2023年8月23日水曜日

プライマリケアにおける高齢者でのアスピリン投与中のピロリ菌除菌、HEAT研究

Lancet,2022,vol.400
Helicobacter pylori eradication for primary prevention of peptic ulcer bleeding in older patients prescribed aspirin in primary care(HEAT): a randomised, double-blind,placebo-controlled trial

英国のプライマリケア1208施設で60歳以上、アスピリン325㎎以下の投与を内服中、ピロリ菌尿素呼気検査陽性を対象とし、胃潰瘍で治療中は除外。対象を1:1に無作為化し、実薬群にはCAM500mg、メトロニダゾール400mg、ランソプラゾール30mg投与。30166例にピロリ菌呼気検査が実施され、5367例がピロリ菌陽性。除菌治療群2677例、プラセボ群2675例に割付。主要評価項目は出血性胃潰瘍による入院or死亡。介入後3.95年後に10%の人に追加のピロリ菌検査を実施したところ、除菌治療群は90.7%にピロリ菌陰性。プラセボ群でも24.0%が陰性化していた。中央値5年の観察では2.5年未満ではイベントは0.92vs2.61/1000人・年で、ハザード比0.35(0.14-0.89)と有意にリスクを減らしていたが、2.5年以上では、1.75vs1.33/1000人・年、ハザード比1.31(0.69-2.56)と差を認めなかった。

2023年8月16日水曜日

進行性の呼吸困難をきたした21歳男性

NEJM,2023,vol.389,no.4
Case Records of the MGH
Case 23-2023: A 21-Year-Old Man with Progressive Dyspnea

数か月前よりバレーボール、キャンパス内の歩行時に呼吸困難を自覚。6日前に家庭医受診、検査実施。心電図では右脚ブロック、右室肥大所見を認め、心エコーでも著明なhypokinesiaを伴う右室肥大、右室圧84mmHg、重度TRを認めた。室内気での酸素飽和度93%であった。血液検査ではAST:61、ALP:160。造影CTでは肺塞栓症は否定的。現症では肺性P音、バチ状指を認め、肝脾腫認めず。

鑑別診断:右室圧上昇する病態、1)肺動脈高血圧、3)肺疾患、低酸素血症に伴う肺高血圧、4)慢性肺動脈血栓塞栓症、5)前毛細血管性の肺高血圧、2)左心不全に関連する後毛細血管性の肺高血圧に分けて考える。
この患者では造影肺CTでは、肝に一部石灰化陰影、下大静脈拡大を認めた→肝動静脈・門脈系の異常が肺高血圧の原因ではないか。
→造影MRI等による最終診断:先天性肝外門脈大循環シャント(アバネシ奇形)
→本患者では肝移植が実施され、その後のカテーテル検査では右室圧は正常化した。

2023年8月9日水曜日

重症市中肺炎での治療でのコルチコステロイドの追加の効果と安全性、ランダム化試験のメタ解析

Critical Care,2023,vol.23,no.274
Efficacy and safety of adjunctive corticosteroids in the treatment of severe community-acquired pneumonia: a systematic review and meta-analysis of randomized contolled tiral

2023年の大規模RCT(仏、NEJM)でICU入室の重症市中肺炎でコルチコステロイドの有用性が示されたが、RCTのみを用いてメタ解析を実施した。対象は重症市中肺炎で、その定義として、ICU入室者、米国胸部疾患学会の重症市中肺炎、PSIのクラスⅤを満たすもので、敗血症性ショックにフォーカスした論文、事後解析の論文などは除外。5580論文を評価し、最終7論文がメタ解析された。7論文はいずれも二重盲検試験で、合計1689人、ヒドロコルチゾン5論文、メチルPSL2論文で、3論文は40%以上が人工呼吸器装着であった。主要評価項目は30日後の死亡、一つ抜き交差検証やI2解析で異質性の評価、TSA逐次解析も実施。30日後の死亡はステロイド使用でリスク比0.61(0.44-085)で、敗血症性ショックの有無や60歳以上でも同様の結果であった。さらにステロイドの種類も同様の結果で、ステロイドの漸減なし、使用期間8日未満の方が有意に良好であった。呼吸器装着RR:0.57(0.45-0.73)、ICU入室期間、入院期間でも有意に短縮。有害事象は消化管出血、感染症、AKIとも両群で差なし。2023年Chest誌のメタ解析(Saleem ら)では、非重症市中肺炎も含んでのメタ解析で、重症市中肺炎では、コルチコステロイドの有用性が示唆された。

2023年8月2日水曜日

COVID-19後の急性続発症のリスクとモルヌピラビル

BMJ,2023,vol.381
Molnupiravir and risk of post-acute sequelae if covid-19: cohort study

米国の退役軍人省のデータを用いて検討した。2022年1月~2023年1月で退役軍人でSARS-CoV-2検査陽性者は33万9千人あり、そのうち、モルヌピラビルのphase3試験であったMOVE-OUT研究の対象である60歳以上、BMI>30、癌、心血管疾患、CKD、CLD、DM、免疫不全等を一つ以上有し、モルヌピラビルを投与した者13007人の内、適応外使用、eGFR<30を除いた11472人、および同様のリスクを有し、抗ウイルス療法を実施しなかった217814人を対照群とした。転帰はコロナ後の死亡、入院とし、コロナ続発症として、虚血性心疾患、不整脈、肺塞栓、疲労、筋痛、AKI、認知機能低下、自律神経障害、息切れ、咳などの13症状とした。全体では平均69.8歳、男性91.6%、コロナワクチンなし12.7%、ワクチン3回以上63.3%、併存疾患:癌23.3%、CLD33.9%、DM45.3%など。コロナ後30日の時点でのコロナ13続発症はモルヌピラビルvs対照群で18.58%vs21.55%、RR:0.86(0.83-0.89)であった。コロナ後死亡は1.44%vs2.32%、HR:0.62(0.52-0.74)、コロナ後入院8.82%vs10.15%、HR:0.86(.80-0.93)といずれも有意に減らしていた。

2023年7月19日水曜日

僧帽弁閉鎖不全での肺高血圧の頻度およびその転帰への影響

BMJ Open Heart,2023,vol.10
Prevalence of pulmonary hypertension in mitral regurgitation and its influence on outcomes

オーストラリアでの国家レベルでのエコー登録でのデータ(NEDA)を用いて検討した。18歳以上、LVEF、RVSP(右室収縮期圧)のデータが揃っているもの、中等度以上のMRのものを検討。2000-2019年で106万人のデータがあり、9683人が条件を満たし検討。PHTなし群(RVSP<30㎜Hg)9.9%、境界群(PVSP30-39.9)30.5%、軽度PHT群(RVSP40-49.9)32.7%、中等度PHT群(50-59.9)16.4%、高度PHT群(RVSP≧60)10.5%。RVSPが高い程、年齢、女性、AF、AR、ASの頻度が有意に高率であった。1年死亡率、5年死亡率はPHTなし群は8.5%、33.3%に対し、重度PHT群では39.7%、79.8%で、OR:4.64(3.55-6.08)、5.18(3.98-6.73)であった。年齢、性別等で調整したハザード比では、全死亡でPHTなし群に対し重度PHT群でHR2.86(2.48-3.31)、心血管死のHR1.62(1.27-2.06)であった。MRでRVSP>34mmHgとなると、死亡のHR1.27(1.00-1.36)で死亡リスクが高くなっていた。

2023年7月12日水曜日

AFを伴う脳梗塞での抗凝固療法の早期再開vs非早期再開

NEJM,2023,vol.388,no.26
Early versus Later Anticoagulation for Stroke with Atrial Fibrillation

急性期脳梗塞後のDOACを導入するタイミングが脳梗塞再発や出血に関与するかははっきりせず、規模の小さなRTCがあるだけである。いくつかのガイドラインではDOAC再開をTIA、軽症、中等症、重症で1,3,6,12日後を推奨している。今回、ELAN研究として検討した。
前向きのRTCで、早期再開群、非早期群に1対1に割付。直径15mm以下の脳梗塞を小、MCA、ACA、PCAの皮質枝の領域の梗塞を中、これらの領域の梗塞or脳幹or15mm以上を大とし、早期再開群では小・中で48時間で再開、大で6-7日目に再開。非早期群では小で3-4日目、中で6-7日目、第で12-14日目再開とした。主要評価項目は30日以内の脳梗塞再発、全身性塞栓症、頭蓋外の重大出血、症候性頭蓋内出血、血管疾患による死亡の複合。15か国、103施設で36643例がスクリーニングを受け、2013例がITT解析された。早期群1006例(77歳、女性45.6%)、非早期群1007例(78歳、45.3%)。CHA2DS2-VAScスコアは中央値5点、脳梗塞サイズは小37.6%、中39.7%、大22.8%。入院時のNIHSS5点、ランダム化時点3点、血栓溶解療法39.7%、血栓除去術21.0%。30日後の主要評価項目の2.9%vs4.1%で調整リスク差-1.18(-2.84-0.47)であった。症候性頭蓋内出血は0.2%vs0.2%。脳梗塞再発1.4%vs2.5%、リスク差-1.14(-2.41-0.13)二次評価項目の90日後の複合イベントでは3.7%vs5.6%、リスク差-1.92(‐3.82~-0.02)であった。

2023年7月5日水曜日

筋力低下、筋痛の44歳女性

NEJM,2023,vol.388,no.16
Case Records of the MGH
Case 12-2023: A 44-Year-Old Woman with Muscle Weakness and Myalgia

5年前に関節リウマチと診断され、4年前よりヒドロキシクロロキンで治療開始するも肝斑で中止。MTXで治療するも効果なく、レフルノミドで症状緩和。6か月前より上肢、大腿に筋痛があり、上肢は頭より上に上げられなくなり、整髪や化粧が不可能となる。筋痛は運動や1日の終わりに悪化。上肢、下肢にジリジリするシビレ出現。3か月前にリウマチ科受診。CK:422、LDH:509、ANA320倍、抗U1-RNP抗体陽性。C3、C4正常、dsDNA抗体陰性、Sm抗体陰性。アザチオプリン開始。既往歴にバセドウ病、副甲状腺機能低下症、潜在性結核あり。姉妹にSLEあり。

鑑別診断:自己免疫疾患、オーバーラップ症候群、特にRAと特発性炎症性ミオパチー。
MCTD(ただし、U1-RNP抗体の力価不明)。
サルコイドーシス、アミロイドーシス(両方とも、近位筋筋力低下、手根管症候群によるシビレ)
薬剤性:イソニアジド、メチマゾール、ヒドロキシクロロキンは筋炎様の副作用あり
代謝性:甲状腺ホルモン、低カルシウム血症など
診断:血清Ca値5.9、P値4.5、PTH値35pg/mL→副甲状腺機能低下症による低Ca血症
筋MRI:T1WIでの脂肪浸潤、筋委縮なし。各種筋炎自己抗体検索(抗MDA-5抗体、抗SRP抗体など)→陰性
治療:グルコン酸カルシウムの静注等で症状改善。