と報告された。さらに東アフリカでの多施設研究が実施中である。二分脊椎でのシャント不全は画像上の悪化を示さない事がある。キアリ2型奇形での重要な症状悪化も画像では悪化を示さず、下部脳神経障害、呼吸障害のみの場合がある。
二分脊椎では膀胱機能の維持が重要で、泌尿器科医の役割が重要。また家族の半数の悩みは排便障害である。また下肢の拘縮、変形、側弯の整形的管理、褥瘡、ラテックスアレルギーへの対応が重要であり、それぞれの専門家での学際的対応が重要である。
今後、胎児鏡治療、硬膜閉鎖での組織エンジニアリング、幹細胞技術、膀胱神経刺激治療、側弯症での磁気制御成長ロッドなどの進歩が期待される。

2022年8月3日水曜日

妊娠中のワクチン接種と乳児のCovid-19による入院リスク

NEJM,2022,vol.387,no.2
Maternal Vaccination and Risk of Hospitalization for Covid-19 among Infants

妊娠中のCovid-19ワクチンにより、臍帯血、母乳、乳児の血清から抗体が検出される事、さらに妊娠中のワクチン接種は妊娠中のCovid-19感染よりも最初の6ヶ月は高い抗体価が得られる事が報告されている。診断陰性例コントール試験のデザインで、6ヶ月未満の乳児の妊娠中のワクチン接種の効果を検討した。2021年7月~2022年3月、米国22州30病院に入院した1327例を登録。妊娠前にワクチン接種が済んでいるものの大部分は除外して検討。コロナ症例537例(181例はデルタ株優勢期、356例はオミクロン株優勢期)、コロナ陰性の対照例512例で検討した。ワクチンはファイザー社製、モデルナ社製。平均年齢は2ヶ月。コロナ群19%、対照群24%に1つ以上の基礎疾患あり。234例が妊娠中にワクチン接種を受けた。コロナ群の妊娠中ワクチン接種あり16%、対照群29%。コロナ群でワクチン接種なし、ありではICU入室23%vs13%、重症12%vs9%。妊娠中のワクチン接種で、6ヶ月未満の乳児のコロナ入院予防の有効率52%(95%CI:33-65)、ICU入室には70%(42-85)であった。デルタ株優勢期では80%(60-90)、オミクロン株で38%(8-58)。妊娠20週以降のワクチン接種で有効率69%(50-80)、20週以内の接種で38%(3-60)であった。