2025年11月26日水曜日

呼吸苦、浮腫、ペースメーカのリード位置異常をきたした79歳男性

NEJM,2025,vol.393,no.19
Case Records of the MGH
Case 32-2025: A 79-Year-Old Man with Dyspnea, Edema, and Pacemaker-Lead Displacement

2ヵ月前に労作時呼吸困難をきたし、心電図にて徐脈性の接合部リズムで洞停止を認め、永久心臓ペースメーカ留置。dual-chamber pacemakerの植込み予定であったが、右房のセンシング閾値が低く、ペーシング閾値が高く、技術的に困難で、最終、右房開口部にリードが留置された。ペースメーカ留置後、調子が良かったが、その1ヶ月後、再び両上下肢浮腫、呼吸苦が悪化。心エコーにて、1か月前には認めなかった右房内に5×4㎝大の不規則な低エコー腫瘤が見られた。造影CTでは、不規則な腫瘤で、縦隔に多発性のリンパ節腫大を認め、PET-CTでも縦隔に異常集積は認めたが、他には明らかな異常は認めず。

鑑別診断
右房内腫瘤:感染性心内膜炎、転移性心臓腫瘍(乳癌、腎癌、メラノーマ、リンパ腫)、良性原発性心臓腫瘍(粘液腫(左房に多い)、脂肪腫、乳頭状弾性線維腫など)、悪性原発性心臓腫瘍(血管肉腫、横紋筋肉腫、悪性リンパ腫)
悪性リンパ腫はHIV、EBV、臓器移植をリスク因子とし、最近、増加傾向。その中で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫DLBCLが最も多い。
診断的検査:右心房腫瘤への経静脈的生検は塞栓症や血管・心房損傷のリスク大。経気管支的に針生検を実施し、病理にDLBCL確定。
最初にリツキシマブ、ビンクリスチン、PSLで治療を行い、2期目はR-CHOPレジメで治療。当初、経過良好であったが、その後、腫瘍サイズ大きくなり、診断から10か月後、死亡。

2025年11月19日水曜日

AF合併のアテローム性動脈硬化性疾患を合併した虚血性脳卒中予防の最適な抗血栓療法 —ランダム化臨床試験—

JAMA,2025
Optimal Antithrombotics for Ischemic Stroke and Concurrent Atrial Fibrillation and Atherosclerosis
A Randomized Clinical Trial

ATIS-NVAF試験。オープンラベルの多施設前向きランダム化臨床試験。日本の41施設で実施。対象:20歳以上の脳梗塞、TIA発症から8-360日で、発作性または持続性AFで、経口抗凝固薬OACを内服中または開始する患者で、次の状態を1つ以上有する者、50%以上のICA狭窄、50%以上の頭蓋内主幹動脈狭窄、CAS・CEA後、脳梗塞・虚血性心疾患・PADの既往。除外は12か月以内のACS、PCI等。OAC単独治療群、OAC+抗血小板剤の併用療法群の1対1にランダム化。薬剤の種類、量は主治医の裁量。主要評価項目は2年間の虚血性心血管イベント(心血管死、脳梗塞、MI、全身性塞栓症等)+国際血栓止血学会ISTHの重大出血。2017年~2022年に321人が登録され、316人(女性28.5%、77.2±7.4歳)がランダム化。発症21日でランダム化され、707日観察。中間解析で終了。主要評価項目は併用群vsOAC単独群で17.8%vs19.6%、HR,0.91(0.53-1.55)で有意差なし。ITT解析でもper-protocol解析でも同様。二次評価では虚血性心血管イベントで11.1%vs14.2%(HR, 0.76(0.39-1.48)、脳梗塞で9.2%vs13.0%(HR,0.67(0.32-1.39)でいずれも併用群の方がリスクを減らす傾向はあったが有意差はなし。ISTHの重大出血では9.4%vs5.6%で有意差はなかったが、ISTH重大出血+臨床上著明な出血では19.5%vs8.6%、HR,2.42(1.23-4.76)で出血イベントが有意に多かった。今回のランダム化臨床試験ではAF合併患者の脳梗塞再発予防ではOAC単独治療でも再発に有意差はなく、併用療法では出血イベントが多かった。

2025年11月12日水曜日

前立腺癌スクリーニング欧州研究、23年のフォローアップ

NEJM,2025,vol.393,no.17
European Study of Prostate Cancer Screening-23-Year Follow-up

前立腺癌のランダム化されたスクリーニング研究(ERSPC)は1993年から実施され、16年のフォローアップでは前立腺癌死亡を相対的に20%有意に減らしたが、ベネフィットは過剰診断、過剰治療により相殺された。今回、中央値23年間のフォローアップを検討した。ERSPCは1993年、オランダ、ベルギーで開始され、スウェーデン、フィンランド、イタリア、スペイン、スイスなどに拡充して実施。55-69歳の166236人をPSAによるスクリーニング群72888人、対照群89348人に割り付け。スクリーニング群ではPSAを最低2回、多くの施設では4年毎に測定。23年間のフォローアップではスクリーニング群で12%、対照群では14%に前立腺癌が発生。リスク比1.30(1.26-1.33)で、1000人あたり前立腺癌の絶対数増加は27であった。23年間の前立腺癌の累積死亡は1.4%vs1.6%でリスク比0.87(0.80-0.95)で、前立腺癌の絶対リスク減少は0.22%であった。23年では456人のスクリーニングで1人の前立腺癌死亡を減らし、前立腺癌と診断された12人で1人の前立腺癌死亡を減らした。これはフォローアップ期間が長くなると小さくなっていた。

2025年11月5日水曜日

黄ブ菌菌血症の治療

JAMA,2025,vol.334,no.9
Management of Staphylococcus aureus Bacteremia A Review


2017年の時点で、耐性菌の中でMRSAは52%。黄ブ菌菌血症の90日死亡率は27%。高収入国では10万人あたり9.3-65人の黄ブ菌菌血症が発生。2348人を21年間観察した研究ではCVカテや心臓デバイスを植込した患者では54%に黄ブ菌菌血症を発症。
黄ブ菌は30%の人で、鼻腔、咽頭、皮膚、消化管に存在。細胞の表面にMSCRAMMs(接着性マトリックス分子認識因子)を介して接着後、ポリサッカライド、蛋白質、免疫システムから防御する細胞外DNAによるバイオフィルムを形成。さらに凝固因子、vonWF結合蛋白を活性化して膿瘍を形成。膿瘍が破裂すればさらに新しい膿瘍を形成を誘引する可能性がある。
感染フォーカスは骨関節部14.4%、血管内構造物17.8%、肺5.9%で尿路はほとんどない。特定できないものも20%を占める。
MSSAに対してはCEZまたは抗ブ菌PC(ナフシリン、フロキサシリン)が推奨。MRSAに対してはVCM、ダプトマイシン、セフトビプロールが推奨される。
低リスク、臓器障害のないMSSA、MRSAの菌血症に対しては2週間の抗菌薬治療、高リスク、臓器障害のある菌血症に対しては4-6週間の抗菌薬治療が必要。
感染源管理は重要。5325人の米国の報告では心臓デバイスの除去の有無での死亡率は5.6%vs16.4%、OR,0.31とされた。


2025年10月22日水曜日

発熱をきたした36歳男性

NEJM,2024,vol.390,no.7
Case Records of the MGH
Case 5-2024: A 36-Year-Old Man with Fevers

18日前まで健康。38.4℃の発熱、咽頭痛。口蓋扁桃白斑あり。家庭でのコロナ抗原検査陰性。咽頭培養陰性。1週前に米国南西部に旅行。旅行中、妻発熱、咽頭痛。頸部痛あり。嚥下困難、嚥下痛なし。EBV検査陰性。血培陰性。CTで甲状腺右葉に結節。
診察時、36.6℃、心拍数130、硬い圧痛のない甲状腺蝕知。

鑑別診断
薬剤性、自己免疫疾患
感染症(コクシジオイデス症、HSV、細菌性咽頭炎、EBV、CMV、HIV)
亜急性甲状腺炎

診断:TSH:0.4以下、FT4:3.7↑、TRAb陰性、TSIindex:0.1以下→亜急性甲状腺炎
NSAIDs、ステロイド、β阻害薬にて治療。

2025年10月15日水曜日

HFrEFにおけるジギトキシン

NEJM,2025,vol.393,no.12
Digitoxin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction

1997年のDIG研究では、主要評価項目である全死亡でジゴキシンは優位性を示せなかった。同研究の事後解析で、ジゴキシン濃度の低い群(0.5-0.9ng/mL)では臨牀転帰が良好であった。DIG研究から10年以上が経過し、ARNI、SGLT2阻害薬や様々な心臓デバイスが登場した中で、DIGIT-HF研究として、ジギトキシンについて、二重盲検多施設RCTをドイツ、オーストリア、セルビアの65施設で実施した。対象はNYHA3-4でLVEF≦40またはNYHA2でEF≦30のもの。1対1に割付し、ジギトキシン0.07㎎/日投与、血中濃度wp8-18ng/mlに調整。主要評価項目は全死亡+心不全増悪初回入院。当初、80%のパワーで有意差を出すために、2190例、734イベントが必要と計算。2015年より患者の登録を開始したが、2023年までに1240人が登録され、1212例がランダム化(ジギトキシン群613例(66歳、女性19.9%、LVEF28%、eGFR:65,ICD:67%、CRT:26%、β阻害薬96%、ARNI:40%、MRA:76%、SGLT2阻害薬19%)対照群599例)された。中央値36ヶ月観察、薬剤投与期間は肘頭地18ヶ月(0-107ヶ月)薬剤中断率はジギ群58.9%vs対照群55.1%。全死亡+心不全増悪初回入院は39.5%vs44.1%、ハザード比0.82(0.69-0.98)で有意に良好であった。NNTは22.有害事象による薬剤中断は9.1%vs10.2%。

2025年10月8日水曜日

肥満成人に対する経口セマグルチド25mgの効果

NEJM,2025,vol.393,no.11
Oral Semaglutide at a Dose of 25mg in Adults with Overweight or Obesity

米国、カナダ、ドイツ、ポーランドの4カ国22施設で、二重盲検RCTとして実施。DMのないBMI≧30または≧27で高血圧、脂質異常症、睡眠無呼吸症候群、CVDの一つ以上あるものを対象。2:1でランダム化。セマグルチドは3mgより開始、4週毎に7,14,25mgへ増量。起床時に120mL以下で内服、30分以上飲食しない。
評価項目は64週後の体重変化、5%以上の体重減少。205例がセマグルチド群(48歳、女性75.6%、BW:106kg、BMI:37.5,HbA1c:5.7)、102例が対照群に割り付け。64週でセマグルチド群で167例継続。25mgまで増量できたのは136例。64週での体重変化は実薬群で-13.6、対照群-2.2%で有意に減少。5%以上のBW減少達成は79.2%vs31.1%、10%達成で63.0%vs14.4%、15%達成で50.0%vs5.6%で有意に達成していた。有害事象は、嘔気46.6%vs18.6%、嘔吐30.9%vs5.9%、持続的な内服中断は6.9%vs5.9%であった。