2023年10月25日水曜日

ICUでの早期の経静脈栄養のない場合の厳格な血糖コントロール

NEJM,2023,vol.389,no.13
Tight Blood-Glucose Control without Early Parenteral Nutrition in ICU

ICUでの高血糖は予後不良と関連しているが、血糖の厳格なコントロールについては、利益と害が報告されている。早期の経静脈栄養を実施していない、重症患者で、厳格な血糖コントロールの有効性をコンピュータアルゴリズムを用いて検討した。多施設無作為化試験として実施。2018年~2022年、ベルギーの11のICUで実施。緩い血糖コントロール群(リベラル群)、厳格群に1:1に無作為化。リベラル群は血糖215以上でインスリン使用。厳格群はLOGIC-Insulinコンピュータアルゴリズムを用いて血糖80-110になるようにインスリン使用。両群とも中心静脈から経静脈的にインスリン投与。介入は経口摂取が開始さCVカテが不要になった時点で終了。経静脈栄養はICU入室後。1週間後のみとした。主要評価項目はICU入室期間。9230人が無作為化され、4622人がリベラル群(中央値67歳、弾性62.8%、DM20.7%、敗血症28.3%)4608人が厳格群に割付。ICU入室期間は両群で差はなく、90日後の死亡も10.1%vs10.5%で差なし。サブ解析では神経疾患、神経外科疾患では厳格群の方が死亡に関して良好な傾向を認めた。

2023年10月18日水曜日

抑うつ状態を伴い、転倒を繰り返し、身の回りの事ができなくなってきた65歳女性

NEJM,2022,vol.386,no.10
Case Records of the MGH
Case 7-2022:A 65-Year-Old Woman with Depression, Recurrent Falls, and Inability to Care for Herself

4年前にうつ病と診断され、ブプロピオン、シタロプリム投与、認知行動療法を受けていた。4週前、自動車運転中に居眠りをし交通事故を起こす。事故後、悲嘆、不活発、身の回りの事が不能の状態になったと本人は言う。その後、バランスが取りにくくなり、歩行時に歩行器を使用するようになる。歩行はワイドベースで、やや左下肢を引きずっていた。造影脳MRIではT2WIで橋に造影されない病変、右半卵円中心に拡散画像のADC-mapで低信号を認めた。筋電図、神経伝導検査は異常なし。その後、理学療法、認知行動療法が継続。その後の診察では、片麻痺様の歩行を認めたが、トレッドミル上は正常に歩行できていた。また左手は常に胸部の上で動かなかったが、夫に挨拶をする際に、左手を上げていた。機能性神経障害との診断とされた。その後、リハビリテーションセンターに移ったが、注意、記憶、遂行機能に問題を認め、左への注意障害を認めた。このため、再診となった。痛み刺激に対して、左手をひっこめる事は不可能であったが、左下肢を重力に抗して動かすことはできた。

鑑別診断
機能性神経障害
神経局在:右半球
神経変性疾患:異染性白質ジストロフィー、クラッベ病、CADASIL
感染症
脳静脈洞血栓症
primary angitis of CNS
CNSリンパ腫

→脳生検:びまん性B細胞リンパ腫

2023年10月11日水曜日

意識の変容および新規発症のけいれんをきたした38歳、男性

NEJM,2021,vol.385,no.20
Case Records of the MGH
Case 34-2021: A 38-Year-Old Man with Altered Mental Status and New Onset of Seizures

前夜まで健康。妻によると午前4時頃、ベッドから転落し、床で痙攣。警察が呼ばれ、救急搬送。DX:110mg/dL。ER到着時、全身性強直間代性痙攣、2分持続。ロラゼパム静注投与。彼の妻、兄、妹から病歴聴取。元来健康で、腹腔鏡下虫垂切除術の既往。20年前にグアテマラからボストンに移住。ごくたまに飲酒するが、喫煙、ドラッグはしない。体温36.4度、脈拍120、酸素飽和度95%、開眼し、不随意に眼球の上転あり。GCS:6点。
7分後、ロラゼパム追加。患者は昏迷状態で、体動著明。気管内挿管。

鑑別診断
グアテマラからの移住→風土病、寄生虫の中枢神経感染
有鉤条虫症:有鉤条虫による。遅発性石灰化による痙攣で発症。中枢神経の画像上の病変のあるものの10-50%でてんかんを発症。米国では南カリフォルニア、テキサス、NYでは条虫症は広く認められる。
トキソプラズマ症:けいれんをきたす他の寄生虫疾患。トキソプラズマ症による脳炎では発熱、頭痛、痙攣を伴い、画像ではリングエンハンスされる多発病変。しかし、正常免疫状態では稀。
脳腫瘍:成人の新規発症痙攣の別の原因。
ほかのmimic:脳血管障害、TIA、中毒、意識消失発作、片頭痛、精神症状

脳CT(単純):右前頭葉、左後頭葉、右側頭葉内側に小さな石灰化影。
ガドリニウム造影脳MRI:右前頭葉の病変はリングエンハンスあり、FLAIRではその周囲に浮腫あり。
EITB(Enzyme-linked immunoelectrotransfer blot assay)による有鉤嚢虫抗体は陰性
トキソプラズマ、糞線虫、梅毒トレポネーマ、結核IGRA等は陰性。
有鉤条虫症の病変が石灰化病変のみの場合のEITBの感度は低い。
→有鉤条虫症と診断、アルベンザゾール、プラジカンテル、ステロイド、レベチラセタムで治療。

2023年10月4日水曜日

肝機能検査異常を呈した56歳、男性

NEJM,2023,vol.388,no.5
Case Records of the MGH
Case 4-2023: A 56-Year-Old Man with Abnormal Results on Liver Testing

3年前にAST、ALT、ALPの高値が指摘され、HCV抗体陽性であったが、HCV-RNAは検出感度以下であった。7ヶ月前、3週間続く、左手関節の疼痛、腫脹、紅斑を認め、ライム病抗体、リウマチ因子は陰性であった。関節炎に対し、10日間のプレドニゾロンが投与され、改善。6ヶ月前、左前腕に疼痛を伴う皮疹を認め、汎血球減少、凝固能異常、ALT、AST、ALP上昇を認めた。皮膚生検では非特異的な化膿性、肉芽腫性の皮膚炎を認めた。くも状血管腫を認め、血清マーカによる肝線維化テスト(FibroTest)では0.96で重度線維化であった。MRCPでは脾腫、門脈血栓症、胃周囲・食道周囲・脾腎側副血管を認めた。3ヶ月前、意識レベル低下、幻覚で入院。アンモニア値99であった。抗核抗体陰性、抗ミトコンドリア抗体陽性。

鑑別診断
PBC、PBC関連のリウマチ因子陰性関節炎
PBCと他の免疫介在疾患のオーバーラップ症候群
肝硬変に伴う門脈圧亢進症
門脈肺高血圧

肝生検ではPBC。心エコーで右室圧上昇が示唆。心カテにて、平均肺動脈圧55mmHg(正常<20)、肺動脈楔入圧12(正常<15)、肺血管抵抗8.5Wood unit(正常<3)で前肺毛細血管性肺高血圧あり。

最終診断:門脈肺高血圧を伴うPBC