2023年12月27日水曜日

糖尿病のない肥満患者でのセマグルチドによる心血管イベント予防

NEJM,2023,vol.389,no.24
Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes

多施設二重盲検試験、41か国、804施設で実施。ノボ・ノルディスク社の資金提供あり。45歳以上で、BMI≧27、糖尿病なしで心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患)の既往のあるもの。HbA1c≧6.5、90日以内のGLP-1作動薬使用歴のあるもの、NYHAⅣの心不全、末期腎不全は除外。1:1に割付し、セマグルチド群は4週ごとに0.5→1.0→1.7→2.4㎎/週まで増量。妊娠、膵炎発症、カルシトニン濃度≧100ng/Lになれば、中止。主要評価項目は心血管死+心筋梗塞+脳卒中の複合。2018年10月~2021年3月まで実施、17604例がランダム化され、セマグルチド群8803例(61.6歳、男性72.2%、白人83.9%、BMI:33.3)対照群8801例。観察期間39.8ヶ月。心血管死+心筋梗塞+脳卒中は6.5%vs8.0%でハザード比0.80(0.72-0.90、p<0.001)であった。体重減少は-9.39%vs-0.88%。有害事象は16.6%vs8.2%で、胃腸障害が10.0%vs2.0%であった。

2023年12月20日水曜日

英国での心不全で鉄欠乏性貧血の患者での鉄デリイソマルトースの静脈投与(IRONMAN研究)

Lancet,2022,vol.400
Intravenous ferric derisomaltose in patients with heart failure and iron deficiency in the UK(IRONMAN): an investigator-initiated, prospective, randomised, open-label,blinded-endopoint trial

英国で70施設でPROBE法で実施。18歳以上、フェリチン<100μg/Lまたはトランスフェリン飽和度<20%で、LVEF<45%で、6か月以内に心不全入院歴があり、NT-proBNPが洞調律で250以上、AFで1000以上を対象とした。フェリチン≧400、Hb<9は除外。Hb≧14(男)、Hb≧13(女)も除外。デルイソマルトース第二鉄群(以下、鉄静注群)は同剤を20mg/㎏投与。主要評価項目は心不全入院+心血管死。2016年8月~2021年10月まで実施され、鉄静注群569例(73.2歳、女性25%、NYHA Ⅱ58%、Ⅲ40%、AF50%、LVEF32%)、通常治療群568例(73.5歳、女性28%)。中央値2.7年(IQR:1.8-3.6)観察され、心不全入院+心血管死は22.4%vs27.5%で、推計治療効果0.82(0.66-1.02,p=0.070)であった。二次評価では心血管死+心不全・脳卒中・心筋梗塞の入院で37%vs43%、推計治療効果0.83(0.69-1.00,p=0.045)であった。
デルイソマルトース第二鉄の静脈内投与は、心不全や心血管死による入院リスクの低下と一定関連していた。

2023年12月13日水曜日

高次医療機関での成人重症患者でのズボレキサント、レンボレキサントによるせん妄予防

J Clin Psychiatry,2023,vol.84,no.1
Evaliation pf Suvorexant and Lemborexant for the Prevention of Delirium in Adult Critically Ill Patients at an Advanced Critical Care Center : A Single-Center, Retrospective, Observational Study

デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)の重症疾患でのせん妄予防効果を観察的研究として検討した。佐賀医大付属病院ERに2018-2021年に入院した重症患者。DORAを内服していないもの、およびせん妄出現後にDOPAが開始されたものを対照群とし、DORA(ズボレキサント、レンボレキサント)内服群と比較検討した。3346例が登録され、入院期間が72時間以内のもの、18歳未満、頭蓋内占拠病変のあるもの、退院まで昏睡状態のもの、アルコール離脱症状の高リスク群などを除外した633例で、DORA群123例(71歳、男性57.7%)、対照群510例(69歳、男性63.5%)で検討した。
Cox回帰分析では、せん妄増悪のハザード比は、ズボレキサントで0.56(0.36-0.86)、レンボレキサントで0.26(0.11-0.62)と低くなっていた。せん妄リスク因子で調整すると、ズボレキサント0.34(0.20-0.58)、レンボレキサント0.21(0.08-0.52)であった。ラメルテオンの併用率はDORA群48.8%、対照群15.5%であった。

2023年12月6日水曜日

右股関節痛をきたした鎌状赤血球症の29歳男性

NEJM,2023,vol.389,no.22
Case Records of the MGH
Case 37-2023:A 29-Year-Old Man with Sickle Cell Disease and Right Hip Pain

年に3-4回、鎌状赤血球症(SCD)による血管閉塞痛の入院歴あり。SCDによる阻血性骨壊死により、両股のTHAの既往あり。胸椎の圧迫骨折もあり。2日前より、いつもと異なる右股関節痛。37.8度発熱。白血球15680、CRP:100.6mg/L、赤沈113mm。

鑑別診断
下肢静脈血栓症、骨壊死、骨髄炎
好気性ボトルの血培2セットにて、グラム陰性桿菌。MALDI‒TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析)によりキャンピロバクター・フェトゥスと判明。
診断
キャンピロバクター・フェトゥスによる菌血症、骨髄炎

2023年11月29日水曜日

抑うつ状態と低血圧をきたした13歳少年

NEJM,2023,vol.388,no.21
Case Records of the MGH
Case 16-2023:A 13-Year-Old Boy with Depression and Hypotension

ADHD、境界型パーソナリティ障害、大うつ病の既往のある少年。抑うつ状態の悪化、自傷行為でERへ搬送。グアンファシン、ルラシドンを含む薬物治療中。自傷行為と精神不安定が続いていた。ER入院翌日朝はBP146/87、HR52であったが、その12時間後、BP69/39、HR88で立ち眩みの訴え。顔面蒼白あり。血液・尿のスクリーニング異常なし。腹部造影CT異常なし。輸液治療、VCM点滴開始。

ショックの鑑別診断:distributive shock, hypovolemic shock, cardiogenic shock, obstructive shock
低血圧だが、頻脈、発熱、他の検査異常を伴っておらず、低血圧の前に一過性の血圧上昇、徐脈を伴っていた。以上から、グアンファシン、クロニジンによる交感神経系の抑制による低血圧を疑う。
→グアンファシンのボトルが患者のベッドサイドに放置された時間帯があり、本人が過剰に内服した事と証言された。

2023年11月22日水曜日

好酸球数で定義された2型炎症のCOPDでのデュプリマブの効果

NEJM,2023,vol.389,no.3
Dupilumab for COPD with Type 2 Inflammation Indicated by Eosinophil Counts

好酸球増多を伴うCOPDでのデュプリマブ(IL-4、IL-13を阻害)の効果をBOREAS研究として実施。Phase3、多施設、二重盲検試験として実施。24か国、275施設で実施。対象は1秒率70%以下、気管支拡張剤吸入後の対標準1秒量30~70%、MRCスケール2以上で、好酸球数≧300、少なくとも2回以上の中等度急性増悪or1回以上の重度急性増悪歴があり、吸入ステロイド+LAMA-LABA治療中。1対1でデュプリマブ300mg、プラセボに割付。サノフィ社の資金提供あり。主要評価項目はCOPDの中等度、重度急性増悪。デュプリマブ群468例、対照群471例、年齢65.1歳、男性66.0%、白人84.1%、喫煙既往者70%、現喫煙者30%、好酸球数平均401、FENO24.33ppb。52週間観察され、COPD急性増悪は0.78vs1.10、レート比0.70(0.58-0.86)で有意に急性増悪を減らした。12週、52週でのベースラインからの1秒量の改善も有意に良好。ベースラインからのSGRQスコアも有意に改善。

2023年11月15日水曜日

成人での急性限局性細菌性腎炎の臨床特徴

Scientific Reports,2022,vol.12
Clinical features of acute focal bacterial nephritis in adults

急性限局性細菌性腎炎AFBNは急性腎盂腎炎と腎膿瘍の中間的な病態と理解され、小児での報告例は多いが、成人例ではまれである。中国河北省石家荘市にある河北大学第2病院で2014-2019年にAFBNと診断された238例について検討した。AFBNは全例、造影CTで楔形の非造影区域があるものor非造影のmassがあるものとした。中央値46.9歳、DM28.6%、尿管結石17.2%、前立腺疾患4.6%を合併。症状は発熱が主で、抗菌薬開始後も4日以上持続していた。尿培養陽性38.2%、血培陽性6.3%のみ。大腸菌が86.7%で最多。AFBNが両側性のもの48.7%であった。エコー検査は過去の報告では感度90%、特異度86.4%で腎腫大を認めるとされてきたが、本検討では腎腫大は21.9%に認めるのみで、低エコーのmassは2例0.84%のみであった。
急性腎盂腎炎で抗菌薬開始4日後も発熱が持続する場合はAFBNを疑い、その場合、造影CTがゴールドスタンダードであるが、MRI検査も良いオプションと考えられる。(MRIでT2WIで高信号、T1WIで低信号のmassとして描出される)

2023年11月1日水曜日

成人の自己免疫性脳炎の誤診

NEJM,2023,vol.80,no.1
Autoimmune Encephalitis Misdiagnosis in Adults

多くの論文では自己免疫性脳炎の見落としが強調されている。自己免疫性脳炎は中毒性や代謝性脳症、機能性神経障害、一次性精神疾患、神経変性疾患、腫瘍、てんかん等との鑑別困難な場合があり、メイヨー・クリニック、オックスフォード大学などの専門センターでの自己免疫性脳炎の誤診を後方視的に検討した。18歳以上の自己免疫性脳炎と診断された393例を後に精査した結果、107例27.2%に誤診が発見された。107例は中央値48歳(35.5-60.5歳)、発症から正しい診断までの期間は16(7-40)ヶ月。41%に自己免疫性疾患の合併を伴い、その内77%が自己免疫性甲状腺疾患であった。48%が緩徐進行性であった。72%が自己免疫性脳炎の診断基準(2016年の基準のパート1、2)を満たしていなかった。
誤診されたものでは62例中24例で甲状腺自己抗体が陽性。神経抗体陽性は105例中血清で48例46%が陽性(GAD65抗体14例、VGKC抗体10例、NMDAR抗体10例など)、髄液91例中7例(NMDAR抗体4例、VGKC抗体1例、GAD65抗体1例等)が陽性。脳波では79例中31例で異常所見を認め、16例でてんかん様所見を認めた。髄液オリゴクローナルバンド陽性は82例中7例。髄液中の抗NMDAR陽性は4例で、HIV関連脳症、異形成アストロサイトーマ、機能性神経障害、前頭側頭型認知症であった。誤診の結果、免疫治療は84例に実施され、内17例に治療関連の有害事象を認めた。誤診に至った理由は自己抗体の過剰な解釈50%、画像が自己免疫性脳炎と一致していた14%、異常髄液所見8%であった。
甲状腺自己抗体は成人で13%、60歳以上で20%であり、神経自己抗体も5%以上に発現するとされ、神経自己抗体を解釈する際、事前確率(有病率)が低い=陽性予測値は高くないこと、検査方法(ウエスタンブロット法、ラインブロット法、イムノブロット法では偽陽性も多く、慎重に解釈する必要がある。

2023年10月25日水曜日

ICUでの早期の経静脈栄養のない場合の厳格な血糖コントロール

NEJM,2023,vol.389,no.13
Tight Blood-Glucose Control without Early Parenteral Nutrition in ICU

ICUでの高血糖は予後不良と関連しているが、血糖の厳格なコントロールについては、利益と害が報告されている。早期の経静脈栄養を実施していない、重症患者で、厳格な血糖コントロールの有効性をコンピュータアルゴリズムを用いて検討した。多施設無作為化試験として実施。2018年~2022年、ベルギーの11のICUで実施。緩い血糖コントロール群(リベラル群)、厳格群に1:1に無作為化。リベラル群は血糖215以上でインスリン使用。厳格群はLOGIC-Insulinコンピュータアルゴリズムを用いて血糖80-110になるようにインスリン使用。両群とも中心静脈から経静脈的にインスリン投与。介入は経口摂取が開始さCVカテが不要になった時点で終了。経静脈栄養はICU入室後。1週間後のみとした。主要評価項目はICU入室期間。9230人が無作為化され、4622人がリベラル群(中央値67歳、弾性62.8%、DM20.7%、敗血症28.3%)4608人が厳格群に割付。ICU入室期間は両群で差はなく、90日後の死亡も10.1%vs10.5%で差なし。サブ解析では神経疾患、神経外科疾患では厳格群の方が死亡に関して良好な傾向を認めた。

2023年10月18日水曜日

抑うつ状態を伴い、転倒を繰り返し、身の回りの事ができなくなってきた65歳女性

NEJM,2022,vol.386,no.10
Case Records of the MGH
Case 7-2022:A 65-Year-Old Woman with Depression, Recurrent Falls, and Inability to Care for Herself

4年前にうつ病と診断され、ブプロピオン、シタロプリム投与、認知行動療法を受けていた。4週前、自動車運転中に居眠りをし交通事故を起こす。事故後、悲嘆、不活発、身の回りの事が不能の状態になったと本人は言う。その後、バランスが取りにくくなり、歩行時に歩行器を使用するようになる。歩行はワイドベースで、やや左下肢を引きずっていた。造影脳MRIではT2WIで橋に造影されない病変、右半卵円中心に拡散画像のADC-mapで低信号を認めた。筋電図、神経伝導検査は異常なし。その後、理学療法、認知行動療法が継続。その後の診察では、片麻痺様の歩行を認めたが、トレッドミル上は正常に歩行できていた。また左手は常に胸部の上で動かなかったが、夫に挨拶をする際に、左手を上げていた。機能性神経障害との診断とされた。その後、リハビリテーションセンターに移ったが、注意、記憶、遂行機能に問題を認め、左への注意障害を認めた。このため、再診となった。痛み刺激に対して、左手をひっこめる事は不可能であったが、左下肢を重力に抗して動かすことはできた。

鑑別診断
機能性神経障害
神経局在:右半球
神経変性疾患:異染性白質ジストロフィー、クラッベ病、CADASIL
感染症
脳静脈洞血栓症
primary angitis of CNS
CNSリンパ腫

→脳生検:びまん性B細胞リンパ腫

2023年10月11日水曜日

意識の変容および新規発症のけいれんをきたした38歳、男性

NEJM,2021,vol.385,no.20
Case Records of the MGH
Case 34-2021: A 38-Year-Old Man with Altered Mental Status and New Onset of Seizures

前夜まで健康。妻によると午前4時頃、ベッドから転落し、床で痙攣。警察が呼ばれ、救急搬送。DX:110mg/dL。ER到着時、全身性強直間代性痙攣、2分持続。ロラゼパム静注投与。彼の妻、兄、妹から病歴聴取。元来健康で、腹腔鏡下虫垂切除術の既往。20年前にグアテマラからボストンに移住。ごくたまに飲酒するが、喫煙、ドラッグはしない。体温36.4度、脈拍120、酸素飽和度95%、開眼し、不随意に眼球の上転あり。GCS:6点。
7分後、ロラゼパム追加。患者は昏迷状態で、体動著明。気管内挿管。

鑑別診断
グアテマラからの移住→風土病、寄生虫の中枢神経感染
有鉤条虫症:有鉤条虫による。遅発性石灰化による痙攣で発症。中枢神経の画像上の病変のあるものの10-50%でてんかんを発症。米国では南カリフォルニア、テキサス、NYでは条虫症は広く認められる。
トキソプラズマ症:けいれんをきたす他の寄生虫疾患。トキソプラズマ症による脳炎では発熱、頭痛、痙攣を伴い、画像ではリングエンハンスされる多発病変。しかし、正常免疫状態では稀。
脳腫瘍:成人の新規発症痙攣の別の原因。
ほかのmimic:脳血管障害、TIA、中毒、意識消失発作、片頭痛、精神症状

脳CT(単純):右前頭葉、左後頭葉、右側頭葉内側に小さな石灰化影。
ガドリニウム造影脳MRI:右前頭葉の病変はリングエンハンスあり、FLAIRではその周囲に浮腫あり。
EITB(Enzyme-linked immunoelectrotransfer blot assay)による有鉤嚢虫抗体は陰性
トキソプラズマ、糞線虫、梅毒トレポネーマ、結核IGRA等は陰性。
有鉤条虫症の病変が石灰化病変のみの場合のEITBの感度は低い。
→有鉤条虫症と診断、アルベンザゾール、プラジカンテル、ステロイド、レベチラセタムで治療。

2023年10月4日水曜日

肝機能検査異常を呈した56歳、男性

NEJM,2023,vol.388,no.5
Case Records of the MGH
Case 4-2023: A 56-Year-Old Man with Abnormal Results on Liver Testing

3年前にAST、ALT、ALPの高値が指摘され、HCV抗体陽性であったが、HCV-RNAは検出感度以下であった。7ヶ月前、3週間続く、左手関節の疼痛、腫脹、紅斑を認め、ライム病抗体、リウマチ因子は陰性であった。関節炎に対し、10日間のプレドニゾロンが投与され、改善。6ヶ月前、左前腕に疼痛を伴う皮疹を認め、汎血球減少、凝固能異常、ALT、AST、ALP上昇を認めた。皮膚生検では非特異的な化膿性、肉芽腫性の皮膚炎を認めた。くも状血管腫を認め、血清マーカによる肝線維化テスト(FibroTest)では0.96で重度線維化であった。MRCPでは脾腫、門脈血栓症、胃周囲・食道周囲・脾腎側副血管を認めた。3ヶ月前、意識レベル低下、幻覚で入院。アンモニア値99であった。抗核抗体陰性、抗ミトコンドリア抗体陽性。

鑑別診断
PBC、PBC関連のリウマチ因子陰性関節炎
PBCと他の免疫介在疾患のオーバーラップ症候群
肝硬変に伴う門脈圧亢進症
門脈肺高血圧

肝生検ではPBC。心エコーで右室圧上昇が示唆。心カテにて、平均肺動脈圧55mmHg(正常<20)、肺動脈楔入圧12(正常<15)、肺血管抵抗8.5Wood unit(正常<3)で前肺毛細血管性肺高血圧あり。

最終診断:門脈肺高血圧を伴うPBC

2023年9月27日水曜日

虚血性の左室機能低下でのPCI後の不整脈、死亡について-REVIVED-BCIS2研究での事前に明示された解析より

Circulation,2023,vol.148
Arrhythmia and Death Following Percutaneous Revascularization in Ischemic Left Vntricular Dysfunction: Prespecified Analyses From the REVIVED-BCIS2 Trial 

REVIVED-BCIS2研究では虚血性の左心機能低下でPCIは全死亡および心不全入院を減らさなかった。同研究で、全死亡+重大な不整脈イベントが減らせるか検討した。LVEF<35%の虚血性心疾患で、PCI+薬物療法群、薬物療法群のみの1対1に割付。経過中、ICDなどの植込みはそれぞれの裁量。主要評価項目は全死亡+予防された突然死(ICDの正常な作動、心停止からの救命)。2695人がスクリーニングされ、700例がランダム化され、347例がPCI群(70.0±9.0歳、男性87.0%、ICD13.0%、CRT-D9.0%、AF16.9%)、353例が薬物治療のみ群(OMT群、68.8±9.1歳)に割付。中央値41ヶ月観察され、全死亡+予防された突然死はPCI群vsOMT群で41.6%vs40.2%で、修正ハザード比1.02で有意差を認めず。二次評価項目の心血管死+予防された突然死で、ハザード比0.94で有意差を認めず。

2023年9月13日水曜日

発熱、下肢痛の18歳男性

NEJM,2023,vol.389,no.7
Case Records of the MGH
Case 25-2023: An 18-Year-Old Man with Fever and Foot Pain

ドラベ症候群(Naチャンネルα1サブユニットをコードする遺伝子変異による疾患)による痙攣を生後6か月で発症。発達障害、歩行障害を伴う。
2ヵ月前、両親は転倒後に左下肢の腫脹に気付き、ER受診しXPで異常なしとされた。2週前、左下肢腫脹が増悪し、下肢のMRIが施行され、足部に骨髄の浮腫が指摘されたが、骨折や関節水腫は認めず。副鼻腔炎の疑いでAMPC開始。その後38.3度の発熱。XPでは第2中足骨、立方骨に骨折あり。痙攣発作頻度が2-3日に1回から1日に2-3回に増加。歯肉炎があり、2週前より歯肉、鼻腔からの出血増加。軟便持続。CRP:2.39→7.4に悪化。鼻咽腔での感染症検査(SARS-CoV2、アデノ、ヒトメタニューモ、インフルエンザ、パラインフルエンザ、RS、ライノ、エンテロ等陰性。新たに圧痛のない紫斑が指、手、つま先に出現。患者はケトン食を実施していたが、7か月前にCOVID19を発症し、その際、嘔吐が改善するまでケトン食を減らしていた。

鑑別診断
骨髄炎
悪性疾患(リンパ腫、骨肉腫、ユーイング肉腫)
歯肉炎→ビタミンC欠乏、ビタミンC欠乏では血管脆弱性から出血傾向。ビタミンCは骨格系に重要な役割を果たし、骨芽細胞の遺伝子発現に関与し、ビタミンC欠乏では骨折リスクが増大。
診断的検査:ビタミンC濃度:0.1mg/dL以下(正常0.4-2.0)、ビタミンB1:68nmol/L(70-180)、B6:2μg/L(5-50)、25ヒドロキシビタミンD:23ng/mL(20-80)
診断:(ケトン食に関連した)ビタミンC欠乏

2023年9月6日水曜日

SARS-CoV-2感染の脳や記憶への長期の影響

Cell Death Discovery,2023,vol.9
Long-term effects of SARS-CoV-2 infection on human brain and memory

COVID-19後、様々な症状が2ヶ月以上続く場合をLong-COVID症候群と呼ぶ様になっており、COVID-19後10-15%に見られるとされる。SARS-CoV-2の脳への考えられる感染経路。1)鼻腔粘膜細胞の多くにはACE2受容体が発現。嗅神経から直接、脳へ侵入。2)感染量が多い場合、全身のACE2受容体、可溶性ACE2受容体に結合し、BBBを細胞結合を介してまたはBBB周囲を破壊し脳へ侵入。3)結膜炎→視神経→脳へ侵入などが考えられている。脳内では脈絡叢細胞、灰白質や嗅球でACE2受容体が発現している。さらに嗅神経等に発現しているNRP1などもSARS-CoV-2感染に関連している。
SARS-CoV-2感染前後の脳MRIを比較して、脳容積減少のエビデンスがある。SARS-CoV-2は他のウイルスに比してパーキンソニズムの増加、アルツハイマー病様の神経病理を引き起こすエビデンスがある。
SARS-CoV-2感染ではウイルス複製とは別にスパイク蛋白による細胞融合=合胞体は、重症肺炎や重度の免疫反応を起こすが、神経変性疾患と関連するとされる。
SARS-CoV-2感染では記憶に影響する。それは小児でも報告されている。その機序はサイトカイン、合胞体形成が関連している。海馬でのミクログリアの活性化、IL-6などのサイトカイン増加により記憶が障害されるとされる。軽症~中等症でのCOVID-19では髄液中にウイルスRNAは検出できず、サイトカイン増加等が重要視される。重度のCOVID-19では10%に血液、心筋、脳に対する自己抗体が検出され、Long-COVIDでの症状を説明できるかもしれない。
SARS-CoV-2の3ヶ月以上の持続感染が報告されているが、脳でのサイトカイン発現の長期刺激が脳機能や記憶に影響を与えているかもしれない。さらにウイルスがなくてもスパイク蛋白のみで神経炎症、行動異常を引き起こすとする報告がある。

2023年8月30日水曜日

市中肺炎

NEJM,2023,vol.389,no.7
Clinical Practice Community-Acquired Pneumonia

米国では肺炎での入院は人口10万人あたり年間成人650人とされる。
市中肺炎で多い病原菌、グラム陽性球菌:肺炎球菌、MSSA、化膿性連鎖球菌など連鎖球菌。グラム陰性桿菌:ヘモフィルス、モラクセラ、腸内細菌(クレブシエラなど)。非定型肺炎:レジオネラ、マイコプラズマ、クラミジア。呼吸器系ウイルス:インフルエンザ、SARS-CoV-2、RSウイルス、パラインフルエンザ、ヒトニューモメタウイルス、ライノウイルスなど。多くない病原菌、グラム陽性球菌:MRSA、ノカルジア。グラム陰性桿菌:ESBL産生性・カルバペネム耐制腸内細菌。非定型肺炎:クラミジア・シッタシ、コクシエラなど
肺炎の重症度:CURB65で評価。0-1点は外来治療。2点:短期間入院または外来での頻回観察。3-5点入院推奨。
市中肺炎の外来治療:ATS-IDSAガイドラインでは、AMPC1g×3、ドキシサイクリン100mg×2またはアジスロマイシンまたはCAM500mg×2。マクロライド系は肺炎球菌の耐制が25%以下の地域に考慮されるべきで、米国では30%以上となっている。
市中肺炎の入院治療:呼吸器が必要or敗血症性ショックの場合、PIPC/TAZorセフェピムorセフタジジムorIPMorMEPM+アジスロマイシンorCAMorドキシサイクリンorLVFX+VCMorリネゾリド。PIPC/TAZ+VCMの併用は急性腎障害と関連があり、一般的には可能な限り避ける。重症市中肺炎のグルココルチコイド使用は最近、ベネフィットが示されているが、インフルエンザ、アスペルギルスでは避けるべきである。市中肺炎治療では病原菌の同定に伴いde-escalationが行われるべきであるが、特定できない場合、エンピリカル治療は継続すべき。鼻腔のスワブでMRSA非検出の場合、抗MRSA治療は中止できる。適切な治療であれば48時間で解熱し、3日で安定する。最低5日間は抗菌薬を継続すべき。

2023年8月23日水曜日

プライマリケアにおける高齢者でのアスピリン投与中のピロリ菌除菌、HEAT研究

Lancet,2022,vol.400
Helicobacter pylori eradication for primary prevention of peptic ulcer bleeding in older patients prescribed aspirin in primary care(HEAT): a randomised, double-blind,placebo-controlled trial

英国のプライマリケア1208施設で60歳以上、アスピリン325㎎以下の投与を内服中、ピロリ菌尿素呼気検査陽性を対象とし、胃潰瘍で治療中は除外。対象を1:1に無作為化し、実薬群にはCAM500mg、メトロニダゾール400mg、ランソプラゾール30mg投与。30166例にピロリ菌呼気検査が実施され、5367例がピロリ菌陽性。除菌治療群2677例、プラセボ群2675例に割付。主要評価項目は出血性胃潰瘍による入院or死亡。介入後3.95年後に10%の人に追加のピロリ菌検査を実施したところ、除菌治療群は90.7%にピロリ菌陰性。プラセボ群でも24.0%が陰性化していた。中央値5年の観察では2.5年未満ではイベントは0.92vs2.61/1000人・年で、ハザード比0.35(0.14-0.89)と有意にリスクを減らしていたが、2.5年以上では、1.75vs1.33/1000人・年、ハザード比1.31(0.69-2.56)と差を認めなかった。

2023年8月16日水曜日

進行性の呼吸困難をきたした21歳男性

NEJM,2023,vol.389,no.4
Case Records of the MGH
Case 23-2023: A 21-Year-Old Man with Progressive Dyspnea

数か月前よりバレーボール、キャンパス内の歩行時に呼吸困難を自覚。6日前に家庭医受診、検査実施。心電図では右脚ブロック、右室肥大所見を認め、心エコーでも著明なhypokinesiaを伴う右室肥大、右室圧84mmHg、重度TRを認めた。室内気での酸素飽和度93%であった。血液検査ではAST:61、ALP:160。造影CTでは肺塞栓症は否定的。現症では肺性P音、バチ状指を認め、肝脾腫認めず。

鑑別診断:右室圧上昇する病態、1)肺動脈高血圧、3)肺疾患、低酸素血症に伴う肺高血圧、4)慢性肺動脈血栓塞栓症、5)前毛細血管性の肺高血圧、2)左心不全に関連する後毛細血管性の肺高血圧に分けて考える。
この患者では造影肺CTでは、肝に一部石灰化陰影、下大静脈拡大を認めた→肝動静脈・門脈系の異常が肺高血圧の原因ではないか。
→造影MRI等による最終診断:先天性肝外門脈大循環シャント(アバネシ奇形)
→本患者では肝移植が実施され、その後のカテーテル検査では右室圧は正常化した。

2023年8月9日水曜日

重症市中肺炎での治療でのコルチコステロイドの追加の効果と安全性、ランダム化試験のメタ解析

Critical Care,2023,vol.23,no.274
Efficacy and safety of adjunctive corticosteroids in the treatment of severe community-acquired pneumonia: a systematic review and meta-analysis of randomized contolled tiral

2023年の大規模RCT(仏、NEJM)でICU入室の重症市中肺炎でコルチコステロイドの有用性が示されたが、RCTのみを用いてメタ解析を実施した。対象は重症市中肺炎で、その定義として、ICU入室者、米国胸部疾患学会の重症市中肺炎、PSIのクラスⅤを満たすもので、敗血症性ショックにフォーカスした論文、事後解析の論文などは除外。5580論文を評価し、最終7論文がメタ解析された。7論文はいずれも二重盲検試験で、合計1689人、ヒドロコルチゾン5論文、メチルPSL2論文で、3論文は40%以上が人工呼吸器装着であった。主要評価項目は30日後の死亡、一つ抜き交差検証やI2解析で異質性の評価、TSA逐次解析も実施。30日後の死亡はステロイド使用でリスク比0.61(0.44-085)で、敗血症性ショックの有無や60歳以上でも同様の結果であった。さらにステロイドの種類も同様の結果で、ステロイドの漸減なし、使用期間8日未満の方が有意に良好であった。呼吸器装着RR:0.57(0.45-0.73)、ICU入室期間、入院期間でも有意に短縮。有害事象は消化管出血、感染症、AKIとも両群で差なし。2023年Chest誌のメタ解析(Saleem ら)では、非重症市中肺炎も含んでのメタ解析で、重症市中肺炎では、コルチコステロイドの有用性が示唆された。

2023年8月2日水曜日

COVID-19後の急性続発症のリスクとモルヌピラビル

BMJ,2023,vol.381
Molnupiravir and risk of post-acute sequelae if covid-19: cohort study

米国の退役軍人省のデータを用いて検討した。2022年1月~2023年1月で退役軍人でSARS-CoV-2検査陽性者は33万9千人あり、そのうち、モルヌピラビルのphase3試験であったMOVE-OUT研究の対象である60歳以上、BMI>30、癌、心血管疾患、CKD、CLD、DM、免疫不全等を一つ以上有し、モルヌピラビルを投与した者13007人の内、適応外使用、eGFR<30を除いた11472人、および同様のリスクを有し、抗ウイルス療法を実施しなかった217814人を対照群とした。転帰はコロナ後の死亡、入院とし、コロナ続発症として、虚血性心疾患、不整脈、肺塞栓、疲労、筋痛、AKI、認知機能低下、自律神経障害、息切れ、咳などの13症状とした。全体では平均69.8歳、男性91.6%、コロナワクチンなし12.7%、ワクチン3回以上63.3%、併存疾患:癌23.3%、CLD33.9%、DM45.3%など。コロナ後30日の時点でのコロナ13続発症はモルヌピラビルvs対照群で18.58%vs21.55%、RR:0.86(0.83-0.89)であった。コロナ後死亡は1.44%vs2.32%、HR:0.62(0.52-0.74)、コロナ後入院8.82%vs10.15%、HR:0.86(.80-0.93)といずれも有意に減らしていた。

2023年7月19日水曜日

僧帽弁閉鎖不全での肺高血圧の頻度およびその転帰への影響

BMJ Open Heart,2023,vol.10
Prevalence of pulmonary hypertension in mitral regurgitation and its influence on outcomes

オーストラリアでの国家レベルでのエコー登録でのデータ(NEDA)を用いて検討した。18歳以上、LVEF、RVSP(右室収縮期圧)のデータが揃っているもの、中等度以上のMRのものを検討。2000-2019年で106万人のデータがあり、9683人が条件を満たし検討。PHTなし群(RVSP<30㎜Hg)9.9%、境界群(PVSP30-39.9)30.5%、軽度PHT群(RVSP40-49.9)32.7%、中等度PHT群(50-59.9)16.4%、高度PHT群(RVSP≧60)10.5%。RVSPが高い程、年齢、女性、AF、AR、ASの頻度が有意に高率であった。1年死亡率、5年死亡率はPHTなし群は8.5%、33.3%に対し、重度PHT群では39.7%、79.8%で、OR:4.64(3.55-6.08)、5.18(3.98-6.73)であった。年齢、性別等で調整したハザード比では、全死亡でPHTなし群に対し重度PHT群でHR2.86(2.48-3.31)、心血管死のHR1.62(1.27-2.06)であった。MRでRVSP>34mmHgとなると、死亡のHR1.27(1.00-1.36)で死亡リスクが高くなっていた。

2023年7月12日水曜日

AFを伴う脳梗塞での抗凝固療法の早期再開vs非早期再開

NEJM,2023,vol.388,no.26
Early versus Later Anticoagulation for Stroke with Atrial Fibrillation

急性期脳梗塞後のDOACを導入するタイミングが脳梗塞再発や出血に関与するかははっきりせず、規模の小さなRTCがあるだけである。いくつかのガイドラインではDOAC再開をTIA、軽症、中等症、重症で1,3,6,12日後を推奨している。今回、ELAN研究として検討した。
前向きのRTCで、早期再開群、非早期群に1対1に割付。直径15mm以下の脳梗塞を小、MCA、ACA、PCAの皮質枝の領域の梗塞を中、これらの領域の梗塞or脳幹or15mm以上を大とし、早期再開群では小・中で48時間で再開、大で6-7日目に再開。非早期群では小で3-4日目、中で6-7日目、第で12-14日目再開とした。主要評価項目は30日以内の脳梗塞再発、全身性塞栓症、頭蓋外の重大出血、症候性頭蓋内出血、血管疾患による死亡の複合。15か国、103施設で36643例がスクリーニングを受け、2013例がITT解析された。早期群1006例(77歳、女性45.6%)、非早期群1007例(78歳、45.3%)。CHA2DS2-VAScスコアは中央値5点、脳梗塞サイズは小37.6%、中39.7%、大22.8%。入院時のNIHSS5点、ランダム化時点3点、血栓溶解療法39.7%、血栓除去術21.0%。30日後の主要評価項目の2.9%vs4.1%で調整リスク差-1.18(-2.84-0.47)であった。症候性頭蓋内出血は0.2%vs0.2%。脳梗塞再発1.4%vs2.5%、リスク差-1.14(-2.41-0.13)二次評価項目の90日後の複合イベントでは3.7%vs5.6%、リスク差-1.92(‐3.82~-0.02)であった。

2023年7月5日水曜日

筋力低下、筋痛の44歳女性

NEJM,2023,vol.388,no.16
Case Records of the MGH
Case 12-2023: A 44-Year-Old Woman with Muscle Weakness and Myalgia

5年前に関節リウマチと診断され、4年前よりヒドロキシクロロキンで治療開始するも肝斑で中止。MTXで治療するも効果なく、レフルノミドで症状緩和。6か月前より上肢、大腿に筋痛があり、上肢は頭より上に上げられなくなり、整髪や化粧が不可能となる。筋痛は運動や1日の終わりに悪化。上肢、下肢にジリジリするシビレ出現。3か月前にリウマチ科受診。CK:422、LDH:509、ANA320倍、抗U1-RNP抗体陽性。C3、C4正常、dsDNA抗体陰性、Sm抗体陰性。アザチオプリン開始。既往歴にバセドウ病、副甲状腺機能低下症、潜在性結核あり。姉妹にSLEあり。

鑑別診断:自己免疫疾患、オーバーラップ症候群、特にRAと特発性炎症性ミオパチー。
MCTD(ただし、U1-RNP抗体の力価不明)。
サルコイドーシス、アミロイドーシス(両方とも、近位筋筋力低下、手根管症候群によるシビレ)
薬剤性:イソニアジド、メチマゾール、ヒドロキシクロロキンは筋炎様の副作用あり
代謝性:甲状腺ホルモン、低カルシウム血症など
診断:血清Ca値5.9、P値4.5、PTH値35pg/mL→副甲状腺機能低下症による低Ca血症
筋MRI:T1WIでの脂肪浸潤、筋委縮なし。各種筋炎自己抗体検索(抗MDA-5抗体、抗SRP抗体など)→陰性
治療:グルコン酸カルシウムの静注等で症状改善。

2023年6月28日水曜日

院内心停止でのアミオダロンとリドカインの効果の比較

CHEST,2023,vol.163,no.5
Comparative Effectiveness of Amiodarone and Lidocaine for the Treatment of In-Hospital Cardiac Arrest

2000年のAHAのACLSガイドラインで、VT/VFの抗不整脈薬の第1選択はアミオダロンとの推奨になった。2018年のガイドライン変更で、アミオダロン、リドカインどちらも使用可との変更になったが、2000-2014年の心停止ではアミオダロン使用69%、リドカイン使用31%と報告された。今回はAHAの院内心肺蘇生登録(GWTG-R)のデータを用いて、院内発症VT/VFでのリドカインとアミオダロンの効果を検討した。主要評価項目は自己心拍再開。二次評価項目は24時間後生存、生存退院、良好な神経学的転帰。2000-2014年で39089人の18歳以上の院内発症VT/VF患者が登録され、通常の胸骨圧迫、除細動に加えて、リドカインのみ、アミオダロンのみの薬物治療追加があったものが、4572人、10058人あった。年齢65.7vs65.2歳、男性62.7vs64.4%。自己心拍再開で77.3vs76.6%、24時間生存63.4vs59.1%、生存退院47.5vs42.0%、良好な神経学的転帰39.6vs33.3%で自己心拍再開以外が有意にリドカイン群が良好であった。人種、心筋梗塞での入院、心疾患、心電図モニタリングで調整したオッズ比ではそれぞれ1.15、1.16、1.19、1.18でいずれもリドカイン群で良好であった。

2023年6月21日水曜日

成人糖尿病での糖尿病罹病期間、血糖コントロールと心不全リスク

J Clinical Endocrinology & Metabolism,2022
Duration of Diabetes, Glycemic Control, and Risk of Heart Failure Among Adults With Diabetes: A Cohort Study

40‐69歳のUKバイオバンクの50万人のデータを用いて検討した。23754人のDM患者があり、11.7年フォローし、2081例の心不全が見られた。DM罹病歴5年未満に比して、心不全発症リスクは5-10年でハザード比1.09(0.97-1.23)、10-15年で1.13(0.97-1.30)、15年以上で1.32(1.15-1.53)で15年以上で有意に高リスクであった。HbA1c<7.0に比して、7.0-7.5でハザード比1.15(1.02-1.31)、7.5-8.0%で1.07(0.91-1.26)、8.0以上で1.46(1.30-1.65)で8.0以上で有意に高リスクであった。

2023年6月14日水曜日

僧帽弁閉鎖不全に対する経カテーテル的僧帽弁形成術での5年フォローアップ

NEJM,2023,vol.388,no.22
Five-Year Follow-up after Transvatheter Repair Mitral Regugitation

虚血性or非虚血性での僧帽弁閉鎖不全に対して経カテーテル的にedge to edgeに修復する治療法、MitraClipでの治療介入COAPT研究の5年フォローアップ。対象はLVEF20-50%で、心エコーでMRが中等症以上、NYHA2-4、除外基準はLVDd>7cm、重度PH、中等度以上の右心不全。経カテーテル的僧帽弁形成術+薬物治療群vs標準的薬物治療群に1:1に割付。主要評価項目は心不全入院。2012-2017年、米国・カナダの78施設で、614例を無作為化。302例がデバイス群、312例が対照群に割付。デバイス群は97%で形成術が実施。5年フォローはデバイス群89.4%、対照群84.6%で完遂。1回以上の心不全入院は50%vs66.7%で、1年当たりの心不全入院は33.1%vs57.2%で、ハザード比0.53(0.41-0.68)でリスクを減らした。全死亡のハザード比0.72(0.58-0.89)、死亡+心不全入院でハザード比0.53(0.44-0.64)であった。デバイス関連のイベントは5年で1.4%に発生し、全イベントは30日以内に発生していた。

2023年6月7日水曜日

皮膚エリテマトーデスに対する抗BDCA2抗体リティフィリマブへの臨床試験

NEJM,2022,vol.387,no.4
Trial of Anti-BDCA2 Antibody Litifilimab for Cutaneous Lups Erythematosus

皮膚エリテマトーデスに対する治療第1選択はステロイド外用およびヒドロキシクロロキンであるが、ステロイド外用のベネフィットは限定的であり、ヒドロキシクロロキンのメタ解析でも効果はさまざまである。リティフィリマブは血液樹状細胞抗原2に対するヒトIgG1モノクローナル抗体で、それは形質細胞様樹状細胞の表面にのみ発現し、形質細胞様樹状細胞はSLEの発症に関与するとされる。SLEに対するフェーズ1の治療では活動性のある皮膚病変の改善が見られた。LILAC研究のBパート、中等症~重症の皮膚エリテマトーデスのリティフィリマブの効果を検討した。リティフィリマブ皮下注治療を50mg、150、450、プラセボ群の4群に無作為に割付。皮膚エリテマトーデスの疾患活動性スコアであるCLASI-A(0-70)にて評価。132例でそれぞれ、26例、25例、48例、33例に割付。経口PSL15mg以下、ヒドロキシクロロキンの併用は許可。16週後のCLASI-Aのプラセボに対する変化率は50mg群-24.3、150mg群-33.4、450mg群-28.0であった。有害事象では過敏症3例、口唇ヘルペス3例、帯状疱疹髄膜炎1例があり、帯状疱疹髄膜炎例は4ヶ月後死亡した。
皮膚エリテマトーデスにおいてリティフィリマブは16週後の疾患活動性を低下させた。

2023年5月31日水曜日

包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)に対する深部静脈の経カテーテル的動脈化治療

NEJM,2023,vol.388,no.13
Transcatheter Arterialization of Deep Veins in Chronic Limb-Threatening Ischemia

米国での40歳以上ではCLTIの有病率1.33%、新規発症0.35%で100万人がメディケアの対象となっており、20%が血管再開通治療の適応外となっており、また65歳以上ではCLTIで下肢切断で1年後の関連死亡率は50%とされる。CLTIで治療選択肢がない場合、深部静脈の経カテーテル的動脈化は血管内治療の手段である。先行研究としてPROMISE1が実施、され、今回、対象を拡大してPROMISE2として実施。対象はRutherford分類5・6の皮膚病変があり、独立した臨床医により血管撮影等で、通常の治療選択肢のない事が確認されたCLTIで、透析患者は除外せず、全身性感染症、皮膚病変の急速な増悪例、重度心不全は除外。手技は足底の静脈からエコーガイド下にセルジンガー法でカテを後脛骨静脈まで進める。また同側の大腿動脈から順行性にカテを進め、交差する部位で後脛骨静脈側にスネアを広げ、そこへ後脛骨動脈側から穿刺して瘻孔を作成。静脈弁切開をアブレーションで行い、最終的にカバーステントグラフトで、後脛骨静脈から末梢を拡張、動脈化。主要評価は6か月時点での切断回避+生存。105例で実施、104例で成功。102例で6ヶ月後評価。23例が切断、12例が死亡し、切断回避は0.66。サブ解析では透析患者19例では切断回避36.8%(透析外72.7%)、死亡36.2%(透析外8.6%)。皮膚病変完治25.4%、皮膚病変部分改善50.8%であった。

2023年5月24日水曜日

前立腺癌に対する、観察、手術、放射線治療後の15年での転帰

NEJM,2023,vol.388,no.17
Fifteen-Year Outocomes after Monitoring, Surgery, or Radiotherapy for Prostate Cancer

限局性の前立腺癌の管理は議論の余地がある。ProtecT研究は1999年~2009年に英国で、50-69歳でPSA検査を契機に限局性前立腺癌と診断された1643人を無作為に積極的観察群、手術群、放射線治療群に割付し10年間フォローアップしたが、今回、さらに中央値15年フォローアップした。ベースラインのPSA:4.6(3.0-18.9)。最初の1年はPSAを3ヶ月毎、それ以降は6ヶ月毎測定。積極的観察群ではPSAが50%以上増加した時点で、改めて観察継続、精査、根治的治療、緩和ケアの選択する。手術群では断端陽性や術後PSA:0.2以上増加で、補助放射線治療を検討。放射線治療群では3D原体照射法74Gy、37区域後、抗アンドロゲン治療。全て群でPSA:10以上で骨シンチが推奨され、20以上で抗アンドロゲン治療を検討した。1643人中1610人(98.0%)がフォローアップを完遂。ベースラインではグリーソンスコア6のグリーソングレード1が76.0%であったが、現在のリスク層別化ツールでは24.1%が中等度リスク、9.6%が高リスクに相当した。15年の時点で主要評価項目の前立腺癌死は45例2.7%で、積極的観察群3.1%、手術群2.2%、放射線治療群2.9%で差を認めず。全死亡は356例21.7%で、3群に差を認めず。104例6.3%に転移を認め、積極的観察群9.4%、手術群4.7%、放射線治療群5.0%で、後2群は積極的観察群より少なかった。臨床的増悪はそれぞれ25.9%、10.5%、11.0%で認められた。積極的観察群は10年の時点で54.8%が根治的治療(手術or放射線)を受けていたが、15年の時点では61.6%であった。積極的観察群の24.4%が根治的治療および抗アンドロゲン治療を受けずに生存していた。サブ解析では65歳未満では放射線治療群より積極的観察群、手術群が前立腺癌死亡のリスクが低く、65歳以上では積極的観察軍より、手術群、放射線治療群が前立腺癌死亡が少なかった。
15年間のフォローアップでは前立腺癌死亡は治療の割付にかかわらず低く、限局性前立腺癌治療の選択に際しては利益と害を検討する必要がある。

2023年5月17日水曜日

HFpEF患者で、閉塞型睡眠無呼吸症候群合併での入院転帰、不整脈

J Innov Cardiac Rhythm Management,2022,vol.13,no.16
In-hospital Outcomes and Arrhythmia Burden in Patients with Obstructve Sleep Sleep Apnea and Heart Failure with Preserved Ejection Fraction

全米入院サンプル(NIS)の2016-2018年のデータを用いて後方視的に検討した。127773人のHFpEF患者の入院があり、OSA合併例20%、CPAP実施9%、HFpEF、OSA(+)は平均70歳、HFpEF、OSA(-)は76歳。プロペンシティスコアをマッチされたコホートでは、死亡リスクはOSA+でオッズ比1.33(1.27-1.37)で有意に高く、入院期間、入院コストも高かった。不整脈の合併の検討ではAFのオッズ比1.29(1.27-1.31)、AFL:1.13(1.09-1.17)、SSS:1.2(1.12-1.29)、VT:1.19(1.13-1.24)、3度AVb:1.16(1.01-1.33)と有意に増加。CPAPの実施で、これらの不整脈の夜間の減少は認めなかったが、心停止は有意ではないが、減少を認めた。

2023年5月10日水曜日

RSウイルス2価ワクチンの成人における有効性と安全性

NEJM,2023,vol.388,no.16
Efficacy and Safety of a Bivalent RSV Perfusion F Vaccine in Older Adults

米国では毎年、成人の3-7%でRSVの罹患があり、年17.7万人の入院、1.4万人の死亡と推計されている。RSVの2価ワクチンの第3相試験。RSV,preFワクチン群と対照群に無作為化し筋注。主要評価項目は1日以上続くRSV関連下気道症状2項目(咳、喘鳴、痰、息切れ、頻呼吸)と症状発現7日以内のRT-PCRでのRSV感染の確定。2021年8月~2022年7月に登録。ワクチン群17215人、対照群17069人、年齢67(59-97)歳。7ヶ月間の観察で、44人のRSV関連下気道症状2項目陽性があり、ワクチン群11人(1.19人1000人・年)vs対照群33人(3.58人1000人・年)でワクチン効果66.7%(96.66%信頼区間、28.8-85.8)。有害事象は9.0%vs8.5%で同様で、局所反応も1.4%vs1.0%、重篤な有害事象は0.5%vs0.4%であった。

2023年4月26日水曜日

小児での髄膜炎菌血清型Bワクチンの効果

NEJM,2023,vol.388,no.5
Effectiveness of a Meningococcal Group B Vaccine(4CMenB) in Children

髄膜炎菌血清型Cワクチン導入後、欧州では血清型Bの髄膜炎菌が侵襲型髄膜炎菌感染症の主原因となっている。2013年に欧州で4成分B型髄膜炎菌ワクチン(4CMenB)が認可され、2015年9月よりスペインで使用可能となった。2015年10月~2019年10月までの期間で、生後60ヶ月未満の小児に対する接種を行い、その効果を多変量条件付きロジスティック解析にて検討した。
スペインでの感染症サーベイランスでは侵襲性髄膜炎菌感染症は全例報告となっており、1例報告の度に4例の誕生日や居住地をマッチさせた対照群をピックアップ検討した。髄膜炎菌感染症患者306例に対し対照群1224例で、患者群ではワクチン接種なし88.6%、接種あり11.4%、対照群では接種なし75.7%、24.3%で、条件を整えたオッズ比では1回以上接種で髄膜炎菌感染0.32(0.21-0.50)、フル接種では0.24(0.13-0.43)で、それぞれワクチン効果は68%、76%であった。

2023年4月19日水曜日

慢性化した小児喘息での肺機能の成長と低下のパターン

NEJM,2016,vol.374,no.19
patterns of Growth and Decline in Lung Function in Persistent Childhood Asthma

1993年-1995年に登録、実施された5-12歳の小児を対象に実施されたCAMP研究(ブデソニド、ネドクロミルの吸入療法のRTC)での長期フォローで喘息を罹患した児のその後の肺機能を検討した。1年に最低1回スパイロ実施。684人が検討可能。1秒量の成長カーブが正常の25%パーセンタイル以上を正常成長、それ以下を低成長、二つでの測定点で正常より1秒量が早く低下する場合を早期低下とした。23-30歳(26.0±1.8歳)までフォローされ、684人中、正常成長、早期低下なしは170人25%で、それ以外の514人75%は異常パターンを示した。178人26%は正常成長、早期低下、160人23%は低成長のみ、176人26%は低成長、早期低下を示した。これらは最大の肺機能の年齢に有意差を認め、男性が有意に多く、登録時のBMIが関連していた。また登録時の1秒量も関連していた。最終測定時(26.0±1.8歳時)の気管支拡張剤吸入後の肺機能で11%がFEV1/FVC<0.7のGOLD基準のCOPDを満たし、低成長群で%FEV1が50-80%のStage2が4%、低成長+早期低下群で11%であった。

2023年4月12日水曜日

プロテインC活性が低い患者でのワーファリン誘発性皮膚壊死

Acta Medica Iranica,2016
Warfarin-Induced Skin Necrosis in Patients With Low Protein C Levwls

後天的なプロテインC活性低下は、急性塞栓症、ワーファリン治療、肝臓病、ビタミンK不足、DIC、敗血症などでも起こりうる。この様な場面での抗凝固療法は皮膚壊死が起こりうる。
50歳女性、運動失調、構音障害、めまい、嘔吐で発症。心房細動あり。CT、MRIで上小脳動脈領域の脳塞栓。CHADS-VAScスコア5点。プロテインC活性0.39(0.7-1.4)。ワーファリン5㎎/日より開始。ワーファリン開始後の2日目、左ふくらはぎに疼痛を伴う後半で周囲に血性水疱あり。WISNと診断され、ただちに、未分画ヘパリン、ビタミンK、新鮮凍結血漿にて治療開始。症状改善し、ダビガトランにて治療継続。
WISNはワーファリン治療患者の0.01-0.1%に発生。中年女性に多く、胸部、臀部、大腿に多い。男性では陰茎にも発生。突然発症し、疼痛を伴い、境界明瞭な出血成分を伴う紅斑、浮腫性紅斑の場合はWISNを疑い早期に治療を開始すべき。ワーファリン治療を開始する前にプロテインC、S、高リン脂質抗体のスクリーニングを実施すべき。

血栓塞栓症予防での抗凝固療法、プロテインC欠損症でのワーファリン誘発性皮膚壊死の一例

BMJ Case Rep,2017
Anticoagulation therapy for thromboembolism prevention: a case of warfarin-induced skin necrosis in the setting of protein C deficiency

41歳男性。DVT、肺塞栓の既往あり。5年前に肺塞栓の際にプロテインC欠損症と診断。プロテインC活性12%。37歳時に下大静脈フィルター留置。ワーファリン治療中であったが、皮膚の皮下出血を繰り返すために、治療コンプライアンス不良であった。
今回、PT-INR:0.90で、PT-INR:2-3を目標にワーファリン再開。4日後、両下肢に痛みを伴う皮下壊死が出現、増悪。プロテインC欠損症があるため、ワーファリン誘発性皮膚壊死WISNが疑われ、リバロキサパンに変更。あまり症状改善なし。また、彼の健康保険がリバロキサパンを保険外としたため、同薬内服できず。症状増悪。その後、再入院し、下肢エコーでは静脈にプラーク、閉塞は認めず。エノキサパンで治療開始。その後、ダビガトランに変更し、治療継続。疼痛、皮膚壊死は改善した。

2023年4月5日水曜日

重症市中肺炎でのヒドロコルチゾン治療

NEJM,2023
Hydrocortisone in Severe Community-Acquired Pneumonia

市中肺炎のグルココルチコイドの有用性については、過去のメタ解析では生存率の改善はないもの入院期間を短縮できた、別の解析ではバイアスのリスクはるものの死亡を減らしたと報告された。今回、重症市中肺炎でICU入室した患者で、28日後の全死亡を改善するか検討(CAPECOD研究)。二重盲検のRCTで、フランスの31施設で実施。18歳以上、P/F比300以下の市中肺炎を対象。二重盲検で1対1に割付し、実薬群はヒドロコルチゾン200㎎を4日間、4日目に評価し、さらに条件を満たす場合、漸減して14日間継続。主要評価項目は28日後の全死亡。2015年10月から登録を開始、2回目の中間解析(ヒドロコルチゾン群401例)で、有意差が見られ、試験の終了が勧告された。800例が割付られ、ヒドロコルチゾン群400例、対照群395例で解析された。対照群で年齢67(58-78歳)、COPD26.6%、挿管人工呼吸21.5%、NIV22.8%、ネイザルハイフロー41.0%、リザーバマスク14.7%。昇圧剤治療12.9%、ICU入室まで5.2時間、ICU入室から介入まで14.6時間。結果は28日後の死亡で6.2%vs11.9%(p=0.006)、90日の死亡9.3%vs14.7%、28日の累積挿管人工呼吸HR:0.59(0.40-0.86)、累積NIVでHR:0.60(0.32-1.15)。昇圧剤使用HR:0.59(0.43-0.82)。消化管出血は2.2%vs3.3%、HR:0.68(0.29-1.59)。7日間のインスリン使用量35.5単位vs20.5単位。ヒドロコルチゾンは市中肺炎の28日後の全死亡を減らした。

2023年3月22日水曜日

学校におけるマスク着用解除 - 生徒、教職員のCovid-19の発生率

NEJM,2022,vol.387,no.21
Lifting Universal Masking in Schools - Covid-19 Incidence among Students and Staff

2022年2月にマサチューセッツ州では学校でのマスク全員着用方針を解除したが、グレートボストンでは2つの学区(ボストン地区、チェルシー地区)のみマスク全員着用を2022年6月まで継続した。州教育省のデータDESEの週単位のCovid-19のデータを用い、差分の差分法(DID)にて検討した。マスク着用廃止後15週間のデータではマスク着用廃止学区ではCovid-19発生は134.4/1000人、マスク着用継続学区では66.1/1000人で、マスク着用廃止は44.9/1000人発症が増加していた。マスク着用継続学区は廃止学区にひして、校舎の換気設備が不良、生徒数が多い傾向、低所得者の生徒、英語学習者の割合が多い傾向があった(別の報告ではコロナワクチン接種率はボストン地区、チェルシー地区では53%に比し、他の地区は67%)。
マスク全員着用は(学校での対面教育の継続による)教育格差の軽減に有用と考えられた。

2023年3月15日水曜日

心不全でのダパグリフロジンの長期効果の推定

JACC,2022,vol.80,no.19
Estimated Long-Term Bnefit of Dapagliflozin in Patients With Heart Failure

HFpEFでのSGLT2阻害薬の心血管死や心不全悪化の減少効果は2つのRTCで示されている。ダパグリフロジンの長期使用による。イベントフリー生存をノンパラメトリック年齢ベースの推計法により検討した。DELIVER研究はダパグリフロジンの第3相の無作為化二重盲検試験で、40歳以上、NIHYⅡ-Ⅳ、LVEF>40%、NT-proBNP>300を対象として2018年9月から2021年1月まで20カ国350施設で実施された。主要エンドポイントは心血管死と心不全増悪。6263人(72±10歳)のHFが登録され、6211人が完遂。観察期間2.3年。1122人(27%)でエンドポイントのイベントが発生し、300(27%)が心血管死、718(64%)がHF入院であった。全死亡は1023人。ダパグリフロジンはプライマリエンドポイントを18%減らした(HR:0.82、0.73-0.92)。全死亡では統計学的有意差なし。ノンパラメトリック年齢ベースの推計では、55歳ではプライマリエンドポイントまでのイベントフリー生存期間はダパグリフロジン群11.8年、対照群9.8年(p=0.14)、65歳では12.1年vs9.7年(p=0.002)、75歳では10.6年vs9.4年(p=0.063)であった。55歳から85歳でイベントフリー生存の絶対的な利益は80歳以降は減衰した。

2023年3月8日水曜日

敗血症性ショックにおけるバゾプレシン導入時のカテコラミン濃度、乳酸値、ショック時間と死亡の関係

Critical Care Med,2022,vol.50,no.4
Association of Catecholamine Dose, Lactate, and Shock Duration at Vasopressin Initiation With Mortality in Patients With Septic Shock

米国では敗血症性ショックの20-30%にバゾプレシンが投与されている。VASST研究のサブ解析ではノルエピネフリン15μg/分以下で死亡で有用であった。今回は実臨床での死亡との関連を検討した。多施設、後方視的研究で、Sepsis-3での敗血症性ショックの基準を満たす18歳以上で検討した。8施設、1610例(63±15歳、男性51.6%、ICU63.9%、大学病院76%、乳酸値3.9mmol/L(35.1mg/dL)、バゾプレシン導入時ノルエピネフリン25.0μg/分。APACHEⅢスコア109点)生存660例41%、死亡950例59%で、生存群と死亡群の間では年齢、基礎疾患の有無、乳酸値(3.0vs4.8)、バゾプレシン導入時間(5.0時間vs5.7)、ノルエピネフリン濃度(20.0vs30.0)で有意差を認めた。多変量解析ではノルエピネフリン濃度60μg/分以下では10μg/分上昇毎に死亡リスクが20.7%上昇し、ショック時間毎にバゾプレシン導入字の乳酸値が死亡と有意に関連し、ショック時間12.2時間では乳酸1毎に死亡の修正ORが1.18上昇した。逆にバゾプレシン導入時の乳酸値毎の導入までのショック時間は関連を認めなかった。乳酸値2.3mmol/L、ノルエピネフリン濃度10μg/分でのバゾプレシン導入時の予測死亡率41%、乳酸値3.9mmol/L、ノルエピネフリン濃度25μg/分での予測死亡率53%であった。(注、体重を90㎏とすると、25μg/分で、0.28γ)

2023年2月22日水曜日

COPDでの吸入ステロイド治療と全死亡の関係、60本のRCTでのメタ解析

Chest,2023,vol.163,no.1
Association of Inhaled Corticosteroids With All-Cause Motality Risk in Patients With COPD -A Meta-analysis of 60 Randomized Controlled Trials-

COPDの治療ガイドラインGOLDではICSを含む吸入療法が推奨されているが、ICSが全死亡を減らすか否かは結論が出ていない。近年の二つの大規模研究、IMPACT研究、ETHOS研究ではICSが全死亡を減らす事が示された。メタ解析にて検討した。全死亡をアウトカムに含むRCTで、2021年8月までの論文を収集し、3717論文を検討し、最終的に60論文、103034例でメタ解析を実施。Peto法での統合オッズ比では全体でICSありはICSなしに比して、OR,0.90(0.84-0.97)で全死亡減らしていた。ICS/LABA対LABAでもOR,0.89(0.84-0.97)、ICS/LABA対LABA/LAMAでOR,0.75(0.61-0.92)、Triple対monoICSでOR,0.73(0.59-0.91)、Triple対LABA/LAMAでOR,0.72(0.57-0.89)でいずれも全死亡を減らしていた。サブ解析では好酸球数が2%以上または200/μL以上、65歳未満、ICS中用量、ICS低用量で有意に全死亡を減らしていたが、65歳以上、好酸球数正常、ICS高用量では全死亡減少は有意ではなかった。

2023年2月15日水曜日

肥満症に対するチルゼパチド週1回投与

NEJM,2022,vol.387,no.3
Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity

GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)はGLP-1とは別の栄養刺激ホルモンで脳や脂肪組織でのエネルギーバランスを調整するとされる。チルゼパチドはネイティブのGIPシークエンスから設計され、GIPとGLP-1の両方に働くアゴニストであり、本研究ではフェーズ3の無作為化二重盲検試験、SURMOUNT-1試験として実施された。
対象はBMI:30以上(または合併症のあるBMI:27以上)で、糖尿病は除外。チルゼパチド5mg群、10mg群、15mg群、プラセボ群に割付て72週投与。複合エンドポイントはベースラインからの体重変化と5%以上の体重減少達成。9ヶ国119施設で実施。2539人(44.9歳、女性67.5%、体重14.8㎏、BMI:38.0)が4群に割付。ベースラインからの体重変化はそれぞれ-15.0%、-19.5%、-20.9%、-3.1%でプラセボに対して有意に減少。5%以上の減量達成はそれぞれ85%、89%、91%、35%であった。20%以上の減量達成はプラセボが3%であったのに対し10mg群50%、15mg群57%であった。チルゼパチドの有害事象の多くは消化器系の症状で軽度から中等度であり、有害事象での中断はそれぞれ4.3%、7.1%、6.2%、2.6%であった。膵炎はそれぞれ0.2%であった。

2023年2月8日水曜日

うつ病に対するシロシビンvsエスシタロプラム

NEJM,2021,vol.384,no.15
Trial of Psilocybin versus Escutalopram for Depression

SSRIは大うつ病に対する第1選択薬であるが、効果が出るのに数週間かかり、患者によっては反応しない場合もある。シロシビンとシロシンは精神興奮作用のあるマジック・マッシュルーム属に含まれ、シロシビンは20世紀半ばには気分障害に対する効果が確認されている。今回は中等症~重症の大うつ病に対する、シロシビン、エスシタロプラムの6週間のフェーズ2の二重盲検試験。ハミルトン抑うつスケール(0-52点)で17点以上のうつ病の患者を1対1で、シロシビン25mg群、エスシタロプラム10mg→20mg群に割付。主要評価項目はQIDS-SR16(16項目クイックうつ病自己評価スケール、0-27点)の変化。QIDS-SR16はベースラインでシロシビン群14.5、エスシタロプラム群16.4で、6週後の変化はシロシビン群で-8.0±1.0、エスシタロプラム群-6.0±1.0で有意差を認めず。QIDS-SR16での寛解(ベースラインより6点以上の改善)は57%vs28%であった。

2023年2月1日水曜日

鉄欠乏を伴う心不全患者へのデルイソマルトース鉄の静注療法、IRONMAN研究、オープンラベル前向き医師主導無作為化試験

Lancet,2022,vol.400
Intravenous ferric derisomaltose in patients with heart failure and iron deficiency in the UK (IRONMAN) : an invesigator-initiated, prospective, randomised, open-label, blinded-endpoint trial

英国の70施設で実施。18歳以上でLVEF≦45%の心不全で、血清鉄<100またはトランスフェリン<20%の患者を無作為にデルイソマルトース鉄静注群と通常治療群に割付。(Hb<9.0、フェリチン>400は除外)転帰はマスク。主要評価項目は心不全入院+心血管死。1869例がススクリーニング、1137例が無作為化され、デルイソマルトース鉄静注群569例(73.2歳、女性25%、NYHA2:58%、NYHA3:40%、AF50%、Hb値12.1)、通常群568例に割付。中央値2.7年フォローアップされ、心不全入院+心血管死は336(22.4人・年)vs411(27.5人・年)、レート比0.82(0.66-1.02)で低い傾向を認めたが、有意差を認めず。

2023年1月18日水曜日

COVID-19感染後のワクチン接種とAMI、虚血性脳卒中の関連

JAMA,2022,vol.328
Association Between Vaccination and Acute Myocardial Infarction and Ischemic Stroke After COVID-19 Infection

韓国のコロナ感染者登録での後方視的研究。2020年7月~2021年12月。COVID19感染後31日-120日のAMI、脳梗塞を評価イベントとした。ワクチン接種は2回以上を接種群とした。59万人が対象となり、うち231037人(ワクチン非接種62727人、接種1683210人)で検討。接種群(57歳)に対して非接種群(42歳)は有意に高齢で、合併症の罹患率が高かった。また、重症群、集中治療群は接種群で少なかった。AMI+脳梗塞のイベント頻度は100万人・日あたり5.49vs6.18で、年齢等で修正したハザード比0.42(0.29-0.62)で有意に減少し、AMIで0.48(0.25-0.94)、脳梗塞で0.40(0.26-0.63)であった。

COVID-19のモヌルピラビル+通常治療vs通常治療(PANORAMIC研究)

Lancet,2022
Molnupiravir plus usual care versus usual care alone as early treatment for adults with COVID-19 at increased risk of adverse outcomes(PANORAMIC): an open-label,platform-adaptive randomised controlled trial

英国、多施設、オープンラベルでのRCT。50歳以上の成人、18歳以上のリスクのある者でモヌルピラビル+通常治療群、通常治療群で1対1に割付。主要評価項目は28日以内の全入院+死亡。26411人がランダム化され、モヌルピラビル群12774人(56.7歳)、通常群12934人(56.5歳)で、入院+死亡は105例(1%)vs98例(1%)で修正オッズ比1.06(0.81-1.41)で有意差は認めなかった。主観的な改善日数は9日vs15日でモヌルピラビル群で有用であった。ウイルス学的検討では集中検査では7日目のウイルス未検出率は21%vs3%で有意に減少した。全例検討(238人、280人)では5日目のウイルス未検出率は8%vs3%であったが、14日目では逆に47%vs56%で、通常治療群の方が未検出率は向上していた。

2023年1月11日水曜日

ベイス・ネットワークメタ解析による好酸球増多を伴う気管支喘息でのメポリズマブ、ベンラリズマブ、デュピルマブの効果の比較

J Allergy Clin Immunol,2022,vol.150
Comparative efficacy of mepolizumab, benralizumab, and dupilumab in eosinophilic asthma: A Bayesian network meta-analysis

2000-2021年の8論文(6461例)で、生物学的製剤のRCTのメタ解析を行い、急性増悪率、1秒量、喘息質問紙法(ACQ)、有害事象等を検討した。それぞれの生物学的製剤の有用性のランク付けはSUCRA累積順位曲線下面積にて評価した。好酸球数≧300では、急性増悪のリスク比はデュピルマブ0.32、ベンラリズマブ0.49、メポリズマブ0.37、1秒量の変化はデュピルマブ+230、ベンラリズマブ+150、メポリズマブ+150、ACQはデュピルマブ-0.48、ベンラリズマブ-0.32、メポリズマブ-0.63でSUCRAの評価ではデュピルマブがより有用であった。好酸球数150-299では急性増悪リスク比デュピルマブ0.60、ベンラリズマブ0.62でSUCRAではベンラリズマブがやや有用であった。有害事象の頻度オッズ比でメポリズマブ0.67、ベンラリズマブ0.74で有意に低かったのに対し、デュピルマブ1.0で有意差はなかった。