2024年7月31日水曜日

急速に認知症が進行した78歳女性

NEJM,2024,vol.391,no.4
Case Records of the MGH
Case 23-2024: A 78-Year-Old Woman with Rapidly Progressive Dementia

3年前より軽度の記憶の問題が指摘。5ヶ月前、姉の死後、感情の平板化あり。4ヶ月前、言葉が急に出なくなる事があり、他院入院。MRIで右前頭葉にDWIで高信号スポット、両側前角周囲深部白質にFLAIRで虚血性変化。MRA正常。アスピリン開始。その後も、物忘れ増悪あり。
他の病歴としては、2型DM、17年前乳癌で乳腺腫瘍切除術、化学放射線療法歴。14年前、ステージ1の肺腺癌手術歴。13ヶ月前に右上肺に7mm大結節。
意識清明、発話は不注意で、関係のないことを話し、流暢。筋力、感覚、深部腱反射、小脳機能正常。造影MRIでは両側の側頭葉内側にT2WI、FLAIRで新たな高信号域あり。両側半球に微小出血あり。髄液検査、蛋白47、オリゴクローナルバンド陽性、HSV核酸テスト陰性、脳波では両側の側頭葉にてんかん波、PLEDs出現あり。

鑑別診断
脳アミロイドアンギオパチー関連炎症
PACNS
自己免疫性脳炎(傍腫瘍神経症候群含む)
血管内リンパ腫
HSV脳炎
次のステップ
自己抗体の検索(抗Hu、AMPA、GABA、GAD)
CAA関連炎症を疑う場合、脳生検

造影CTにて、縦隔、左肺門、肺門周囲LN腫脹。PET-CTで、同部に転移性リンパ節腫脹を示唆する所見と左下肺に肺癌を示唆する所見。気管支FSにて針生検実施し、免疫組織化学染色検査にて、小細胞癌。血清、髄液にて、ANNA-1(抗Hu抗体)陽性。

治療
3日間のグルココルチコイド静注療法、シクロフォスファミド治療。脳波所見よりラコサミド。

2024年7月24日水曜日

関節炎、皮疹をきたした46歳男性

NEJM,2024,vol.390,no.23
Case Records of the MGH
Case 19-2024: A 46-Year-Old Man with Arthritis and Rash

1週間前にたちくらみがあり、4日後、再び、たちくらみがあり、ER受診。体温36.3度、BP147/80,HR109、手・足関節に腫脹あり。赤沈104mm。CRP:0.63、造影CT異常なし。リウマチ科外来紹介。14週前に手関節腫脹、増悪。両側の早朝のこわばりあり。さらに胸部、背部、下肢に皮疹出現。皮疹は夜間の掻痒を伴う、手掌には出現せず。脱毛、食思不振があり、8kg体重減少。2週前には鼻出血あり。違法薬物の使用なし。男性との性交渉があり、5ヶ月前から新しいパートナーと性交渉がある。祖母が乾癬の家族歴。
頭皮には多発性の小さな脱毛部位があり、外鼻孔の遠位に痂皮あり。左の口交連に潰瘍あり。頚部LN腫脹なし。手・足関節は腫脹、熱感あり。いくつかのMP関節腫脹あり。体幹の皮疹は色素沈着のある斑状の皮疹で、体幹の皮疹の一部は落屑あり。

鑑別診断
尋常性乾癬
ANCA関連血管炎、IgA血管炎、ベーチェット病、クリオグロブリン血症などの全身性血管炎
SLE、サルコイドーシス、VEXAS症候群
結核反応性関節炎(Poncet病)
関節炎を起こすアルファウイルス疾患(チクングニアウイルス(カリブ海地域)、マヤロウイルス(南米)
パルボウイルスB19
梅毒
→TP抗体陽性、RPRテスト256倍

梅毒に対しては非経口投与のペニシリンが推奨。2期梅毒にはペニシリンGベンザチン筋注が推奨。2期梅毒の患者の90日以内に性交渉のあるパートナーにはエンピリカル治療要。梅毒患者では、HIV、クラミジア、淋菌の評価が必要。

2024年7月17日水曜日

代謝関連脂肪肝疾患(旧・非アルコール性脂肪肝疾患)、肝線維化に対するSurvodutideのフェーズ2試験

NEJM,2024
A Phase 2 Randomized Trial of Survodutide in MASH and Fibrosis

MASHでは肥満を伴う事が多く、肥満に対してGLP1作動薬は効果が示されているが、肝細胞にはGLP1受容体が存在しない。グルカゴンとGLP1の両方への作動薬は肝でのエネルギー消費、脂肪分解、肝細胞内脂肪の移動などの肝への直接作用が期待できる。25ヵ国、155施設で二重盲検試験として、スポンサーのベーリンガーインゲルハイム社主導で実施。肝生検でNAFLD活動性スコア(NAS)が4点以上、肝線維化F1-F3の18-80歳のMASHを対象とした。主要評価項目は48週後の肝生検でのNASの2点以上の改善。2次評価項目はMRI-PDFFでの肝内の脂肪量の30%以上の減少や、ALT、ASTの改善等。
295例(対照群53.0歳、女性59%、BMI:35.49、T2DM合併39%)が無作為化され、281例95.9%が治療を完遂し、219例が治療終了後の肝生検を受けた(治療後の肝生検非実施例は治療反応なしと判定)。主要評価項目の48週後の肝線維化の悪化のないNAS改善はSurvodutide2.4mg群、4.8mg群、6.0mg群、対照群で47%、62%、43%、14%で有意に改善した。2次評価項目では、MRI-PDFFでの肝脂肪量30%以上の減少は、63%、67%、57%、14%、ALT減少は6.0mg群vs対照群で‐38.5vs-5.7、AST減少は‐32.2vs-2.4であった。

2024年7月10日水曜日

喘息と心血管疾患との関連

CHEST,2021,vol.159,no.4
The Relationship Between Athma and Cardiovascular Disease

フラミンガム・オフスプリング研究のデータを用いた。1979年-2014年に登録された17-77歳の3612例の後方視的人口ベースのコホート。15%533例が喘息と診断。25%897例が研究期間中にCVDを発症。喘息のCVD発症のリスクはハザード比1.40(1.17-1.68)であった。年齢、性、HDLコレストロール、総コレストロール、降圧剤使用、血圧、糖尿病、喫煙、肥満、教育で調整したハザード比でも1.28(1.07-1.54)であった。

2024年7月3日水曜日

トキシックショック症候群(TSS)

Antibiotics,2024,vol.13
Toxic Shock Syndrome: A Literature Review

TSSは超抗原性外毒素の分泌→T細胞活性化→非特異的なポリクローナルなリンパ球活性化→大規模な炎症性サイトカインの分泌→毛細血管透過性亢進、血圧低下、臓器不全、凝固能亢進。
黄ブ菌によるTSS:発熱、びまん性紅斑、発症から1-2週後に特に手掌・足底の落屑、低血圧、臓器障害をきたす。人口10万人あたり0.03-0.07人。
月経関連の黄ブ菌TSS:米国の女性262人のコホート研究では22.9%に腟内に黄ブ菌陽性で、4.2%にTSST-1産生黄ブ菌であったとされる。月経関連TSSでは全例血培陰性であった。仏の102例の月経関連TSSの報告では全例がタンポンを使用し、頻脈、高熱を認め、87%に皮疹、50%に粘膜病変、消化器症状、頭痛を認め、84%が昇圧剤、21%で呼吸器管理が必要であった。
非月経関連の黄ブ菌TSS:術後が最も多い。一般手術の他、産後、中絶後もある。術後4日目が最も多く、血培陽性50%。 
仏に月経関連黄ブ菌TSS102例ではMRSAはなかったが、英の180例(107例が非月経)では3.8%にMRSAを認め、米国の61例のTSSでも7%にMRSAを認めた。ヒトの鼻腔には20-80%でTSST-1産生黄ブ菌が定着しているとされる。カブールにおける健常人150人の鼻腔では68.4%にTSST-1産生のMRSAを検出したとする報告がある。
連鎖球菌によるTSS(STSS):化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes )の重症例の8-22%がSTSSに進行する。壊死性軟部組織感染症の40-50%がSTSSに進行する。血培は60-86%に陽性となる。皮膚損傷のない軽微な外傷、肺炎、子宮内避妊具、化膿性関節炎、熱傷、水痘、産後等もSTSSの原因となる。
STSSは50-69歳に多い。アルコール多飲、NSAIDs使用はリスクとされ、議論はあるが、NSAIDsは壊死性皮膚炎のリスクが3倍とされる。ノースヨークシャーの14例のSTSSでは低血圧100%、急性腎不全93%、肝不全57%、DIC64%、MOF43%で、71%が壊死性皮膚炎であった。
IVIGによるSTSSの治療:欧州の他施設研究では死亡率がIVIG群10%vs非IVIG群36%であったが、有意ではなかった。別のRTCではIVIGで死亡に対して有用性は示せず。
黄ブ菌TSSの死亡率5%、連鎖球菌TSSの死亡率14-64%。