2024年6月26日水曜日

人生で最も強い頭痛をきたした64歳女性

NEJM,2024,vol.390,no.22
Case Records of the MGH
Case 18-2024: A 64-Year-Old Woman with the Worst Headache of Her Life

その日の夕までは健康で、会合での会話中に話すために立った時に、突然、両側の前頭部の拍動性で、その瞬間に最大になる頭痛をきたした。嘔吐を伴わない嘔気あり。30分経っても改善せず、救急要請。
体温36.3度、血圧155/77、HR:77、SpO2:96%、視神経乳頭正常。筋力、感覚、小脳機能、深部腱反射異常なし。単純CTでは、上頭頂葉小葉にくも膜下出血を認めた。赤沈は8mm、CRP:2.7mg/L、トロポニンT:0.36ng/mL(正常<0.03)、心電図では1度AVB、びまん性にSTが数mm低下あり。

鑑別診断
雷鳴様頭痛:動脈瘤破裂によるSAH、RCVS(ERにおける雷鳴様頭痛の8%とする報告がある)、脳静脈洞血栓症、脳動脈解離、PRES
心電図変化、トロポニンT陽性→たこつぼ心筋症
診断:CTアンギオにて複数の動脈末梢で狭小化あり、RCVS
患者は疼痛管理を行い、第2入院病日に退院。しかし、その後も頭痛が持続し、脳MRIで脳梁に脳梗塞が新たに出現。

2024年6月19日水曜日

不随意運動、意識レベル低下の79歳男性

NEJM,2023,vol.389,no.15
Case Records of the MGH
Case 31-2023: A 79 Year-Old Man with Involuntary Movement and Unresponsiveness

9ヶ月前、左肩、左顔面の不随意運動。ビクッとする運動で意識の変容を伴わなず、1-2分で消失。その6ヶ月後には症状は月1回、5-6分持続する様になる。プライマリケア医では低Na血症(129)指摘。MRIでは造影される右中前頭回の小さな異常血管影、脳波ではてんかん波は認めないが、左側頭葉の徐波を認めた。2ヶ月前、てんかんクリニックで、LEV開始。発作時の動画では、舞踏アテトーゼ様であった。LEVを減量し、クロバザムへ変更。
今回、左上下肢の不随意運動が1時間持続した後、意識レベルの低下を認め、ERへ搬送。血性Na:125、CTAで右CCAからICAにかけて閉塞あり。左顔面麻痺あり。
鑑別診断
舞踏病様運動、アテトーゼ、バリスム、ジストニア
てんかん発作:今回の患者の不随意運動は定型的でなく、てんかんとしては非典型的ではないか。
低Na血症、不随意運動、てんかん:抗LGI-1抗体関連自己免疫性脳炎
機能性神経障害
Limb shaking TIA
診断、治療
Limb shaking TIA、緊急CEA

2024年6月12日水曜日

背部痛、下肢のこわばり、転倒をきたす30歳女性

NEJM,2024,vol.390,no.18
Case Records of the MGH
Case 14-2024: A 30 Year-Old Woman with Back Pain, Leg Stiffness  and Falls

3年前より、膝を曲げる時や、階段昇降時に背部痛を自覚。数カ月後には背部痛と下肢のこわばりが寛解、増悪するようになる。普段は普通に歩けたり、ランニングも可能であったが、時々、「ロックされた」様になって全く歩けない時もあり、転倒も経験した。2.5年前、リウマチ科受診。膝は他動的に屈曲困難であったが、気をそらす手技では屈曲可能であった。症状は改善せず。MRIではL4/5の椎間板の信号の軽度の低下のみで、筋弛緩薬が投与。
患者には閉所恐怖症、バセドウ病、血小板減少症の既往。妹に橋本病の病歴。
鑑別診断
強直性脊髄炎
ミオトニアをきたす疾患
ジストニアをきたす疾患
Stiff-Person症候群:脊髄、脳のGABA関連のα運動神経抑制の障害=過剰活動による症候。こわばり、疼痛を伴う筋スパズムが最初の症候で、典型的なタイプは傍脊柱筋や腹筋から始まり、進行すると下肢筋に及ぶ。突然の随意運動、理学的な接触、寒冷刺激、感情的刺激、驚愕刺激などが疼痛性筋スパズムを誘発する。35-40歳が好発年齢。50%に自己免疫性疾患の既往、30%に1型糖尿病の既往。ベンゾジアゼピン系薬剤の反応も診断的特徴。不安症、うつ病、広場恐怖症などの精神疾患の合併もよくみられる。
GAD65抗体が60-90%にみられる。
診断的検査
RIAによるGAD65抗体:169nmol/L(カットオフ値20以下)
もしGAD65抗体が陰性であれば、グリシン受容体、amphiphysin、dipeptidyl-peptidase-like protein-6に対する自己抗体の検査を推奨するつもりであった。他に傍脊柱筋の作動筋と拮抗筋の同時収縮の筋電図検査を推奨するつもりであった。
患者は2年間、対症療法を実施したが、改善せず、免疫グロブリン常駐療法にて症状軽快した。

2024年6月5日水曜日

頭蓋内内頸動脈狭窄の進行増悪に対するRNF213遺伝子多型の影響

Neurol Genet,2022,vol.8
Effect of the RNF213 p.R4810K Variant on the Progression of Intracranial Artery Stenosis

RNF213遺伝子のp.R4810K変異は東アジアのもやもや病の感受性遺伝子として20-50%に見られる。さらにこの遺伝子多型は欧米では非常にまれだが、東アジアでは人口の1-2%にみられる。この遺伝子多型の有無で頭蓋内狭窄症の15年での長期経過について検討した。
脳卒中発症後1ヶ月以上経過したもので、無症候性or症候性のICA狭窄のあるものの2つの前向き登録データを用いた。1.5Tまたは3TのMRIのMRAで9ヶ所の脳動脈の狭窄を2人の評価者が評価し、grade1(0-29%狭窄)、grade2(30-69%)、grade3(70-99%)、grade4(100%)とし、30-99%狭窄の者を対象とした。全患者の末梢血にて、RNF213 p.R4810Kジェノタイプを検討した。5年以上、MRIで観察し、経過中に死亡したり、重度の脳卒中で脱落したものは除外された。52例、中央値10.3年(5.3-14.8年)観察され、10回MRI実施。52例中、22例(42%、初回MRI時51歳、女性55%)がRNF213遺伝子変異であった。30例(50歳、女性43%)が非キャリアであった。観察期間中に頭蓋内狭窄が悪化した者はRNF213遺伝子変異キャリア群で64%、非キャリア群27%で、オッズ比4.81;1.47-15.77。さらに2段階以上悪化した者(著明増悪)は36%vs10%でオッズ比5.14;1.18-22.49であった。単変量Cox回帰分析では頭蓋内狭窄増悪と関連していたのは、脂質異常症HR,0.41、スタチン使用HR,0.43、RNF213遺伝子多型HR,3.31;1.38-7.90であった。年齢、性で調整した多変量Cox回帰分析では、頭蓋内狭窄の増悪に独立して関連しているのはスタチン使用、RNF213遺伝子多型であった。層別化した検討では、RNF213遺伝子多型で、スタチン使用によるリスク減少はHR,0.20;0.06-0.63と有意であったが、非キャリアではリスク減少に有意ではなかったHR,0.65:0.16-2.63。