2025年10月15日水曜日

HFrEFにおけるジギトキシン

NEJM,2025,vol.393,no.12
Digitoxin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction

1997年のDIG研究では、主要評価項目である全死亡でジゴキシンは優位性を示せなかった。同研究の事後解析で、ジゴキシン濃度の低い群(0.5-0.9ng/mL)では臨牀転帰が良好であった。DIG研究から10年以上が経過し、ARNI、SGLT2阻害薬や様々な心臓デバイスが登場した中で、DIGIT-HF研究として、ジギトキシンについて、二重盲検多施設RCTをドイツ、オーストリア、セルビアの65施設で実施した。対象はNYHA3-4でLVEF≦40またはNYHA2でEF≦30のもの。1対1に割付し、ジギトキシン0.07㎎/日投与、血中濃度wp8-18ng/mlに調整。主要評価項目は全死亡+心不全増悪初回入院。当初、80%のパワーで有意差を出すために、2190例、734イベントが必要と計算。2015年より患者の登録を開始したが、2023年までに1240人が登録され、1212例がランダム化(ジギトキシン群613例(66歳、女性19.9%、LVEF28%、eGFR:65,ICD:67%、CRT:26%、β阻害薬96%、ARNI:40%、MRA:76%、SGLT2阻害薬19%)対照群599例)された。中央値36ヶ月観察、薬剤投与期間は肘頭地18ヶ月(0-107ヶ月)薬剤中断率はジギ群58.9%vs対照群55.1%。全死亡+心不全増悪初回入院は39.5%vs44.1%、ハザード比0.82(0.69-0.98)で有意に良好であった。NNTは22.有害事象による薬剤中断は9.1%vs10.2%。

2025年10月8日水曜日

肥満成人に対する経口セマグルチド25mgの効果

NEJM,2025,vol.393,no.11
Oral Semaglutide at a Dose of 25mg in Adults with Overweight or Obesity

米国、カナダ、ドイツ、ポーランドの4カ国22施設で、二重盲検RCTとして実施。DMのないBMI≧30または≧27で高血圧、脂質異常症、睡眠無呼吸症候群、CVDの一つ以上あるものを対象。2:1でランダム化。セマグルチドは3mgより開始、4週毎に7,14,25mgへ増量。起床時に120mL以下で内服、30分以上飲食しない。
評価項目は64週後の体重変化、5%以上の体重減少。205例がセマグルチド群(48歳、女性75.6%、BW:106kg、BMI:37.5,HbA1c:5.7)、102例が対照群に割り付け。64週でセマグルチド群で167例継続。25mgまで増量できたのは136例。64週での体重変化は実薬群で-13.6、対照群-2.2%で有意に減少。5%以上のBW減少達成は79.2%vs31.1%、10%達成で63.0%vs14.4%、15%達成で50.0%vs5.6%で有意に達成していた。有害事象は、嘔気46.6%vs18.6%、嘔吐30.9%vs5.9%、持続的な内服中断は6.9%vs5.9%であった。

2025年10月1日水曜日

高齢者、超高齢者におけるスタチンによる一次予防のベネフイットとリスク

Ann Int Med,2024,vol.177
Benefits and Risks Associated With Stain Therapy for Primary Prevention in Old and Very Old Adults

75歳以上のスタチンよる脳血管疾患CVDの一次予防についてはコンセンサスがない。75-84歳、85歳以上のスタチンによるCVD一次予防についてリアルワールドの電子的健康情報(EHR)を用いて検討した。香港健康省の運営するEHRデータを使用。60歳以上でCVDを認めないものを対象とした。LDLコレステロール≧160で、CVDリスク(高血圧、肥満、喫煙、耐糖能異常)が0-1個、またはLDLコレステロール≧130でCVDリスク2-3個、またはLDLコレステロール≧100でCVDを有するものをスタチン適応とした。2400万人がスクリーニングされ、CVD既往のないものでスタチン適応があるもので投与開始群が60-74歳で734217人、75-84歳で21340人、85歳以上で2695人。プロペンシティスコアをマッチさせたものを1対1で抽出し、平均5.6年、75歳以上で5.3年観察した。結果はITT解析で、CVD発生は60-74歳ハザード比0.86(0.86-0.92)、75-84歳:0.94(0.90-0.98)、85歳以上:0.85(0.77-0.94)。全死亡で0.87,0.90、0.85で有意にスタチンはリスクを減らしていた。ミオパチーと肝障害の頻度は有意差は認めず。

2025年9月24日水曜日

痙攣様運動、奇妙な行動をきたす19歳女性

NEJM,2025,vol.393,no.5
Case Records of the MGH
Case 22-2025: A 19-Year-Old Woman with Seizurelike Activity and Odd  Behaviors

10日前まで健常。呂律緩慢、右上肢の発作的な粗大振戦、しびれ自覚。7日前、駅のプラットホームで、全身のふるえ(shaking)後、転倒するのが目撃され、救急隊到着時にはよだれを垂らし昏迷状態であったが、他病院のER到着時には清明。血清乳酸値高値。頭部CT、MRI異常なし。その日は3回、突然の極度の不安発作があり、いずれも60-90秒の全身のshakingを伴い、3回目の際は無呼吸を伴い、酸素飽和度も低下しバッグマスクで換気する程であった。LZP、LEV開始。脳波では明らかなてんかん波認めず。4日目、退院。その途中、右手、口がガタガタ動き出し、返事しなくなり、再びERへ戻る。そこでは、会話はできなかったが、スマホでメッセージがやりとりできるようになった。その後、無言無動で、右上下肢がピクピク(twitching)していたが、脳波は正常。その3日後に退院となるが、その翌日、右手のしびれ、右上下肢のtwitching、無言無動が出現し、当院ER受診。
両親に聴取すると、うつ病、不安症の既往。祖父に統合失調症歴あり。

鑑別診断
左頭頂葉の部分発作、若年性ミオクロニーてんかん
カタトニア(緊張病)
サイコシス(精神症):中毒(デキストロメトルファン、合成カンナビノイド)、HSV、Lyme病、HIV、神経梅毒。急性間欠性ポルフィリン症。
自己免疫性脳炎(抗NMDA受容体脳炎)

診断・治療
髄液細胞数19,髄液蛋白正常。髄液中HSV-DNA陰性(判明までアシクロビル継続)。HSV脳炎が否定された段階、抗NMDA受容体脳炎が強く疑われ、3日目にステロイド投与、IVIG開始。腹部検査で卵巣腫瘍指摘。7日目に摘出術。11日目に血清でNMDAのグルタミン酸NR1サブユニットに対する自己抗体陽性判明。髄液の抗体検査は検体不足で実施できず。

2025年9月17日水曜日

労作時呼吸困難、胸痛をきたした54歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.4
Case Records of the MGH
Case 3-2025: A 54-Year-Old Man with Exertional Dyspnea and Chest Pain

生来健康、17ヶ月前に胸部圧迫感、労作時呼吸困難自覚し、高強度の嫌気的運動ができなくなった。冠動脈CT正常。16ヶ月前、収縮期雑音指摘。心電図では新たな右軸変異、R波減蒿、下側壁のT波陰転。心エコーで軽度MR。心臓MRI検査では左室壁18mmと肥厚し、HCMは疑われたが、確定もせず。
頚静脈圧13㎝・H2O、クスマウルサインあり。心肺運動負荷試験では最大酸素摂取量が年齢平均の59%に低下。NT-proBNP:2099。

鑑別
HCM
拘束型心筋症(強皮症、糖尿病性心筋症、好酸球増多症、原発性など)
浸潤性疾患による心筋症(サルコイドーシス、アミロイドーシス)

診断、治療
血清IgG:715(700~1600)、IgA:29(66~436)、IgM:13(43~279)。免疫電気泳動検査にてモノクローナルなκ軽鎖あり。フリーκ軽鎖:3653(3.3~19.4)。骨髄生検、脂肪組織生検実施。
骨髄生検ではアミロイド沈着は認めないが、異形成のある形質細胞増加。脂肪組織ではアミロイド沈着がみられ、免疫蛍光染色でκ軽鎖陽性。ALアミロイドーシス。
多発骨髄腫に準じて治療。ボルテゾミブ(プロテアーゼ阻害薬)+サイクロフォスファミド+デキサメサゾンに加えて、ドラツムマブ(抗CD38モノクローナル抗体薬)。
本患者では心房細動併発し、アピキサバン開始。化学療法3クール後、夜間に心停止、死亡。

2025年9月10日水曜日

呼吸不全と胸部異常陰影をきたした28歳女性

NEJM,2025,vol.393,no.7
Case Records of the MGH
Case 23-2025: A 28-Year-Old Woman with Respiratory Failure and Abnormal Chest Imaging

3.5年前、4週間続く咳、呼吸困難でER受診、喘鳴を認め、胸部XPにて気管支壁肥厚。経口PSL、ICS+LABAで治療。その後も労作時呼吸困難持続。末梢好酸球897、IgE:501、CTではびまん性の小葉中心性、小結節性のすりガラス影。
3週前、酸素飽和度は安静時91%、30m歩行で86%。造影CTでは肺塞栓の所見なし、肺門部・縦隔LN腫脹、心嚢液少量貯留。NT-proBNP:3640。
ER受診、心エコーでは右室拡大著明。右室圧91、心カテ検査では右房圧14、PA圧99/56、平均PA圧71、肺動脈楔入圧12。ANA、ANCA、抗DsDNA、抗トポイソメラーザ1、抗Ro、抗La抗体等陰性。糞線虫、住血吸虫、アスペルギルス抗体陰性。βグルカン、ガラクトマンナン検査陰性。CTではすりガラス陰影あり、肺動脈拡大、胸水貯留、小葉間隔壁肥厚。ICU入室、プロスタグランジン製剤、利尿剤開始。

鑑別診断
前毛細血管性PH:慢性肺疾患、肺塞栓、PAH
住血吸虫、HIVに関連するもの
原発性PAH
肺静脈閉塞症、肺毛細血管腫症

診断、治療経過
年齢も若く緊急性が高いと判断され、胚移植の対象としてリストアップされ、リスト掲載後、1週で肺移植実施。病理診断で肺静脈閉塞症+肺毛細血管腫症。
術後5日まではECOM管理、4週後退院、1年後、復職。

2025年9月3日水曜日

倦怠感と筋痛をきたした32歳女性

NEJM,2025,vol.393,no.8
Case Records of the MGH
Case 24-2025: A 32-Year-Old Woman with Fatigue and Myalgias

2.5年前、COVI19後より倦怠感、頭痛、筋痛、ブレインフォグの症状あり。血液検査は正常で、CMV、EBV、エーリキア属、アナプラズマ症、ボレリアも陰性。その2年後、コロナ再感染。
今回、9日前より頭部と肩へ放散する頚部痛。痛みは改善せず、右上肢へ放散するようになり、倦怠感が悪化。頚椎XP正常。経口PSL開始。頚部痛は改善したが、その後、胸痛自覚。GOT:170、D-ダイマー1.7、CTアンギオでは肺塞栓の所見なし。患者は郊外居住、敷地でウサギや羊を飼育。ハイキング、キャンプが趣味。
血液検査ではCRP、CK、トロポニンT正常。GOT:89、Dダイマー:0.43。NT-proBNP:604,胸部XP正常、心電図:ウェンケバッハ型房室ブロック。

鑑別診断
Long-COVID、肺塞栓症、ACS
心筋症(ヒドロキシクロロキンで中毒性心筋症)
リウマチ熱、細菌性心内膜炎はAVブロックの原因になりうる
ブルセラ症(動物の飼育歴)ブルセラ症では稀に心内膜炎あり。
ライム心筋炎は2度房室ブロックから3度房室ブロックへ進行するため、考慮必要。
ライム病は早期は遊走性紅斑、ブルズ・アイ(同心円状に広がる皮疹)。発症数週以降で、心筋炎、神経症状、関節炎。神経症状としては脳神経麻痺、髄膜炎、疼痛性神経根症状。
診断、経過
本患者ではダニの刺し口は認めず。ボレリア・ブルグドフェリIgM、IgG抗体陽性。ライム心筋炎は米国のライム病の1%に見られる。経口抗菌薬にて治療。一過性に3度房室ブロックをきたしたが軽快。