2025年10月15日水曜日

HFrEFにおけるジギトキシン

NEJM,2025,vol.393,no.12
Digitoxin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction

1997年のDIG研究では、主要評価項目である全死亡でジゴキシンは優位性を示せなかった。同研究の事後解析で、ジゴキシン濃度の低い群(0.5-0.9ng/mL)では臨牀転帰が良好であった。DIG研究から10年以上が経過し、ARNI、SGLT2阻害薬や様々な心臓デバイスが登場した中で、DIGIT-HF研究として、ジギトキシンについて、二重盲検多施設RCTをドイツ、オーストリア、セルビアの65施設で実施した。対象はNYHA3-4でLVEF≦40またはNYHA2でEF≦30のもの。1対1に割付し、ジギトキシン0.07㎎/日投与、血中濃度wp8-18ng/mlに調整。主要評価項目は全死亡+心不全増悪初回入院。当初、80%のパワーで有意差を出すために、2190例、734イベントが必要と計算。2015年より患者の登録を開始したが、2023年までに1240人が登録され、1212例がランダム化(ジギトキシン群613例(66歳、女性19.9%、LVEF28%、eGFR:65,ICD:67%、CRT:26%、β阻害薬96%、ARNI:40%、MRA:76%、SGLT2阻害薬19%)対照群599例)された。中央値36ヶ月観察、薬剤投与期間は肘頭地18ヶ月(0-107ヶ月)薬剤中断率はジギ群58.9%vs対照群55.1%。全死亡+心不全増悪初回入院は39.5%vs44.1%、ハザード比0.82(0.69-0.98)で有意に良好であった。NNTは22.有害事象による薬剤中断は9.1%vs10.2%。

2025年10月8日水曜日

肥満成人に対する経口セマグルチド25mgの効果

NEJM,2025,vol.393,no.11
Oral Semaglutide at a Dose of 25mg in Adults with Overweight or Obesity

米国、カナダ、ドイツ、ポーランドの4カ国22施設で、二重盲検RCTとして実施。DMのないBMI≧30または≧27で高血圧、脂質異常症、睡眠無呼吸症候群、CVDの一つ以上あるものを対象。2:1でランダム化。セマグルチドは3mgより開始、4週毎に7,14,25mgへ増量。起床時に120mL以下で内服、30分以上飲食しない。
評価項目は64週後の体重変化、5%以上の体重減少。205例がセマグルチド群(48歳、女性75.6%、BW:106kg、BMI:37.5,HbA1c:5.7)、102例が対照群に割り付け。64週でセマグルチド群で167例継続。25mgまで増量できたのは136例。64週での体重変化は実薬群で-13.6、対照群-2.2%で有意に減少。5%以上のBW減少達成は79.2%vs31.1%、10%達成で63.0%vs14.4%、15%達成で50.0%vs5.6%で有意に達成していた。有害事象は、嘔気46.6%vs18.6%、嘔吐30.9%vs5.9%、持続的な内服中断は6.9%vs5.9%であった。

2025年10月1日水曜日

高齢者、超高齢者におけるスタチンによる一次予防のベネフイットとリスク

Ann Int Med,2024,vol.177
Benefits and Risks Associated With Stain Therapy for Primary Prevention in Old and Very Old Adults

75歳以上のスタチンよる脳血管疾患CVDの一次予防についてはコンセンサスがない。75-84歳、85歳以上のスタチンによるCVD一次予防についてリアルワールドの電子的健康情報(EHR)を用いて検討した。香港健康省の運営するEHRデータを使用。60歳以上でCVDを認めないものを対象とした。LDLコレステロール≧160で、CVDリスク(高血圧、肥満、喫煙、耐糖能異常)が0-1個、またはLDLコレステロール≧130でCVDリスク2-3個、またはLDLコレステロール≧100でCVDを有するものをスタチン適応とした。2400万人がスクリーニングされ、CVD既往のないものでスタチン適応があるもので投与開始群が60-74歳で734217人、75-84歳で21340人、85歳以上で2695人。プロペンシティスコアをマッチさせたものを1対1で抽出し、平均5.6年、75歳以上で5.3年観察した。結果はITT解析で、CVD発生は60-74歳ハザード比0.86(0.86-0.92)、75-84歳:0.94(0.90-0.98)、85歳以上:0.85(0.77-0.94)。全死亡で0.87,0.90、0.85で有意にスタチンはリスクを減らしていた。ミオパチーと肝障害の頻度は有意差は認めず。

2025年9月24日水曜日

痙攣様運動、奇妙な行動をきたす19歳女性

NEJM,2025,vol.393,no.5
Case Records of the MGH
Case 22-2025: A 19-Year-Old Woman with Seizurelike Activity and Odd  Behaviors

10日前まで健常。呂律緩慢、右上肢の発作的な粗大振戦、しびれ自覚。7日前、駅のプラットホームで、全身のふるえ(shaking)後、転倒するのが目撃され、救急隊到着時にはよだれを垂らし昏迷状態であったが、他病院のER到着時には清明。血清乳酸値高値。頭部CT、MRI異常なし。その日は3回、突然の極度の不安発作があり、いずれも60-90秒の全身のshakingを伴い、3回目の際は無呼吸を伴い、酸素飽和度も低下しバッグマスクで換気する程であった。LZP、LEV開始。脳波では明らかなてんかん波認めず。4日目、退院。その途中、右手、口がガタガタ動き出し、返事しなくなり、再びERへ戻る。そこでは、会話はできなかったが、スマホでメッセージがやりとりできるようになった。その後、無言無動で、右上下肢がピクピク(twitching)していたが、脳波は正常。その3日後に退院となるが、その翌日、右手のしびれ、右上下肢のtwitching、無言無動が出現し、当院ER受診。
両親に聴取すると、うつ病、不安症の既往。祖父に統合失調症歴あり。

鑑別診断
左頭頂葉の部分発作、若年性ミオクロニーてんかん
カタトニア(緊張病)
サイコシス(精神症):中毒(デキストロメトルファン、合成カンナビノイド)、HSV、Lyme病、HIV、神経梅毒。急性間欠性ポルフィリン症。
自己免疫性脳炎(抗NMDA受容体脳炎)

診断・治療
髄液細胞数19,髄液蛋白正常。髄液中HSV-DNA陰性(判明までアシクロビル継続)。HSV脳炎が否定された段階、抗NMDA受容体脳炎が強く疑われ、3日目にステロイド投与、IVIG開始。腹部検査で卵巣腫瘍指摘。7日目に摘出術。11日目に血清でNMDAのグルタミン酸NR1サブユニットに対する自己抗体陽性判明。髄液の抗体検査は検体不足で実施できず。

2025年9月17日水曜日

労作時呼吸困難、胸痛をきたした54歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.4
Case Records of the MGH
Case 3-2025: A 54-Year-Old Man with Exertional Dyspnea and Chest Pain

生来健康、17ヶ月前に胸部圧迫感、労作時呼吸困難自覚し、高強度の嫌気的運動ができなくなった。冠動脈CT正常。16ヶ月前、収縮期雑音指摘。心電図では新たな右軸変異、R波減蒿、下側壁のT波陰転。心エコーで軽度MR。心臓MRI検査では左室壁18mmと肥厚し、HCMは疑われたが、確定もせず。
頚静脈圧13㎝・H2O、クスマウルサインあり。心肺運動負荷試験では最大酸素摂取量が年齢平均の59%に低下。NT-proBNP:2099。

鑑別
HCM
拘束型心筋症(強皮症、糖尿病性心筋症、好酸球増多症、原発性など)
浸潤性疾患による心筋症(サルコイドーシス、アミロイドーシス)

診断、治療
血清IgG:715(700~1600)、IgA:29(66~436)、IgM:13(43~279)。免疫電気泳動検査にてモノクローナルなκ軽鎖あり。フリーκ軽鎖:3653(3.3~19.4)。骨髄生検、脂肪組織生検実施。
骨髄生検ではアミロイド沈着は認めないが、異形成のある形質細胞増加。脂肪組織ではアミロイド沈着がみられ、免疫蛍光染色でκ軽鎖陽性。ALアミロイドーシス。
多発骨髄腫に準じて治療。ボルテゾミブ(プロテアーゼ阻害薬)+サイクロフォスファミド+デキサメサゾンに加えて、ドラツムマブ(抗CD38モノクローナル抗体薬)。
本患者では心房細動併発し、アピキサバン開始。化学療法3クール後、夜間に心停止、死亡。

2025年9月10日水曜日

呼吸不全と胸部異常陰影をきたした28歳女性

NEJM,2025,vol.393,no.7
Case Records of the MGH
Case 23-2025: A 28-Year-Old Woman with Respiratory Failure and Abnormal Chest Imaging

3.5年前、4週間続く咳、呼吸困難でER受診、喘鳴を認め、胸部XPにて気管支壁肥厚。経口PSL、ICS+LABAで治療。その後も労作時呼吸困難持続。末梢好酸球897、IgE:501、CTではびまん性の小葉中心性、小結節性のすりガラス影。
3週前、酸素飽和度は安静時91%、30m歩行で86%。造影CTでは肺塞栓の所見なし、肺門部・縦隔LN腫脹、心嚢液少量貯留。NT-proBNP:3640。
ER受診、心エコーでは右室拡大著明。右室圧91、心カテ検査では右房圧14、PA圧99/56、平均PA圧71、肺動脈楔入圧12。ANA、ANCA、抗DsDNA、抗トポイソメラーザ1、抗Ro、抗La抗体等陰性。糞線虫、住血吸虫、アスペルギルス抗体陰性。βグルカン、ガラクトマンナン検査陰性。CTではすりガラス陰影あり、肺動脈拡大、胸水貯留、小葉間隔壁肥厚。ICU入室、プロスタグランジン製剤、利尿剤開始。

鑑別診断
前毛細血管性PH:慢性肺疾患、肺塞栓、PAH
住血吸虫、HIVに関連するもの
原発性PAH
肺静脈閉塞症、肺毛細血管腫症

診断、治療経過
年齢も若く緊急性が高いと判断され、胚移植の対象としてリストアップされ、リスト掲載後、1週で肺移植実施。病理診断で肺静脈閉塞症+肺毛細血管腫症。
術後5日まではECOM管理、4週後退院、1年後、復職。

2025年9月3日水曜日

倦怠感と筋痛をきたした32歳女性

NEJM,2025,vol.393,no.8
Case Records of the MGH
Case 24-2025: A 32-Year-Old Woman with Fatigue and Myalgias

2.5年前、COVI19後より倦怠感、頭痛、筋痛、ブレインフォグの症状あり。血液検査は正常で、CMV、EBV、エーリキア属、アナプラズマ症、ボレリアも陰性。その2年後、コロナ再感染。
今回、9日前より頭部と肩へ放散する頚部痛。痛みは改善せず、右上肢へ放散するようになり、倦怠感が悪化。頚椎XP正常。経口PSL開始。頚部痛は改善したが、その後、胸痛自覚。GOT:170、D-ダイマー1.7、CTアンギオでは肺塞栓の所見なし。患者は郊外居住、敷地でウサギや羊を飼育。ハイキング、キャンプが趣味。
血液検査ではCRP、CK、トロポニンT正常。GOT:89、Dダイマー:0.43。NT-proBNP:604,胸部XP正常、心電図:ウェンケバッハ型房室ブロック。

鑑別診断
Long-COVID、肺塞栓症、ACS
心筋症(ヒドロキシクロロキンで中毒性心筋症)
リウマチ熱、細菌性心内膜炎はAVブロックの原因になりうる
ブルセラ症(動物の飼育歴)ブルセラ症では稀に心内膜炎あり。
ライム心筋炎は2度房室ブロックから3度房室ブロックへ進行するため、考慮必要。
ライム病は早期は遊走性紅斑、ブルズ・アイ(同心円状に広がる皮疹)。発症数週以降で、心筋炎、神経症状、関節炎。神経症状としては脳神経麻痺、髄膜炎、疼痛性神経根症状。
診断、経過
本患者ではダニの刺し口は認めず。ボレリア・ブルグドフェリIgM、IgG抗体陽性。ライム心筋炎は米国のライム病の1%に見られる。経口抗菌薬にて治療。一過性に3度房室ブロックをきたしたが軽快。

2025年8月27日水曜日

純粋自律神経不全での表現型変化の予測

Neurology,2020,vol.95
Predicting phenoconversion in pure autonomic failure

2001年~2011年にメイヨークリニックの自律神経の専門外来で純粋自律神経不全とされた275例(平均65歳、男性62%)を長期観察した。チルト5分でsBPが61mmHg低下。275例中、67例(24%)が表現型変化し、34例がMSA、33例がPDまたはDLBのレビー小体病に変化した。PAF診断時に、重度の膀胱症状(尿閉等)、臥位のノルエピネフリン値の高い(>100pg/mL)もの、発汗障害が節前性のものはMSAに移行。微細な運動障害、睡眠時異常行動のあるものは、MSAやPD/DLBに移行する傾向を認めた。多変量解析の結果では、PAF診断時に、微細な運動障害、臥位ノルエピネフリン値>100、膀胱障害のあるものは98%がMSAに移行、微細な運動障害、夢に関連した睡眠時異常行動、65歳以上であるものは87%がPD/DLBに移行すると予測された。

2025年8月20日水曜日

好酸球性の成人発症重症喘息での気道のリモデリングに対するメポリズマブの効果

J Allergy Clin Immunol,2025,vol.155
Effect of mepolizumab in airway remodeling in patients with late-onset severe asthma with an eosinophic phenotaype


ギリシャの呼吸器8施設で実施。20歳以降で発症し、FEV1.0/FVC<0.7、スクリーニング時に末梢血好酸球>150または12ヶ月間に300以上となったものを対象とし、48例が登録され、41例が気管支鏡検査に参加。1年間、メポリズマブを投与し、38例で気管支鏡検査を再検、34例で良好な検体を採取。組織学的に基底膜下結合組織sub-basement membraneの肥厚、気道平滑筋層の肥厚、肺胞内皮細胞のダメージ、組織の好酸球数で有意に減少していた。

2025年8月13日水曜日

腸骨大腿動脈狭窄での血管内治療は大動脈負荷を減らす事によりHFpEFの左室拡張能を改善する

Circulation:Heart Failure,2024,vol.17
Endovascular Treatment of Flow-Limiting Iliofemoral Stenosis Improves Left Ventricular Diastolic Function in Patients With HFpEF by Reducing Aortic Pulsatile Load

腸骨大腿動脈狭窄に対するEVTがLV拡張能を改善し、NYHAなどの予後を改善するか検討した。対象はPADでラザフォード分類Ⅱ~Ⅲ(安静時痛~限局性皮膚病変あり)で、LVEF≧50%、ESCのHFA-PEFFスコア≧5のHFpEFを併存するもの。AF、弁膜症は除外。
デュッセルドルフ大学単施設で計30例で解析。EVT群25例(65.5歳、男性64%、BMI:25.9)非実施群5例(背景に有意差なし)。EVT群ではABI:0.67→0.88、PWV:11.7→9.6、Augmentaion Index(AIx):32.5→28.0と有意に改善。LV拡張能の指標であるE/e':16.0→13.9、LAVI:36.4→34.1、LVMI:154→154→147とEVT後、およびフォローアップ中に改善した。NYHAはⅡ56%、Ⅲ40%→Ⅰ12%Ⅱ80%、Ⅲ4%と有意に改善した。

2025年8月6日水曜日

頭痛、運動失調をきたした69歳男性

NEJM,2025,vol.393,no.2
Case Records of the MGH
Case 19-2025: A 69-Year-Old Man with Headache and Ataxia

3年前にびまん性大細胞型びまん性リンパ腫DLBCLと診断、ベンダムスチン、リツキシマブで治療。1年後、右手脱力増悪し、造影MRIにて左半卵円中心に造影される病変を認め、脳生検にてEBV陽性のCNS病変再燃と診断され、CAR-T細胞療法、イブルチニブで治療。その後、クリプトコッカス肺炎にてイブルチニブ休止。
2週間前、転倒、背部打撲。その後、歩行障害、上肢機能悪化し、ER受診。患者は以前より、アシクロビル、アピキサバン、フルコナゾール、AT合剤、タムスロシン等を内服し、周期的に感染予防にIVIG療法実施。ニューイングランドの郊外に居住し、屋外での水泳、ボート漕ぎ、庭仕事をし、最近、数回、ダニに刺された。
構音障害+、視方向性眼振+、両上肢失調+、右上肢脱力、反射亢進+、感覚障害なし。梅毒、ライム病検査陰性。髄液検査はアピキサバン内服中で中止。MRIでの左前頭葉病変変化なし。
入院4日目に、意識障害、運動失調増悪し、両側の外転神経麻痺出現。経静脈的アシクロビルに変更。髄液検査では細胞数21、77%リンパ球。糖51,蛋白74,グラム染色陰性。フローサイトメトリーではモノクローナルなB細胞認めず。MRIでは新たに両側小脳皮質、脳幹に高信号出現。

鑑別診断
進行性の小脳症状
癌、感染症、免疫異常、外傷、代謝性障害、薬剤・中毒
免疫異常の6%に小脳症状→PCA-1または抗Yo抗体(女性の卵巣癌、肺癌)、男性ではホジキンリンパ腫でのPCA-Tr抗体。他にADEM
感染症:マイコプラズマ、クリプトコッカス、結核。水辺での屋外レジャーでは原発性アメーバ性髄膜脳炎(ネグレリア症)
細菌性では髄液検査では化膿性髄膜炎は否定。リステリア、ボレリア症。ライム病検査は陰性だが、免疫不全状態であり、抗体上昇不十分の可能性。ロッキー山紅斑熱。
ウイルス感染症:西ナイル熱、VZV、EBV。
本例ではダニ刺症後の症状悪化→ポワサンウイルス脳炎

治療
HSV、VZV対策;経静脈的アシクロビル継続し、PCR陰性確認後終了。リステリア症否定できないのて、CTRX,VCM継続、ライム病も否定できないのでCTRX継続。免疫抑制状態であり、節足動物関連ウイルス感染(アルボウイルス感染症)に対する適応外治療として、IVIG療法。第14日、ポワサンウイルスのPCR検査陽性判明。

2025年7月30日水曜日

咳、呼吸困難、低酸素血症をきたした75歳男性

NEJM,2025,vol.393,no.4
Case Records of the MGH
Case 21-2025: A 75 Year-Old Man with Cough, Dyspnea, and Hypoxemia

7ヶ月前にACO(オーバーラップ症候群)と診断され、ステロイドの点滴投与、経口PSL漸減中。その3週後、呼吸器症状持続で、経口PSL開始、末梢血Eo:910、IgE:4440IU/mL、ABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)と診断され、デュピルマブが開始。その6週後、発熱、肺うっ血増悪。市中肺炎と診断、アジスロマイシン、セフェム系抗菌薬開始。喀痰から肺炎桿菌。その3ヶ月前、喘鳴持続するため受診。Eo:100、IgE:516、アスペルギルス特異的IgE:27.5IU。経口PSL再開。

6週前に中米を訪問、そこで呼吸器症状増悪し、現地医療機関受診。状態改善せず、そのままボストンのホテル到着し、ER受診。

4L経鼻酸素で、酸素飽和度91%、呼吸回数32、喀痰塗抹でグラム陽性桿菌、グラム陰性桿菌。アデノウイルス、クラミジア、コロナ、メタニューモ、マイコプラズマ等のPCR陰性。肺CTで膨隆した浸潤影が左下肺にあり。ネイサルハイフロー60Lでも酸素飽和度92%、レジオネラ、ヒストプラズマ抗原陰性。IGRA陰性。


鑑別診断;

血管炎、癌、感染症

感染症では真菌、寄生虫、抗酸菌、グラム陽性菌

免疫抑制状態で、空洞形成する肺炎のグラム陽性菌として、ロドコッカス属、アクチノミセス、ノカルジア。

診断:

グラム染色でフォラメント状、分枝し、玉状の形成が確認され、アクチノミセスまたはノカルジアが疑われ、抗酸菌塗抹検査で陽性。培養にて最終的にノカルジア、マイコバクテリウム・アブセスサス。

治療:

経静脈的ST剤、イミペネムで39日間治療

2025年7月23日水曜日

腎移植後、呼吸不全、ショックをきたした61歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.23
Case Records of the MGH
Case 17-2025: A 61-Year-Old Man with Respiratory Failure and Shock after Kidney Transplantation

10週前に高血圧性の腎硬化症の末期腎障害に対して腎移植。術後4日で退院。退院後、経口PSL、タクロリムス、ミコフェノール、ST合剤、バルガンシクロビルが投与。その後、HbA1c:7.7%でセマグルチドの週1投与開始。飼い猫に左足部を引っかかれ、発赤腫脹、アモキシシリンクラブラン酸にて軽快。10日前、血糖519にて、前医入院。5日前、酸素飽和度93%に低下。BP84/48、HR120、胸部XP、肺水腫。PIPC/TAZ開始。その後ネイサル・ハイフロで40L投与、気管内挿管、BP81/53。VCM、MEPM投与。MGH転院。腹部に紫斑。胸部XP、肺水腫。小腸、大腸のガス像著明。血液検査、WBC:20420、好酸球980、Metamyelo980、Myelo490、Promyelo740、PLT:40.9万、βDグルカン:87

鑑別診断:免疫抑制状態の呼吸不全、ショック
市中肺炎、院内発症肺炎、日和見感染症、ニューモシスチス肺炎
猫に引っかかれた、犬猫保護団体のボランティア歴→パスツレラ、カプノサイトファーガ・カニモルサス

PSL内服中にもかかわらず好酸球増多→寄生虫感染→ドナー由来糞線虫症
気管支内視鏡検査:吸引物のグラム染色で250~300ミクロンの虫体→糞線虫Strongyloides stercoralis
腹部の皮膚病変の生検
気管支内視鏡検査の吸引物だけでは、Ascaris lumbricoides回虫症も鑑別になるが、形態、サイズから糞線虫

治療:イベルメクチン+アルベンダゾールに加えて寄生虫侵入に関連した菌血症のハイリスクに備え、VCM、MEPM継続。
BKウイルス血症も発症。

2025年7月16日水曜日

抑うつ状態、低血圧をきたした13歳少年

NEJM,2023,vol.388,no.21
Case Records of the MGH
Case 16-2023: A 13-Year-Old Boy with Depression and Hypotension

ADHD、境界型人格障害、大うつ病の13歳少年。自傷行為、希死念慮で入院繰り返す。3週間前に退院。抑うつ状態、希死念慮の悪化によりER受診。ERより精神科病院への転院が要請されたが、空床なくER待機。ERの急性期精神科病床での41日目、オランザピンの定期内服。12時間後、BP69/39、HR88。不快感、立ちくらみ、嘔気、腹痛の訴え。3時間後、BP79/45、HR85。血液、尿の中毒検査は陰性。腹部造影CT異常なし。

鑑別診断
分布異常性ショック、循環血液量減少性ショック、心原性ショック(小児では心筋炎、ライム心筋炎など)、閉塞性ショック(心タンポナーデ、肺塞栓、緊張性気胸)、
薬物効果:12時間後も血圧低下、徐脈持続。オランザピンは血圧低下の作用あり、しかし、徐脈はそれほどない。グアンファシン、クロニジンはα2アドレナリン作動薬は降圧薬であり、ADHDなどの行動異常に用いられる薬剤で、治療域は狭く、過量では昏迷、徐脈、血圧低下をきたす。

最終診断:α2アドレナリン作動薬中毒
本人に直接尋ねると、部屋に置かれていたグアンファシンのボトルの薬剤を飲んだとのこと。
治療:輸液。加えてノルエピネフリンなどの昇圧剤。症候性徐脈にはアトロピン。リバース効果を期待してナロキソン。

2025年7月9日水曜日

指先測定の終末糖化産物AGEsと外来心血管患者の心血管イベント

Cardiovascular Diabetology,2023,vol.22
Association between fingertip-measured advanced glycation end products and cardiovascular events in outpatients with cardiovascular disease

CVD患者における指先で測定されたAGEsスコアと心血管イベントの関連性について検討。一施設(北里大学病院)での後方視的観察研究。204人の心臓リハビリテーション実施者が登録され、最終的に191人で評価。AIR WATER BIODESIGN社の指先測定のAGEs測定器を用いた。AGEsスコアは主にメチルグリオキサールを反映し、0.0~10.0で表され、50歳の健康な日本人男性の平均スコアは0.5(メーカー調査)。腫瘍評価項目は心血管イベント(心血管死、MI、PCI、心不全、脳卒中)。AGEsスコアの中央値0.51で、それにより高AGE群、低AGE群に分けて評価。
高AGE群96例(73.1歳、男性62%、BMI23.9、心不全56%、CKD58%、LDLコレステロール88.1、HbA1c6.3%、クレアチニン1.16、eGFR55.6)低AGE群95例でベースラインでは有意差は認めず。平均15.1ヶ月フォローされ、心血管イベントは27.1%vs10.5%、p=0.007で、MI発症4.2%vs0.0%、p=0.043、PCI実施7.3%vs1.1%、p=0.037。30ヶ月までフォローされたものでも同様の結果。単変量解析では心血管イベントと関連していたのは、BMI、HF、虚血性心疾患、BNP、AGEスコア、握力、6分間歩行であった。AGEスコアと6分間歩行で心血管イベント検出のAUCによる最適カットオフ値は0.51、378mであった。

2025年7月2日水曜日

高リスクの2型糖尿病における経口セマグルチドでの心血管アウトカム

NEJM,2025,vol.392,no.20
Oral Semaaglutide and Cardiovascular Outcomes in High-Risk Type 2 Diabetes

SOUL研究。50歳以上のHbA1c6.5-10.0%の2型糖尿病で、冠動脈疾患、脳血管疾患、症候性の末梢動脈疾患、eGFR<60のCKDの一つ以上有するものを対象とし、経口セマグルチド群とプラセボ群を1対1で割付。セマグルチドは3㎎から開始し、7㎎か14㎎まで増量。主要評価項目は心血管死、MI、脳卒中の複合。33か国、444施設で実施。9650人が登録され、経口セマグルチド群4825人(66.1歳、女性28.5%、白人69%、アジア系23.5%、HbA1c8.0±1.2)プラセボ群4825人。中央値49.5カ月フォロー。心血管イベントは12.0%vs13.8%(3.1イベント/100人・年vs3.7)でハザード比0.86(0.77-0.96)であった。二次評価項目の主要腎障害(心血管死、腎関連死、eGFR50%以上悪化、eGFR<15、腎代替療法導入)はハザード比0.91(0.80-1.09)、心血管死0.93(0.80-1.09)、四肢イベント0.71(0.52-0.96)で有意差は認めず。

2025年6月25日水曜日

カンジダ血症の臨床と治療、後方視的検討

BMC Infectious disease,2024,vol.24
Clinical manifestations and treatment of candidemia caused by different Candida species: a retrospective study

北京清華大学医学院に2020~2023年に血培でカンジダが陽性となった94例で検討した。年齢66.3±13.9歳、男性59例、死亡22例23.4%、10日以内の先行するグラム陽性球菌の菌血症既往31.9%、悪性疾患39.3%、消化器手術後38.3%、経静脈栄養53.2%、広域抗菌薬使用53.2%、ICU入室43.6%、CVカテ挿入213%。
広域抗菌薬の使用、低体重、低Alb血症、経静脈栄養、消化器手術の既往、尿路感染の既往、グラム陽性球菌の菌血症で、カンジダ血症の患者の死亡リスクが高かった。経静脈栄養の期間が長いと死亡リスクはオッズ比10.57で高かった。βDグルカンの陽性率は66.2%で他の報告より低かった。菌種同定ではアルビカンス46.8%、パラシリオーシス23.4%、グラブラータ17%。治療はトリアゾール系54例、エキノキャンディン系37例、アムホテリシンB3例。トリアゾール系はフルコナゾール35例、ボリゴナゾール19例で治療。エキノキャンディン系は39%がカスポファンギンで、7日間のトリアゾール系とエキノキャンディン系の効果は同様であった。Cグラブラータのトリアゾール系の耐性率は30%とする報告もある。今回の検討ではエキノキャンディン系に耐性のものは認めなかった。

2025年6月18日水曜日

咽頭痛と皮疹の56歳女性

NEJM,2025,vol.392,no.16
Case Records of the MGH
Case 12-2025: A 56-Year-Old Woman with Sore Throat and Rash

2日前まで健康。ホームレスのシェルターにて居住。うつ病の治療中。当日、顔、前胸部、腹部、下肢の皮疹に気付きER受診。掻痒感、咽頭痛あり。ホームレスのシェルターでは、シラミ、疥癬の流行の情報あり。リスペリドン等の内服あり
体温38.4℃、酸素飽和度96%、上口唇に潰瘍、前額部、鼻、頬部にピンクの丘疹、背部、前胸部、腹部に表皮の剥離した丘疹、水疱あり。手掌、手背にピンクの丘疹。血液検査でGOT:44,GPT:60、WBC5300,異形リンパ球5.3%

鑑別診断:
疥癬、シラミ(ケジラミ、コロモジラミ)薬疹(SJS、DRESS症候群等)
ウイルス感染(麻疹、風疹、急性HIV感染(40-80%に麻疹様の皮疹を伴う)、HSV、Mpox、水痘)
診断的手技:パンチ生検
診断:生検の免疫組織染色にてVZVが細胞核、細胞質に陽性。血清検査ではVZV-IgM、IgG陰性、HIV-1,HIV-2の抗原、抗体陰性

最終診断:水痘

2025年6月11日水曜日

発熱、嘔気、呼吸不全の52歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.20
Case Records of the MGH
Case 15-2025: A 52-Year-Old Man with Fever, Nausea, and Respiratory Failure

ブエノスアイレスの教育病院ERに初秋に1週間続く咳で受診。1週間前より発熱、咳。胸部XPにてびまん性すりガラス影。15L酸素で酸素飽和度89%。コロナ検査陰性。患者は1か月前に歯科治療歴あり。また、最近ブエノスアイレス郊外のチャコムスの田舎でキャンプ歴あり。特に虫刺やげっ歯類の接触は認めない。血液検査ではHb:19.7,WBC:16500、PLT:54000↓、PaO2:42、PaCO2:70、pH:7.14、肺CTでは気管支肥厚を伴うびまん性すりガラス影。ネイサルハイフロー100%でもPaO2上昇せず、気管内挿管、人工呼吸管理。

鑑別診断
市中肺炎、びまん性肺胞出血、骨髄増殖性疾患
血液濃縮+両側肺病変→毛細血管漏出症候群→重症敗血症、トキシックショック、中毒、アナフィラキシー、ウイルス感染
アルゼンチンのチャコムス地域はハンタウイルスの流行地域。げっ歯類を通じて感染。潜伏期5~45日。発熱、倦怠感、関節痛、筋痛、嘔気・嘔吐などの消化器症状で、1/3は腹痛。腹痛は強く、虫垂炎、憩室炎、胆石に似る。心肺期には著明な低酸素、肺うっ血、ショックとなり、2-4日間持続。入院24-48時間が最も死亡リスク高い。
最終診断:ハンタウイルスによる心肺症候群

2025年6月4日水曜日

扁桃周囲の腫脹、出血をきたした29歳女性

NEJM,2025,vol.392,no.19
Case Records of the MGH
Case 14-2025: A 29-Year-Old Woman with Peritonsillar Swelling and Bleeding

7週間前に咽頭痛。近医にてコロナ抗原、溶連菌抗原陰性。症状持続し、アジスロマイシン投与。31日前に右ののどの腫れ、咽頭閉塞感を自覚しER受診。発熱なし。嗄声、喘鳴なし。右扁桃周囲の腫脹あり。右扁桃は発赤なし、浸出液なし。造影CTでは2.6cm大の咽頭の扁桃周囲にLDAあり。末梢にわずかに造影あり。リンパ節は異常なし。耳鼻科クリニックでフォローとなり、26日前、右扁桃周囲を切開し3mLの血性浸出液を排液。その翌日、疼痛と血性浸出液が持続し、患者は緊急で全麻下で止血処置が実施。その後、症状は改善していたが、8日前にカエル声となり、間欠的に出血するようになり、ER受診。
CTでは右扁桃周囲のLDAは3.5㎝大のLDAを認め、軟口蓋と上咽頭粘膜下層にまで浸潤していた。

鑑別診断:膿瘍、良性腫瘍(パピローマ、フィブローマなど)、悪性腫瘍(扁平上皮癌、リンパ腫、唾液腺癌、肉腫など)

診断
右咽頭の生検→胚性の横紋筋肉腫
免疫組織染色にてdesmin、myoD1が陽性で、myogeninが多巣性に陽性。
経過
本患者では診断的扁桃的手術は実施されたが、腫瘍摘出の場合、重度の嚥下障害が残存し、胃瘻による栄養が必要になると予想され、外科的切除縁をクリアする可能性が低いことから、手術は勧めず、化学療法、放射線療法など全身療法が勧められた。

2025年5月28日水曜日

体重減少、衰弱、食思不振をきたした70歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.18
Case Records of the MGH
Case 13-2025: A 70-Year-Old Man with Weight Loss, Weakness and Anorexia

抗うつ薬で治療歴のある70歳男性
6週前に倦怠感増悪。8日前にER受診。CTにて左副腎に19mmの結節認め、画像診断にて腺腫と判断。造影剤を用いたCTAによる頭部、頚部CTでは異常なし。
その後も倦怠感、食思不振持続。この6週で体重13.6kg減少。
患者にはhairy-cell白血病の既往があり、7年間寛解状態。
患者の皮膚はあちこちに打撲痕、皮膚の菲薄化あり。血液検査では血小板減少(9.1万)リンパ球減少(570)あり。カリウム3.1、
入院2日後、進行性の昏迷状態となり、脳波ではてんかん波を認めないびまん性のデルタ波、シータ波を認めた。第5病日には進行性の脳症により気管内挿管を実施。迷走神経刺激装置の存在のため、MRIは実施不能で、CT実施。右尾状核、内包前脚にLDAを認めた。髄液検査では初圧58cm、蛋白92,ブドウ糖2,赤血球500,細胞数67(好中球48,リンパ球32,単球16)。

鑑別診断:倦怠感、高血圧、低カリウム血症、高血糖、気分の悪化、味覚障害皮膚病変(皮膚菲薄化)等→Cushing症候群を疑う所見
髄液異常(細胞数増多、蛋白上昇、著明な初圧高値)→髄膜脳炎疑い

診断:5日目の血培陽性(血液寒天培地で酵母疑い)。墨汁染色でクリプトコッカス疑い。血液、髄液でのクリプトコッカス抗原のラテックス凝集抗原検査で4096倍。24時間尿中コルチゾール400μg(基準値3.5-45)。
→Cushing症候群に伴うクリプトコッカス・ネオフォルマンス感染

2025年5月21日水曜日

現在のCTから予想される生涯がんリスク

JAMA Int Med,2025
Projected Lifetime Cancer Risks From Current Computed Tomography Imaging

カルフォルニア大学UCSFの国際CT線量登録のデータ(米国の143施設および22の医療機構)を用いて検討。2016年と2020年のデータを用いて2023年のCT検査数を推定。米国科学アカデミーの放射線の生物学的影響のリスクモデルを活用した米国がん研究所の放射線評価ツール(RadRAT)を使用し放射線誘発がんリスクを予測した。このリスクモデルでは11の部位のがん、さらに7つの部位のがんについて、日本の原爆被爆者の最近のフォローアップのデータが用いられた。
結果、2023年に6151万人の患者が9300万件のCTを受けたと推定。小児は4.2%。これらの検査により10万3000件の放射線誘発がんが発生すると予想された。肺癌22400件、大腸癌8700件、白血病7900件、膀胱癌7100件、女性では乳癌5700件。成人におけるがん発生件数が多かったのは腹部・骨盤CTと予測(がん件数では37%、CT件数では32%)、胸部CTではがんで21%、CT件数21%と予測された。CT関連がんは、年間の新規がん診断の5%を占めると予想された。

2025年5月14日水曜日

時間毎の暑熱暴露と急性虚血性脳卒中

JAMA Network,2024,vol.7,no.2
Hourly Heat Exposure and Acute Ischemic Stroke

中国全土の200以上の脳卒中センターからなる脳卒中ビッグデータ(BOSC)のデータを用い、18歳以上、脳卒中発症後7日以内に入院、自己申告の発症時刻のわかるものを用い、2019-2021年で気温の高い4-9月の患者を対象とした。100キロ圏内の気象台のデータを用い、発症時刻から24時間の1時間毎の気温、湿度を用いた。条件付きロジスティック回帰分析+時間差を考慮した時系列データ非線形解析モデルにて検討した、329地点、82455人の虚血性脳卒中患者で解析。年齢65.8±11.9歳、男性63.4%、喫煙32.1%、アルコール24.2%、高血圧59.7%、脂質異常症3.0%、AF3.4%。発症3時間以内の来院率11.8%。気温を100パーセンタイル分位とした場合、最も低い1パーセンタイル分位を基準とすると気温12.1度、99パーセンタイル分位の気温は33.3度で、高い気温では、虚血性脳卒中の発症はオッズ比1.88(1.65-2.13)で高く、脂質異常があるとオッズ比は4.68(2.15-10.17)となった。高い気温の暴露の影響は10時間持続し、気温はオッズ比に線形に影響し、北部地域でより強い影響を認めた。

2025年5月7日水曜日

日本におけるHFpEFの疫学、病態生理、診断、治療(総説)

J Cardiac Failure,2023,vol.29,no.3
Epidemiology, Pathophysiology, Diagnosi, and Therapy of Heart Failure With Preserved Ejection Fraction in Japan

佐渡ヶ島での一般市民の疫学の推計では日本の心不全は2005年で100万人(1.0%)、2020年で120万人(1.2%)とされ、米国の2018年2.1%に比して少ない。日本でのHFpEFの院内死亡率は5.1-7.8%。心不全での心臓突然死は日本/韓国でHFpEFの6.1%/年と報告された。
日本では欧米に比して心不全での肥満が少ない(6.5%、米国75%)。肥満が少ないにもかかわらず、アジア人のHFpEFでは糖尿病は少なくない。それはインスリン分泌能、β細胞量が非アジア人に比して少ないためとされる。日本のHFpEFではCKDも多い。高齢者のHFpEFではフレイルも多く55.2%。AFの合併率は55%。
心臓アミロイドーシスはHFpEFの原因として過小評価されている。日本の80歳以上の剖検例では11.5%にトランスサイレチン・アミロイドの沈着が見られた。
HFpEFの治療ガイドラインとして、うっ血に対して利尿剤、高血圧、糖尿病、AFに対する治療、運動とともに、MRA、ARNI、ARBの使用を推奨。2022年のガイドラインではSGLT2阻害薬がHF入院、心不全死亡を下げるとして推奨。
日本のHFpEF患者ではサルコペニア、フレイルが多く、体重減少のあるHFpEFの死亡率は5倍高いとされる。日本の外来心不全患者で、心臓リハビリテーションを受けているのは7.3%にすぎない。

2025年4月30日水曜日

癌関連静脈血栓塞栓症に対する用量減量してのアピキサバン治療の延長

NEJM,2025,vol.392,no.14
Extended Reduced-Dose Apixaban for Cancer-Associated Venous Thromboembolism

癌患者は静脈血栓塞栓症の高リスクであり、その場合、6ヶ月の経口抗凝固療法またが低分子ヘパリンが推奨されている。今回、API-CAT研究として、下肢深部静脈血栓症、肺塞栓症で抗凝固療法6ヶ月実施後のアピキサバン2.5㎎×2回の非劣性を検討した。
1766例(69歳、61-75歳、男性43.4%、乳癌22.7%、結腸癌15.2%、婦人科癌12.1%、肺癌11.3%、体重75.7㎏、BMI:27.0)が無作為化され、866例が減量群、900例が通常群に割付。主要評価項目は12ヶ月後の血栓塞栓症の再燃(incidental含む)。11.8ヶ月後の血栓塞栓症の再燃は2.1%vs2.8%で差なし。出血2.9%vs4.3%、全死亡17.7%vs19.6%、血栓塞栓症の再燃+出血+全死亡で19.9%、22.1%で差なく非劣性であった。

2025年4月23日水曜日

咳、体重減少をきたした79歳女性

NEJM,2025,vol.392,no.15
Case Records of the MGH
Case 11-2025: A 79-Years-Old Woman with Cough and Weight Loss

4週前に感冒様症状の後、咳、痰が持続し、睡眠障害を伴う。昨年から10.4㎏の体重減少あり。5年前に南アフリカ、4年前に南米、6か月前に東南アジアに渡航歴あり。母親リンパ腫の既往。血液検査:血沈:55mm、CRP:1.19、胸部XPにて右胸水。胸水穿刺にて1.3L排液。胸水検査にて、赤血球14000/μL、有核細胞6300で10%が好中球、30%がリンパ球、5%マクロファージ、54%分類不能な細胞。胸水蛋白5.6g/dL、LDH:230

鑑別診断:
胸水のパターンはLight基準より滲出性。滲出性胸水:感染症、炎症、癌。
非感染性滲出性胸水:肺塞栓症、SLEなどの全身性炎症性疾患、薬剤性胸水

診断的検査
胸水細胞の病理学的検討:胸水細胞→形質細胞
CT、PET-CTにて右肺に無気肺、右肺中葉にPET-CTでFDG取り込みあり。さらに胸腔内リンパ節、左上顎洞にFDG取り込みあり。
最終診断:低分化型B細胞リンパ腫
(境界型リンパ腫でのリンパ腫の家族歴は中等度リスク)
治療はリツキシマブ+ベンダムスチンで初回治療4年後の寛解は2/3。本患者はCD20-CD3抗体glofitamab、CD20モノクローナル抗体obinutuzumabの治験参加し、2か月後に寛解。

2025年4月16日水曜日

背部痛、呼吸困難をきたした24歳男性

NEJM,2024,vol.391,no.9
Case Records of the MGH
Case 27-2024: A 24-Year-Old Man with Pain and Dyspnea

1923年3月の症例。3日前までは元気だったが、全身倦怠感、頭痛、背部痛が出現。入院前日より発熱、乾性咳嗽、悪寒出現し、身体がカチカチになり体動困難。呼吸困難、前胸部痛で来院。高熱、頻脈(92-145)、頻呼吸(28-58)。膿性痰。胸部XPにて右上肺、左下肺にコンソリデーション、左肺門リンパ節腫脹。心尖部bruitあり。左手掌、右示指に小充血性斑あり。入院3日目、膿性痰増加、4日目にはさらに全身状態悪化し死亡。

鑑別診断
1918年からインフルエンザのパンデミックあり。

診断
インフルエンザによる気管支肺炎

2025年4月9日水曜日

意識の変容とアシデミアをきたした72歳女性

NEJM,2025,vol.392,no.11
Case Records of the MGH
Case 8-2025: A 72-Year-Old Woman with Altered Mental Status and Acidemia

5年前に膀胱癌の既往があり、フルオロウラシル、マイトマイシンCの化学療法の既往あり。2週間前に血尿、排尿困難があり、シプロフロキサシンの投与を受ける。4日前、膀胱鏡検査にて、放射線膀胱炎、尿管癌の診断を受け、膀胱全摘術が予定された。膀胱鏡検査の2日後、2.5kgの体重増加があり、トルセミド、スピロノラクトンスの投与を受けた。その夜、興奮状態となり、翌朝、娘が救急要請。
7ヶ月前から傾眠傾向があり、高CO2血症のため、BiPAP、利尿剤投与あり。2型DMのため、ダパグリフロジン、メトホルミンの投与、他の投薬あり。
胸部XPでは肺うっ血、両側胸水、無気肺を認めた。
ICU入室時、ABGでpH:7.19、PaCO2:87、PaO2:81、AG:16→23→32、アセトアミノフェン、エタノール、サリチル酸は検出せず。

鑑別診断
ショック状態:敗血症性ショック、心不全、血管内脱水。
代謝性アシドーシス:高AG、呼吸性アシドーシスの代償。しかし、ICU入室後、さらにAG高値。
高AG代謝性アシドーシスの原因:GOLDMARK
G:エチレングリコール、O:オキシプロリン、L:乳酸、D:D-乳酸(まれ)、M:メタノール、A:アスピリン、R:腎不全、K:ケトアシドーシス

血中βヒドロキシ酪酸:9.1(<0.4)高値

診断;血糖正常性糖尿病性ケトアシドーシス
血糖正常性ケトアシドーシスは診断が遅れがちで、診断基準は、アニオンギャップ高値の代謝性アシドーシス、血中ケトン体高値、重炭酸イオンの低値。
糖尿病性ケトアシドーシスの原因:感染症、インスリン治療の中断、心筋梗塞、脳血管障害、膵炎、1型糖尿病の新規発症。本例ではSGLT2阻害薬の使用が考えられた。

2025年3月19日水曜日

アテローム中のマイクロプラスティック、ナノプラスティックと心血管イベント

NEJM,2024,vol.390,no.10
Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events

NASCET70%以上の無症候性内頸動脈狭窄でCEAを実施した連続447例(イタリア、サレルノ大学病院)のうち同意を得た312例。術後、退院までに8例が脳卒中または死亡し、47例が中断し、257例を33.7±6.9ヶ月フォローアップした。
150例(58.4%)で頸動脈アテローマ中にポリエチレンが見つかった。31例(12.1%)にポリビニル塩化物が見つかった。これらプラスティック(MNP)が見つかった群はより若年で、高血圧は少ない傾向を認めた。居住地域に差を認めず。頸動脈にMNPを認めた群では、そうでない群に比して、頸動脈プラーク中のIL-18、IL-1β、TNF-α、IL-6が多くみられ、コラーゲンは少なく、CD3、CD68は多く発現していた。心血管イベントは、20.0%vs7.5%で、年齢・性・BMI・コレステロール値、HDL-c、LDL-c、クレアチニン、高血圧、過去の心血管イベント等で調整したハザード比4.53(2.00-10.27)で、頸動脈プラーク中のMNPの存在は心血管イベントのリスクとなっていた。

2025年3月12日水曜日

慢性腎臓病におけるエンパグリフロジンの長期効果

NEJM,2025,vol.392,no.8
Long-Term Effects of Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease

EMPA-KIDNEY試験(eGFR:20-45、またはeGFR:45-90かつ200㎎/crea・g以上、RAS阻害薬を認容量内服)のフォローアップ研究。SGLT2阻害薬はオープンラベルでの投与。主要評価項目はCKD増悪(eGFRが40%以上悪化、透析、腎移植、eGFR<10)+心血管死。
本試験6609例中、ポスト試験に参加した者4891例。オープンラベルでのSGLT2阻害薬投与はエンパグリフロジン群43%、プラセボ群40%で、中央値2年フォローされ、主要評価項目イベントは26.2%vs30.3%で、ハザード比0.87(0.76-0.99)であった。エンパグリフロジンによる心血管腎へのベネフィットは投与終了後も12ヶ月以上にわたって持続していた。

2025年3月5日水曜日

頭痛をきたした末期肝疾患の56歳女性

NEJM,2024,vol.391,no.24
Case Records of the MGH
Case 40-2024:56-Year-Old Woman with End-Stage Liver Disease and Headache

MASH、肝硬変の女性。股関節の手術後から、全身倦怠感、腹痛で受診。昏迷をきたす。定期的に腹水穿刺。昏迷のため、単語で返答するのみ。肺CTでは、右肺門石灰化、左下肺に線状影。脳CTでは脳小血管病を示唆する白質に軽度低吸収域病変を認めた。特発性細菌性腹膜炎の所見は認めず。腎機能は低下し、利尿剤中止。
転院時、意識清明。転院2日、以前からの頭痛悪化。ずきずき、ガンガン、以前の片頭痛の様に痛いという。転院4日、嘔気あり、脳CT変化なし。転院5日、羞明、右目の視野のぼやけが出現。

鑑別
頭痛で羞明、視野のぼやけがある場合、二次性頭痛などの原因を考慮。
亜急性に増悪:血管原性:脳出血、動脈解離など。髄膜炎、頭蓋内占拠病変。
片側性の視野のぼやけ:頭蓋内圧亢進、眼動脈(脳静脈血栓症、巨細胞性動脈炎)髄膜脳炎(ウイルス性、細菌性、真菌性、寄生虫性)

診断的検査
髄液検査が必要と判断されたが、PT-INR:1.8のため、FFP、ビタミンKが投与。その間、血清クリプトコッカス抗原検査、脳画像検査実施。脳MRIでは基底核に新たにDWI、FLAIRで散在性の小高信号域を認めた。血性クリプトコッカス抗原は64倍。髄液検査では初圧31㎝H2O、糖80、蛋白114、細胞数41、髄液クリプトコッカス抗原2048倍

本例ではPT-INRが1.8のため髄液検査がためらわれたが、PT-INR<2ではFFP投与は意味がなく、4以上で考慮すべき。363例の肝硬変患者に852回の侵襲的手技を行った報告では10回の出血イベントを認めたが、血小板数、PT-INR、Child-Pughグレード、FFPの投与の有無などに関連を認めず。この報告ではPT-INR≧1.3を含む血小板数<5万でも出血イベントを認めず。

2025年2月26日水曜日

高血圧患者における降圧剤治療前後の自宅心拍数と死亡リスク:HOMED-BP研究の事後解析から

J Am Heart Assoc,2024,vol.13
Home Pulse Rate Before and During Antihypertensive Treatment and Mortality Risk in Hypertensive Patients : A Post Hoc Analysis of the HOMED-BP Study

HOMED-BP研究は日本で実施された多施設前向きRCTで高血圧の厳格治療群、通常治療群の比較試験で、その事後解析。40‐79歳、中等度高血圧、457クリニックで最終3022人(59.4±9.9歳、女性50.2%、BMI≧25,38.6%、自宅心拍数69.0、自宅SBP151.8、自宅DBP90.1)のデータを解析した。心拍数で5分割して解析。心拍数の低い第1五分位(心拍数41-61)に対して、心拍数の早い第5五分位(心拍数76-108)は有意に、若年、飲酒率、喫煙率、糖尿病、自宅DBPが高値であったが、自宅SBPや貧血は差がなかった。7.3年(4.8-9.1年)のフォローアップで72例が死亡し、50例で主要心血管イベントが発生。心血管イベントは心拍数での差は認めなかったが、全死亡は第3五分位以上で有意に死亡が多く、1SDの心拍数(安静時で9.4/分、フォローアップ期間中で9.9/分)増加で、ハザード比1.54(1.24-1.92)、1.70(1.39-2.08)であった。ROC解析では、ベースラインの心拍数67.8/分がカットオフポイントで、AUC0.578、感度0.71、特異度0.48であった。

2025年2月19日水曜日

インスリン治療なしの2型糖尿病でのインスリン・エフシトラ(週1回)vsデルグデク(1日1回)

NEJM,2024,vol.391,no.23
Insulin Efsitora versus Degludec in Type 2 Diabetes without Previous Insulin Treatment 

週1回のエフシトラのフェーズ3試験。オープンラベルのRCT、10ヵ国121施設。18歳以上、BMI45以下、HbA1C7.0-10.5で、最低3か月以上非インスリンでの薬物療法歴あるものを対象。主要評価項目は52週後のHbA1Cでのデルグデクに対する非劣性。2022年6月~2024年4月に1267人がスクリーニングされ、928人がランダム化され、エフシトラ群466人(57.6±10.6歳、男性60.3%、アジア人35.0%、HbA1C:8.21±0.96、BMI:30.4、GLP-1併用49.8%、SGLT2I併用38.4%)、デルグデク群462人。52週後のHbA1CはE群8.21→6.97、D群8.24→7.05で、優位性は示せなかったが、非劣性は示された。GLP-1併用の有無でも同様の結果。52週の時点の使用量はE群314.7U/週、D群334.4U/週で、有意にE群で少なかった。有症状の低血糖はE群130例、253件、D群97人、190件でレート比1.34(0.97-1.85)で有意差を認めず。

2025年2月12日水曜日

痛風発作時のコルヒチンを用いた尿酸低下療法の導入による心血管イベント、新規患者での後方視的コホート研究

Lancet,2024
Cardiovascular events in patients with gout initiating urate-lowering therapy with or without colchicine for flare prophylaxis: a retrospective new-user cohort study using linked primary care, hospitalisation, and mortality data

痛風発作後、最初の数か月に尿酸低下療法を導入すると、痛風発作が誘発されるおそれがあり、最初の3-6か月の痛風予防には、コルヒチンが第1選択として推奨されているが、実際には10-20%しか投与されていない。臨床研究データリンクAurumのデータを用いて、コルヒチンの心血管イベント予防について検討した。1997年-2021年のデータ。NSAIDsやコルヒチンの過去の使用歴のあるものは除外。42万人のデータのうち、99800人が解析され、16028人(63.5歳)が新規にコルヒチンが投与され、83772人(62.7歳)がNSAIDsもコルヒチンも投与されていなかった(予防治療なし群)。コルヒチンは平均47.3±33.7日、0.97±0.16mg投与。175.5日フォローアップされ、主要評価項目である心血管イベントは1.4%vs1.8%で、加重IRでは28.8/1000人・年vs35.3で加重ハザード比は0.82(0.69-0.94)(ITT解析)でリスクを減らしていた。

2025年2月5日水曜日

2型糖尿病に合併した慢性腎臓病でのフィネレノンの心血管および腎臓への長期効果、FIDELITY統合解析

Euro Heart J,2022,vol.43
Cardiovascular and kidney outcomes with finerenone in patients with type2 diabetes and chronic kidney disease : FIDELITY pooled analysis

ミネラルコルチコイド受容体の過活動は心、腎、血管の炎症、線維化を引き起こす。MR受容体拮抗薬であるフィネレノンはFIDELIO-DKD研究で腎転帰を改善し、FIGARO-DKD研究では心血管転帰を改善した。そのデータの統合研究。両研究棟もT2D+CKDで、RAS阻害薬が耐容量まで投与中、K値≦4.8で、FIDELIO研究はT2D+CKDで、尿アルブミンクレアチニン比(UACR)30-300、eGFR:25-60またはUACR≧300、FIGARO研究はUACR:30-300,eGFR:25-90またはUACR:300-5000、eGFR≧60のものを対象とし、主要評価項目は心血管転帰、腎転帰とした。統合データでは13026人(フィネレノン群6519人、プラセボ群6507人、64.8±9.5歳、男性69.8%、HbA1C:7.7±1.4、eGFR:57.6、UACR30-300,26.4%、UACR≧300,66.7%、インスリン58.6%、GLP17.2%、SGLT26.7%併用)が解析された。複合心血管転帰(心血管死、MI、脳卒中、心不全入院)ではハザード比0.86(0.78-0.95)であった。腎転帰ではベースラインからeGFRが57%以上低下を腎悪化とした場合の複合腎転帰でハザード比0.77(0.67-0.88)、末期腎不全(透析+腎移植)でHR0.80(0.64-0.99)、eGFR<15は0.70(0.60-0.83)でリスクを低下させていた。全死亡は8.5%vs9.4%で、HR0.89(0.79-1.00,p=0.051)であった。有害事象である高K血症は14.0%vs6.9%で、持続的な高K血症による投与不能例は1.7%vs0.6%であった。

2025年1月29日水曜日

好酸球増加型の重症喘息に対するデペモキマブ年2回投与治療

NEJM,2024,vol.391,no.24
Twice-Yearly Depemokimab in Severe Asthma with Eosinophilic Phenotype

デペモキマブはIL-5に結合する超持続作用型薬剤で、SWIFT-1、SWIFT-2研究として多施設二重盲検試験として実施。11カ国、131施設。12歳以上、2年以上の喘息罹患歴。過去に末梢好酸球数300以上、またはスクリーニング時に150以上で、吸入ステロイドを過去12ヶ月、中~高用量定期吸入中。デペモキマブ群、プラセボ群を2:1に割り付け。主要評価項目は52週間の急性増悪率。792人がランダム化され、762人が解析された。(SWIFT-1のプラセボ群で年齢53.6歳、女性60%、経口ステロイド10%、経口ステロイド8.5mg、気管支拡張症吸入前の対標準1秒量60.8)52週間の急性増悪回数はSWIFT-1で0.46vs1.11、RR:0.42(0.30-0.59,p<0.001)、SWIFT-2で0.56vs1.08でRR:0.52(0.36-0.73,p<0.001)で、急性増悪を減らしていた。二次評価項目である、質問紙法のSGRQでは有意な差を認めず。対標準1秒量も有意差認めず。

2025年1月22日水曜日

前高血圧からの高血圧進行に対して尿酸はリスクの指標である

Hypertension,2018,vol.71
Uric Acid Is a Strong Risk Marker for Developing Hypertension From Prehypertension
-A 5-Year Japanese Cohort Study-

単施設(聖路加国際病院)での後方視的研究。2004年~2009年のデータを使用。30-85歳で、高血圧で治療中の者を除外。正常血圧(BP<120/80)群、男2557人、女4330人、前高血圧(BP:120-140/80-90)群、男2081人、女1503人で検討。高尿酸血症は男>7.0㎎/dL、女>6.0とした。血圧正常群の5年後の高血圧発症は2.9%で、高尿酸血症有無では5.6%vs2.6%(p<0.001)。高血圧への移行の尿酸の閾値は男8.0、女5.0であった。前高血圧群の5年後の高血圧発症は25.3%で、高尿酸血症有無では30.7%vs24.0%(p<0.001)。リスクファクターを調整した前高血圧から高血圧発症のリスクのオッズ比は、BMI高値1.051、ベースラインのSBP高値1.072、ベースラインのDBP高値1.085に対して、高尿酸血症は1.149であった。尿酸値の4分位の最低群に対し、最高群の5年後の高血圧発症の修正オッズ比は女1.970、男1.369であった。

2025年1月15日水曜日

女性での高感度CRP、コレステロール、リポ蛋白aでの30年間の心血管イベントの転帰

NEJM,2024,vol.391,no.15
Inflammation, Cholesterol, Lipoprotein(a), and 30-Year Cardiovascular Outcomes in Women

Women's Health Study(WHS研究)は1992-1995年に登録された39876人の女性、医療従事者でのコホート研究。主要評価項目は心筋梗塞、脳卒中、冠動脈インターベンション、心血管死など。27939人(54.7歳、白人94.0%、BMI:25.9)が評価。中央値27.4年(22.6-28.5年)観察。心血管イベントは3662発生。高感度CRP、LDL-c、Lipoprotein(a)の30年の修正ハザード比は、一番低い5分位に比して一番高い5分位では、1.70(1.52-1.90)、1.36(1.23-1.52)、1.33(1.21-1.47)。スタチンの内服者は57.5%あり、スタチン内服時点以後での修正ハザード比でも1.65、1.62、1.42であった。3662件の心血管イベント例では2151例がスタチン内服していた。

2025年1月8日水曜日

呼吸困難、嚥下困難、構音障害をきたした72歳女性

NEJM,2024,vol.391,no.15
Case Records of the MGH
Case 32-2024: A 72-Year-Old Woman with Dyspnea, Dysphagia, and Dysarthria

2年前からの亜急性の労作性呼吸困難。この数ヶ月で徐々に悪化し、歩行中の酸素飽和度は91-94%に悪化。血液検査は正常、胸部XPでは軽度心拡大、両側の間質性陰影。体重はこの間、5kg減。Dダイマー:3259ng/mL、その後、中断。10ヶ月前に部屋間の移動で息切れ。一時的な顔面の左右差で、左の口唇から流涎。電話での対応時に声が不明瞭なのに親族が気づく。その2ヶ月後の心エコーでは卵円孔開存、左右シャント、中等度TR、右室圧60mmHg。その後、両下肢の筋力低下があり、歩行器を使用。既往歴は重度肥満、心房粗動、高血圧、脂質異常症、副甲状腺機能亢進症。動脈血ガスではPCO2:74,PO2:89、pH:7.32
入院時の神経学的所見では、頻呼吸、忘れっぽさ、構音障害、右の顔面筋の麻痺、右眼瞼下垂軽度、両側の近位筋の筋力低下、左上肢のバレー試験での回内。右バビンスキー反射陽性。MRIでは梗塞巣認めず。

鑑別診断
脳血管障害(脳、脳幹、本例では脳MRI異常なし)
MND(ALS)(本例では腱反射亢進なし、筋萎縮なし、fasciculationなし)
神経根
末梢神経 GBS(純粋な運動神経のみのGBSはある。眼瞼下垂はGBSにはまれ。一過性の顔面筋麻痺も説明つかない)
神経筋接合部 筋無力症(MG)の60%は顔面や眼瞼の非対称を認める。
筋 眼咽頭筋型筋ジストロフィ 

抗MuSK抗体陽性のMGでは40%の患者で嚥下困難、構音障害が初発症状で、眼瞼下垂はないかあっても軽度、筋力低下もほとんどないとされる。

診断的検査、治療
反復刺激誘発筋電図検査では検査前に比して18%電位低下あり。
抗AChR抗体12.5nmol/L(正常≦0.02)、抗MuMK抗体陰性、抗横紋筋抗体30720倍(正常120倍未満)
CTでは胸腺腫なし
5日間のIVIG療法、さらにPSL、アザチオプリン、リツキシマブでの免疫抑制治療。6週の時点で、球麻痺、眼症状、四肢筋力低下は改善。しかし、その後、重度の誤嚥を起こし、そのまま死亡。