2025年7月30日水曜日

咳、呼吸困難、低酸素血症をきたした75歳男性

NEJM,2025,vol.393,no.4
Case Records of the MGH
Case 21-2025: A 75 Year-Old Man with Cough, Dyspnea, and Hypoxemia

7ヶ月前にACO(オーバーラップ症候群)と診断され、ステロイドの点滴投与、経口PSL漸減中。その3週後、呼吸器症状持続で、経口PSL開始、末梢血Eo:910、IgE:4440IU/mL、ABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)と診断され、デュピルマブが開始。その6週後、発熱、肺うっ血増悪。市中肺炎と診断、アジスロマイシン、セフェム系抗菌薬開始。喀痰から肺炎桿菌。その3ヶ月前、喘鳴持続するため受診。Eo:100、IgE:516、アスペルギルス特異的IgE:27.5IU。経口PSL再開。

6週前に中米を訪問、そこで呼吸器症状増悪し、現地医療機関受診。状態改善せず、そのままボストンのホテル到着し、ER受診。

4L経鼻酸素で、酸素飽和度91%、呼吸回数32、喀痰塗抹でグラム陽性桿菌、グラム陰性桿菌。アデノウイルス、クラミジア、コロナ、メタニューモ、マイコプラズマ等のPCR陰性。肺CTで膨隆した浸潤影が左下肺にあり。ネイサルハイフロー60Lでも酸素飽和度92%、レジオネラ、ヒストプラズマ抗原陰性。IGRA陰性。


鑑別診断;

血管炎、癌、感染症

感染症では真菌、寄生虫、抗酸菌、グラム陽性菌

免疫抑制状態で、空洞形成する肺炎のグラム陽性菌として、ロドコッカス属、アクチノミセス、ノカルジア。

診断:

グラム染色でフォラメント状、分枝し、玉状の形成が確認され、アクチノミセスまたはノカルジアが疑われ、抗酸菌塗抹検査で陽性。培養にて最終的にノカルジア、マイコバクテリウム・アブセスサス。

治療:

経静脈的ST剤、イミペネムで39日間治療

2025年7月23日水曜日

腎移植後、呼吸不全、ショックをきたした61歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.23
Case Records of the MGH
Case 17-2025: A 61-Year-Old Man with Respiratory Failure and Shock after Kidney Transplantation

10週前に高血圧性の腎硬化症の末期腎障害に対して腎移植。術後4日で退院。退院後、経口PSL、タクロリムス、ミコフェノール、ST合剤、バルガンシクロビルが投与。その後、HbA1c:7.7%でセマグルチドの週1投与開始。飼い猫に左足部を引っかかれ、発赤腫脹、アモキシシリンクラブラン酸にて軽快。10日前、血糖519にて、前医入院。5日前、酸素飽和度93%に低下。BP84/48、HR120、胸部XP、肺水腫。PIPC/TAZ開始。その後ネイサル・ハイフロで40L投与、気管内挿管、BP81/53。VCM、MEPM投与。MGH転院。腹部に紫斑。胸部XP、肺水腫。小腸、大腸のガス像著明。血液検査、WBC:20420、好酸球980、Metamyelo980、Myelo490、Promyelo740、PLT:40.9万、βDグルカン:87

鑑別診断:免疫抑制状態の呼吸不全、ショック
市中肺炎、院内発症肺炎、日和見感染症、ニューモシスチス肺炎
猫に引っかかれた、犬猫保護団体のボランティア歴→パスツレラ、カプノサイトファーガ・カニモルサス

PSL内服中にもかかわらず好酸球増多→寄生虫感染→ドナー由来糞線虫症
気管支内視鏡検査:吸引物のグラム染色で250~300ミクロンの虫体→糞線虫Strongyloides stercoralis
腹部の皮膚病変の生検
気管支内視鏡検査の吸引物だけでは、Ascaris lumbricoides回虫症も鑑別になるが、形態、サイズから糞線虫

治療:イベルメクチン+アルベンダゾールに加えて寄生虫侵入に関連した菌血症のハイリスクに備え、VCM、MEPM継続。
BKウイルス血症も発症。

2025年7月16日水曜日

抑うつ状態、低血圧をきたした13歳少年

NEJM,2023,vol.388,no.21
Case Records of the MGH
Case 16-2023: A 13-Year-Old Boy with Depression and Hypotension

ADHD、境界型人格障害、大うつ病の13歳少年。自傷行為、希死念慮で入院繰り返す。3週間前に退院。抑うつ状態、希死念慮の悪化によりER受診。ERより精神科病院への転院が要請されたが、空床なくER待機。ERの急性期精神科病床での41日目、オランザピンの定期内服。12時間後、BP69/39、HR88。不快感、立ちくらみ、嘔気、腹痛の訴え。3時間後、BP79/45、HR85。血液、尿の中毒検査は陰性。腹部造影CT異常なし。

鑑別診断
分布異常性ショック、循環血液量減少性ショック、心原性ショック(小児では心筋炎、ライム心筋炎など)、閉塞性ショック(心タンポナーデ、肺塞栓、緊張性気胸)、
薬物効果:12時間後も血圧低下、徐脈持続。オランザピンは血圧低下の作用あり、しかし、徐脈はそれほどない。グアンファシン、クロニジンはα2アドレナリン作動薬は降圧薬であり、ADHDなどの行動異常に用いられる薬剤で、治療域は狭く、過量では昏迷、徐脈、血圧低下をきたす。

最終診断:α2アドレナリン作動薬中毒
本人に直接尋ねると、部屋に置かれていたグアンファシンのボトルの薬剤を飲んだとのこと。
治療:輸液。加えてノルエピネフリンなどの昇圧剤。症候性徐脈にはアトロピン。リバース効果を期待してナロキソン。

2025年7月9日水曜日

指先測定の終末糖化産物AGEsと外来心血管患者の心血管イベント

Cardiovascular Diabetology,2023,vol.22
Association between fingertip-measured advanced glycation end products and cardiovascular events in outpatients with cardiovascular disease

CVD患者における指先で測定されたAGEsスコアと心血管イベントの関連性について検討。一施設(北里大学病院)での後方視的観察研究。204人の心臓リハビリテーション実施者が登録され、最終的に191人で評価。AIR WATER BIODESIGN社の指先測定のAGEs測定器を用いた。AGEsスコアは主にメチルグリオキサールを反映し、0.0~10.0で表され、50歳の健康な日本人男性の平均スコアは0.5(メーカー調査)。腫瘍評価項目は心血管イベント(心血管死、MI、PCI、心不全、脳卒中)。AGEsスコアの中央値0.51で、それにより高AGE群、低AGE群に分けて評価。
高AGE群96例(73.1歳、男性62%、BMI23.9、心不全56%、CKD58%、LDLコレステロール88.1、HbA1c6.3%、クレアチニン1.16、eGFR55.6)低AGE群95例でベースラインでは有意差は認めず。平均15.1ヶ月フォローされ、心血管イベントは27.1%vs10.5%、p=0.007で、MI発症4.2%vs0.0%、p=0.043、PCI実施7.3%vs1.1%、p=0.037。30ヶ月までフォローされたものでも同様の結果。単変量解析では心血管イベントと関連していたのは、BMI、HF、虚血性心疾患、BNP、AGEスコア、握力、6分間歩行であった。AGEスコアと6分間歩行で心血管イベント検出のAUCによる最適カットオフ値は0.51、378mであった。

2025年7月2日水曜日

高リスクの2型糖尿病における経口セマグルチドでの心血管アウトカム

NEJM,2025,vol.392,no.20
Oral Semaaglutide and Cardiovascular Outcomes in High-Risk Type 2 Diabetes

SOUL研究。50歳以上のHbA1c6.5-10.0%の2型糖尿病で、冠動脈疾患、脳血管疾患、症候性の末梢動脈疾患、eGFR<60のCKDの一つ以上有するものを対象とし、経口セマグルチド群とプラセボ群を1対1で割付。セマグルチドは3㎎から開始し、7㎎か14㎎まで増量。主要評価項目は心血管死、MI、脳卒中の複合。33か国、444施設で実施。9650人が登録され、経口セマグルチド群4825人(66.1歳、女性28.5%、白人69%、アジア系23.5%、HbA1c8.0±1.2)プラセボ群4825人。中央値49.5カ月フォロー。心血管イベントは12.0%vs13.8%(3.1イベント/100人・年vs3.7)でハザード比0.86(0.77-0.96)であった。二次評価項目の主要腎障害(心血管死、腎関連死、eGFR50%以上悪化、eGFR<15、腎代替療法導入)はハザード比0.91(0.80-1.09)、心血管死0.93(0.80-1.09)、四肢イベント0.71(0.52-0.96)で有意差は認めず。