2025年5月28日水曜日

体重減少、衰弱、食思不振をきたした70歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.18
Case Records of the MGH
Case 13-2025: A 70-Year-Old Man with Weight Loss, Weakness and Anorexia

抗うつ薬で治療歴のある70歳男性
6週前に倦怠感増悪。8日前にER受診。CTにて左副腎に19mmの結節認め、画像診断にて腺腫と判断。造影剤を用いたCTAによる頭部、頚部CTでは異常なし。
その後も倦怠感、食思不振持続。この6週で体重13.6kg減少。
患者にはhairy-cell白血病の既往があり、7年間寛解状態。
患者の皮膚はあちこちに打撲痕、皮膚の菲薄化あり。血液検査では血小板減少(9.1万)リンパ球減少(570)あり。カリウム3.1、
入院2日後、進行性の昏迷状態となり、脳波ではてんかん波を認めないびまん性のデルタ波、シータ波を認めた。第5病日には進行性の脳症により気管内挿管を実施。迷走神経刺激装置の存在のため、MRIは実施不能で、CT実施。右尾状核、内包前脚にLDAを認めた。髄液検査では初圧58cm、蛋白92,ブドウ糖2,赤血球500,細胞数67(好中球48,リンパ球32,単球16)。

鑑別診断:倦怠感、高血圧、低カリウム血症、高血糖、気分の悪化、味覚障害皮膚病変(皮膚菲薄化)等→Cushing症候群を疑う所見
髄液異常(細胞数増多、蛋白上昇、著明な初圧高値)→髄膜脳炎疑い

診断:5日目の血培陽性(血液寒天培地で酵母疑い)。墨汁染色でクリプトコッカス疑い。血液、髄液でのクリプトコッカス抗原のラテックス凝集抗原検査で4096倍。24時間尿中コルチゾール400μg(基準値3.5-45)。
→Cushing症候群に伴うクリプトコッカス・ネオフォルマンス感染

2025年5月21日水曜日

現在のCTから予想される生涯がんリスク

JAMA Int Med,2025
Projected Lifetime Cancer Risks From Current Computed Tomography Imaging

カルフォルニア大学UCSFの国際CT線量登録のデータ(米国の143施設および22の医療機構)を用いて検討。2016年と2020年のデータを用いて2023年のCT検査数を推定。米国科学アカデミーの放射線の生物学的影響のリスクモデルを活用した米国がん研究所の放射線評価ツール(RadRAT)を使用し放射線誘発がんリスクを予測した。このリスクモデルでは11の部位のがん、さらに7つの部位のがんについて、日本の原爆被爆者の最近のフォローアップのデータが用いられた。
結果、2023年に6151万人の患者が9300万件のCTを受けたと推定。小児は4.2%。これらの検査により10万3000件の放射線誘発がんが発生すると予想された。肺癌22400件、大腸癌8700件、白血病7900件、膀胱癌7100件、女性では乳癌5700件。成人におけるがん発生件数が多かったのは腹部・骨盤CTと予測(がん件数では37%、CT件数では32%)、胸部CTではがんで21%、CT件数21%と予測された。CT関連がんは、年間の新規がん診断の5%を占めると予想された。

2025年5月14日水曜日

時間毎の暑熱暴露と急性虚血性脳卒中

JAMA Network,2024,vol.7,no.2
Hourly Heat Exposure and Acute Ischemic Stroke

中国全土の200以上の脳卒中センターからなる脳卒中ビッグデータ(BOSC)のデータを用い、18歳以上、脳卒中発症後7日以内に入院、自己申告の発症時刻のわかるものを用い、2019-2021年で気温の高い4-9月の患者を対象とした。100キロ圏内の気象台のデータを用い、発症時刻から24時間の1時間毎の気温、湿度を用いた。条件付きロジスティック回帰分析+時間差を考慮した時系列データ非線形解析モデルにて検討した、329地点、82455人の虚血性脳卒中患者で解析。年齢65.8±11.9歳、男性63.4%、喫煙32.1%、アルコール24.2%、高血圧59.7%、脂質異常症3.0%、AF3.4%。発症3時間以内の来院率11.8%。気温を100パーセンタイル分位とした場合、最も低い1パーセンタイル分位を基準とすると気温12.1度、99パーセンタイル分位の気温は33.3度で、高い気温では、虚血性脳卒中の発症はオッズ比1.88(1.65-2.13)で高く、脂質異常があるとオッズ比は4.68(2.15-10.17)となった。高い気温の暴露の影響は10時間持続し、気温はオッズ比に線形に影響し、北部地域でより強い影響を認めた。

2025年5月7日水曜日

日本におけるHFpEFの疫学、病態生理、診断、治療(総説)

J Cardiac Failure,2023,vol.29,no.3
Epidemiology, Pathophysiology, Diagnosi, and Therapy of Heart Failure With Preserved Ejection Fraction in Japan

佐渡ヶ島での一般市民の疫学の推計では日本の心不全は2005年で100万人(1.0%)、2020年で120万人(1.2%)とされ、米国の2018年2.1%に比して少ない。日本でのHFpEFの院内死亡率は5.1-7.8%。心不全での心臓突然死は日本/韓国でHFpEFの6.1%/年と報告された。
日本では欧米に比して心不全での肥満が少ない(6.5%、米国75%)。肥満が少ないにもかかわらず、アジア人のHFpEFでは糖尿病は少なくない。それはインスリン分泌能、β細胞量が非アジア人に比して少ないためとされる。日本のHFpEFではCKDも多い。高齢者のHFpEFではフレイルも多く55.2%。AFの合併率は55%。
心臓アミロイドーシスはHFpEFの原因として過小評価されている。日本の80歳以上の剖検例では11.5%にトランスサイレチン・アミロイドの沈着が見られた。
HFpEFの治療ガイドラインとして、うっ血に対して利尿剤、高血圧、糖尿病、AFに対する治療、運動とともに、MRA、ARNI、ARBの使用を推奨。2022年のガイドラインではSGLT2阻害薬がHF入院、心不全死亡を下げるとして推奨。
日本のHFpEF患者ではサルコペニア、フレイルが多く、体重減少のあるHFpEFの死亡率は5倍高いとされる。日本の外来心不全患者で、心臓リハビリテーションを受けているのは7.3%にすぎない。