2025年1月8日水曜日

呼吸困難、嚥下困難、構音障害をきたした72歳女性

NEJM,2024,vol.391,no.15
Case Records of the MGH
Case 32-2024: A 72-Year-Old Woman with Dyspnea, Dysphagia, and Dysarthria

2年前からの亜急性の労作性呼吸困難。この数ヶ月で徐々に悪化し、歩行中の酸素飽和度は91-94%に悪化。血液検査は正常、胸部XPでは軽度心拡大、両側の間質性陰影。体重はこの間、5kg減。Dダイマー:3259ng/mL、その後、中断。10ヶ月前に部屋間の移動で息切れ。一時的な顔面の左右差で、左の口唇から流涎。電話での対応時に声が不明瞭なのに親族が気づく。その2ヶ月後の心エコーでは卵円孔開存、左右シャント、中等度TR、右室圧60mmHg。その後、両下肢の筋力低下があり、歩行器を使用。既往歴は重度肥満、心房粗動、高血圧、脂質異常症、副甲状腺機能亢進症。動脈血ガスではPCO2:74,PO2:89、pH:7.32
入院時の神経学的所見では、頻呼吸、忘れっぽさ、構音障害、右の顔面筋の麻痺、右眼瞼下垂軽度、両側の近位筋の筋力低下、左上肢のバレー試験での回内。右バビンスキー反射陽性。MRIでは梗塞巣認めず。

鑑別診断
脳血管障害(脳、脳幹、本例では脳MRI異常なし)
MND(ALS)(本例では腱反射亢進なし、筋萎縮なし、fasciculationなし)
神経根
末梢神経 GBS(純粋な運動神経のみのGBSはある。眼瞼下垂はGBSにはまれ。一過性の顔面筋麻痺も説明つかない)
神経筋接合部 筋無力症(MG)の60%は顔面や眼瞼の非対称を認める。
筋 眼咽頭筋型筋ジストロフィ 

抗MuSK抗体陽性のMGでは40%の患者で嚥下困難、構音障害が初発症状で、眼瞼下垂はないかあっても軽度、筋力低下もほとんどないとされる。

診断的検査、治療
反復刺激誘発筋電図検査では検査前に比して18%電位低下あり。
抗AChR抗体12.5nmol/L(正常≦0.02)、抗MuMK抗体陰性、抗横紋筋抗体30720倍(正常120倍未満)
CTでは胸腺腫なし
5日間のIVIG療法、さらにPSL、アザチオプリン、リツキシマブでの免疫抑制治療。6週の時点で、球麻痺、眼症状、四肢筋力低下は改善。しかし、その後、重度の誤嚥を起こし、そのまま死亡。

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