2025年9月24日水曜日

痙攣様運動、奇妙な行動をきたす19歳女性

NEJM,2025,vol.393,no.5
Case Records of the MGH
Case 22-2025: A 19-Year-Old Woman with Seizurelike Activity and Odd  Behaviors

10日前まで健常。呂律緩慢、右上肢の発作的な粗大振戦、しびれ自覚。7日前、駅のプラットホームで、全身のふるえ(shaking)後、転倒するのが目撃され、救急隊到着時にはよだれを垂らし昏迷状態であったが、他病院のER到着時には清明。血清乳酸値高値。頭部CT、MRI異常なし。その日は3回、突然の極度の不安発作があり、いずれも60-90秒の全身のshakingを伴い、3回目の際は無呼吸を伴い、酸素飽和度も低下しバッグマスクで換気する程であった。LZP、LEV開始。脳波では明らかなてんかん波認めず。4日目、退院。その途中、右手、口がガタガタ動き出し、返事しなくなり、再びERへ戻る。そこでは、会話はできなかったが、スマホでメッセージがやりとりできるようになった。その後、無言無動で、右上下肢がピクピク(twitching)していたが、脳波は正常。その3日後に退院となるが、その翌日、右手のしびれ、右上下肢のtwitching、無言無動が出現し、当院ER受診。
両親に聴取すると、うつ病、不安症の既往。祖父に統合失調症歴あり。

鑑別診断
左頭頂葉の部分発作、若年性ミオクロニーてんかん
カタトニア(緊張病)
サイコシス(精神症):中毒(デキストロメトルファン、合成カンナビノイド)、HSV、Lyme病、HIV、神経梅毒。急性間欠性ポルフィリン症。
自己免疫性脳炎(抗NMDA受容体脳炎)

診断・治療
髄液細胞数19,髄液蛋白正常。髄液中HSV-DNA陰性(判明までアシクロビル継続)。HSV脳炎が否定された段階、抗NMDA受容体脳炎が強く疑われ、3日目にステロイド投与、IVIG開始。腹部検査で卵巣腫瘍指摘。7日目に摘出術。11日目に血清でNMDAのグルタミン酸NR1サブユニットに対する自己抗体陽性判明。髄液の抗体検査は検体不足で実施できず。

2025年9月17日水曜日

労作時呼吸困難、胸痛をきたした54歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.4
Case Records of the MGH
Case 3-2025: A 54-Year-Old Man with Exertional Dyspnea and Chest Pain

生来健康、17ヶ月前に胸部圧迫感、労作時呼吸困難自覚し、高強度の嫌気的運動ができなくなった。冠動脈CT正常。16ヶ月前、収縮期雑音指摘。心電図では新たな右軸変異、R波減蒿、下側壁のT波陰転。心エコーで軽度MR。心臓MRI検査では左室壁18mmと肥厚し、HCMは疑われたが、確定もせず。
頚静脈圧13㎝・H2O、クスマウルサインあり。心肺運動負荷試験では最大酸素摂取量が年齢平均の59%に低下。NT-proBNP:2099。

鑑別
HCM
拘束型心筋症(強皮症、糖尿病性心筋症、好酸球増多症、原発性など)
浸潤性疾患による心筋症(サルコイドーシス、アミロイドーシス)

診断、治療
血清IgG:715(700~1600)、IgA:29(66~436)、IgM:13(43~279)。免疫電気泳動検査にてモノクローナルなκ軽鎖あり。フリーκ軽鎖:3653(3.3~19.4)。骨髄生検、脂肪組織生検実施。
骨髄生検ではアミロイド沈着は認めないが、異形成のある形質細胞増加。脂肪組織ではアミロイド沈着がみられ、免疫蛍光染色でκ軽鎖陽性。ALアミロイドーシス。
多発骨髄腫に準じて治療。ボルテゾミブ(プロテアーゼ阻害薬)+サイクロフォスファミド+デキサメサゾンに加えて、ドラツムマブ(抗CD38モノクローナル抗体薬)。
本患者では心房細動併発し、アピキサバン開始。化学療法3クール後、夜間に心停止、死亡。

2025年9月10日水曜日

呼吸不全と胸部異常陰影をきたした28歳女性

NEJM,2025,vol.393,no.7
Case Records of the MGH
Case 23-2025: A 28-Year-Old Woman with Respiratory Failure and Abnormal Chest Imaging

3.5年前、4週間続く咳、呼吸困難でER受診、喘鳴を認め、胸部XPにて気管支壁肥厚。経口PSL、ICS+LABAで治療。その後も労作時呼吸困難持続。末梢好酸球897、IgE:501、CTではびまん性の小葉中心性、小結節性のすりガラス影。
3週前、酸素飽和度は安静時91%、30m歩行で86%。造影CTでは肺塞栓の所見なし、肺門部・縦隔LN腫脹、心嚢液少量貯留。NT-proBNP:3640。
ER受診、心エコーでは右室拡大著明。右室圧91、心カテ検査では右房圧14、PA圧99/56、平均PA圧71、肺動脈楔入圧12。ANA、ANCA、抗DsDNA、抗トポイソメラーザ1、抗Ro、抗La抗体等陰性。糞線虫、住血吸虫、アスペルギルス抗体陰性。βグルカン、ガラクトマンナン検査陰性。CTではすりガラス陰影あり、肺動脈拡大、胸水貯留、小葉間隔壁肥厚。ICU入室、プロスタグランジン製剤、利尿剤開始。

鑑別診断
前毛細血管性PH:慢性肺疾患、肺塞栓、PAH
住血吸虫、HIVに関連するもの
原発性PAH
肺静脈閉塞症、肺毛細血管腫症

診断、治療経過
年齢も若く緊急性が高いと判断され、胚移植の対象としてリストアップされ、リスト掲載後、1週で肺移植実施。病理診断で肺静脈閉塞症+肺毛細血管腫症。
術後5日まではECOM管理、4週後退院、1年後、復職。

2025年9月3日水曜日

倦怠感と筋痛をきたした32歳女性

NEJM,2025,vol.393,no.8
Case Records of the MGH
Case 24-2025: A 32-Year-Old Woman with Fatigue and Myalgias

2.5年前、COVI19後より倦怠感、頭痛、筋痛、ブレインフォグの症状あり。血液検査は正常で、CMV、EBV、エーリキア属、アナプラズマ症、ボレリアも陰性。その2年後、コロナ再感染。
今回、9日前より頭部と肩へ放散する頚部痛。痛みは改善せず、右上肢へ放散するようになり、倦怠感が悪化。頚椎XP正常。経口PSL開始。頚部痛は改善したが、その後、胸痛自覚。GOT:170、D-ダイマー1.7、CTアンギオでは肺塞栓の所見なし。患者は郊外居住、敷地でウサギや羊を飼育。ハイキング、キャンプが趣味。
血液検査ではCRP、CK、トロポニンT正常。GOT:89、Dダイマー:0.43。NT-proBNP:604,胸部XP正常、心電図:ウェンケバッハ型房室ブロック。

鑑別診断
Long-COVID、肺塞栓症、ACS
心筋症(ヒドロキシクロロキンで中毒性心筋症)
リウマチ熱、細菌性心内膜炎はAVブロックの原因になりうる
ブルセラ症(動物の飼育歴)ブルセラ症では稀に心内膜炎あり。
ライム心筋炎は2度房室ブロックから3度房室ブロックへ進行するため、考慮必要。
ライム病は早期は遊走性紅斑、ブルズ・アイ(同心円状に広がる皮疹)。発症数週以降で、心筋炎、神経症状、関節炎。神経症状としては脳神経麻痺、髄膜炎、疼痛性神経根症状。
診断、経過
本患者ではダニの刺し口は認めず。ボレリア・ブルグドフェリIgM、IgG抗体陽性。ライム心筋炎は米国のライム病の1%に見られる。経口抗菌薬にて治療。一過性に3度房室ブロックをきたしたが軽快。