2025年3月19日水曜日

アテローム中のマイクロプラスティック、ナノプラスティックと心血管イベント

NEJM,2024,vol.390,no.10
Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events

NASCET70%以上の無症候性内頸動脈狭窄でCEAを実施した連続447例(イタリア、サレルノ大学病院)のうち同意を得た312例。術後、退院までに8例が脳卒中または死亡し、47例が中断し、257例を33.7±6.9ヶ月フォローアップした。
150例(58.4%)で頸動脈アテローマ中にポリエチレンが見つかった。31例(12.1%)にポリビニル塩化物が見つかった。これらプラスティック(MNP)が見つかった群はより若年で、高血圧は少ない傾向を認めた。居住地域に差を認めず。頸動脈にMNPを認めた群では、そうでない群に比して、頸動脈プラーク中のIL-18、IL-1β、TNF-α、IL-6が多くみられ、コラーゲンは少なく、CD3、CD68は多く発現していた。心血管イベントは、20.0%vs7.5%で、年齢・性・BMI・コレステロール値、HDL-c、LDL-c、クレアチニン、高血圧、過去の心血管イベント等で調整したハザード比4.53(2.00-10.27)で、頸動脈プラーク中のMNPの存在は心血管イベントのリスクとなっていた。

2025年3月12日水曜日

慢性腎臓病におけるエンパグリフロジンの長期効果

NEJM,2025,vol.392,no.8
Long-Term Effects of Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease

EMPA-KIDNEY試験(eGFR:20-45、またはeGFR:45-90かつ200㎎/crea・g以上、RAS阻害薬を認容量内服)のフォローアップ研究。SGLT2阻害薬はオープンラベルでの投与。主要評価項目はCKD増悪(eGFRが40%以上悪化、透析、腎移植、eGFR<10)+心血管死。
本試験6609例中、ポスト試験に参加した者4891例。オープンラベルでのSGLT2阻害薬投与はエンパグリフロジン群43%、プラセボ群40%で、中央値2年フォローされ、主要評価項目イベントは26.2%vs30.3%で、ハザード比0.87(0.76-0.99)であった。エンパグリフロジンによる心血管腎へのベネフィットは投与終了後も12ヶ月以上にわたって持続していた。

2025年3月5日水曜日

頭痛をきたした末期肝疾患の56歳女性

NEJM,2024,vol.391,no.24
Case Records of the MGH
Case 40-2024:56-Year-Old Woman with End-Stage Liver Disease and Headache

MASH、肝硬変の女性。股関節の手術後から、全身倦怠感、腹痛で受診。昏迷をきたす。定期的に腹水穿刺。昏迷のため、単語で返答するのみ。肺CTでは、右肺門石灰化、左下肺に線状影。脳CTでは脳小血管病を示唆する白質に軽度低吸収域病変を認めた。特発性細菌性腹膜炎の所見は認めず。腎機能は低下し、利尿剤中止。
転院時、意識清明。転院2日、以前からの頭痛悪化。ずきずき、ガンガン、以前の片頭痛の様に痛いという。転院4日、嘔気あり、脳CT変化なし。転院5日、羞明、右目の視野のぼやけが出現。

鑑別
頭痛で羞明、視野のぼやけがある場合、二次性頭痛などの原因を考慮。
亜急性に増悪:血管原性:脳出血、動脈解離など。髄膜炎、頭蓋内占拠病変。
片側性の視野のぼやけ:頭蓋内圧亢進、眼動脈(脳静脈血栓症、巨細胞性動脈炎)髄膜脳炎(ウイルス性、細菌性、真菌性、寄生虫性)

診断的検査
髄液検査が必要と判断されたが、PT-INR:1.8のため、FFP、ビタミンKが投与。その間、血清クリプトコッカス抗原検査、脳画像検査実施。脳MRIでは基底核に新たにDWI、FLAIRで散在性の小高信号域を認めた。血性クリプトコッカス抗原は64倍。髄液検査では初圧31㎝H2O、糖80、蛋白114、細胞数41、髄液クリプトコッカス抗原2048倍

本例ではPT-INRが1.8のため髄液検査がためらわれたが、PT-INR<2ではFFP投与は意味がなく、4以上で考慮すべき。363例の肝硬変患者に852回の侵襲的手技を行った報告では10回の出血イベントを認めたが、血小板数、PT-INR、Child-Pughグレード、FFPの投与の有無などに関連を認めず。この報告ではPT-INR≧1.3を含む血小板数<5万でも出血イベントを認めず。

2025年2月26日水曜日

高血圧患者における降圧剤治療前後の自宅心拍数と死亡リスク:HOMED-BP研究の事後解析から

J Am Heart Assoc,2024,vol.13
Home Pulse Rate Before and During Antihypertensive Treatment and Mortality Risk in Hypertensive Patients : A Post Hoc Analysis of the HOMED-BP Study

HOMED-BP研究は日本で実施された多施設前向きRCTで高血圧の厳格治療群、通常治療群の比較試験で、その事後解析。40‐79歳、中等度高血圧、457クリニックで最終3022人(59.4±9.9歳、女性50.2%、BMI≧25,38.6%、自宅心拍数69.0、自宅SBP151.8、自宅DBP90.1)のデータを解析した。心拍数で5分割して解析。心拍数の低い第1五分位(心拍数41-61)に対して、心拍数の早い第5五分位(心拍数76-108)は有意に、若年、飲酒率、喫煙率、糖尿病、自宅DBPが高値であったが、自宅SBPや貧血は差がなかった。7.3年(4.8-9.1年)のフォローアップで72例が死亡し、50例で主要心血管イベントが発生。心血管イベントは心拍数での差は認めなかったが、全死亡は第3五分位以上で有意に死亡が多く、1SDの心拍数(安静時で9.4/分、フォローアップ期間中で9.9/分)増加で、ハザード比1.54(1.24-1.92)、1.70(1.39-2.08)であった。ROC解析では、ベースラインの心拍数67.8/分がカットオフポイントで、AUC0.578、感度0.71、特異度0.48であった。

2025年2月19日水曜日

インスリン治療なしの2型糖尿病でのインスリン・エフシトラ(週1回)vsデルグデク(1日1回)

NEJM,2024,vol.391,no.23
Insulin Efsitora versus Degludec in Type 2 Diabetes without Previous Insulin Treatment 

週1回のエフシトラのフェーズ3試験。オープンラベルのRCT、10ヵ国121施設。18歳以上、BMI45以下、HbA1C7.0-10.5で、最低3か月以上非インスリンでの薬物療法歴あるものを対象。主要評価項目は52週後のHbA1Cでのデルグデクに対する非劣性。2022年6月~2024年4月に1267人がスクリーニングされ、928人がランダム化され、エフシトラ群466人(57.6±10.6歳、男性60.3%、アジア人35.0%、HbA1C:8.21±0.96、BMI:30.4、GLP-1併用49.8%、SGLT2I併用38.4%)、デルグデク群462人。52週後のHbA1CはE群8.21→6.97、D群8.24→7.05で、優位性は示せなかったが、非劣性は示された。GLP-1併用の有無でも同様の結果。52週の時点の使用量はE群314.7U/週、D群334.4U/週で、有意にE群で少なかった。有症状の低血糖はE群130例、253件、D群97人、190件でレート比1.34(0.97-1.85)で有意差を認めず。

2025年2月12日水曜日

痛風発作時のコルヒチンを用いた尿酸低下療法の導入による心血管イベント、新規患者での後方視的コホート研究

Lancet,2024
Cardiovascular events in patients with gout initiating urate-lowering therapy with or without colchicine for flare prophylaxis: a retrospective new-user cohort study using linked primary care, hospitalisation, and mortality data

痛風発作後、最初の数か月に尿酸低下療法を導入すると、痛風発作が誘発されるおそれがあり、最初の3-6か月の痛風予防には、コルヒチンが第1選択として推奨されているが、実際には10-20%しか投与されていない。臨床研究データリンクAurumのデータを用いて、コルヒチンの心血管イベント予防について検討した。1997年-2021年のデータ。NSAIDsやコルヒチンの過去の使用歴のあるものは除外。42万人のデータのうち、99800人が解析され、16028人(63.5歳)が新規にコルヒチンが投与され、83772人(62.7歳)がNSAIDsもコルヒチンも投与されていなかった(予防治療なし群)。コルヒチンは平均47.3±33.7日、0.97±0.16mg投与。175.5日フォローアップされ、主要評価項目である心血管イベントは1.4%vs1.8%で、加重IRでは28.8/1000人・年vs35.3で加重ハザード比は0.82(0.69-0.94)(ITT解析)でリスクを減らしていた。

2025年2月5日水曜日

2型糖尿病に合併した慢性腎臓病でのフィネレノンの心血管および腎臓への長期効果、FIDELITY統合解析

Euro Heart J,2022,vol.43
Cardiovascular and kidney outcomes with finerenone in patients with type2 diabetes and chronic kidney disease : FIDELITY pooled analysis

ミネラルコルチコイド受容体の過活動は心、腎、血管の炎症、線維化を引き起こす。MR受容体拮抗薬であるフィネレノンはFIDELIO-DKD研究で腎転帰を改善し、FIGARO-DKD研究では心血管転帰を改善した。そのデータの統合研究。両研究棟もT2D+CKDで、RAS阻害薬が耐容量まで投与中、K値≦4.8で、FIDELIO研究はT2D+CKDで、尿アルブミンクレアチニン比(UACR)30-300、eGFR:25-60またはUACR≧300、FIGARO研究はUACR:30-300,eGFR:25-90またはUACR:300-5000、eGFR≧60のものを対象とし、主要評価項目は心血管転帰、腎転帰とした。統合データでは13026人(フィネレノン群6519人、プラセボ群6507人、64.8±9.5歳、男性69.8%、HbA1C:7.7±1.4、eGFR:57.6、UACR30-300,26.4%、UACR≧300,66.7%、インスリン58.6%、GLP17.2%、SGLT26.7%併用)が解析された。複合心血管転帰(心血管死、MI、脳卒中、心不全入院)ではハザード比0.86(0.78-0.95)であった。腎転帰ではベースラインからeGFRが57%以上低下を腎悪化とした場合の複合腎転帰でハザード比0.77(0.67-0.88)、末期腎不全(透析+腎移植)でHR0.80(0.64-0.99)、eGFR<15は0.70(0.60-0.83)でリスクを低下させていた。全死亡は8.5%vs9.4%で、HR0.89(0.79-1.00,p=0.051)であった。有害事象である高K血症は14.0%vs6.9%で、持続的な高K血症による投与不能例は1.7%vs0.6%であった。

2025年1月29日水曜日

好酸球増加型の重症喘息に対するデペモキマブ年2回投与治療

NEJM,2024,vol.391,no.24
Twice-Yearly Depemokimab in Severe Asthma with Eosinophilic Phenotype

デペモキマブはIL-5に結合する超持続作用型薬剤で、SWIFT-1、SWIFT-2研究として多施設二重盲検試験として実施。11カ国、131施設。12歳以上、2年以上の喘息罹患歴。過去に末梢好酸球数300以上、またはスクリーニング時に150以上で、吸入ステロイドを過去12ヶ月、中~高用量定期吸入中。デペモキマブ群、プラセボ群を2:1に割り付け。主要評価項目は52週間の急性増悪率。792人がランダム化され、762人が解析された。(SWIFT-1のプラセボ群で年齢53.6歳、女性60%、経口ステロイド10%、経口ステロイド8.5mg、気管支拡張症吸入前の対標準1秒量60.8)52週間の急性増悪回数はSWIFT-1で0.46vs1.11、RR:0.42(0.30-0.59,p<0.001)、SWIFT-2で0.56vs1.08でRR:0.52(0.36-0.73,p<0.001)で、急性増悪を減らしていた。二次評価項目である、質問紙法のSGRQでは有意な差を認めず。対標準1秒量も有意差認めず。

2025年1月22日水曜日

前高血圧からの高血圧進行に対して尿酸はリスクの指標である

Hypertension,2018,vol.71
Uric Acid Is a Strong Risk Marker for Developing Hypertension From Prehypertension
-A 5-Year Japanese Cohort Study-

単施設(聖路加国際病院)での後方視的研究。2004年~2009年のデータを使用。30-85歳で、高血圧で治療中の者を除外。正常血圧(BP<120/80)群、男2557人、女4330人、前高血圧(BP:120-140/80-90)群、男2081人、女1503人で検討。高尿酸血症は男>7.0㎎/dL、女>6.0とした。血圧正常群の5年後の高血圧発症は2.9%で、高尿酸血症有無では5.6%vs2.6%(p<0.001)。高血圧への移行の尿酸の閾値は男8.0、女5.0であった。前高血圧群の5年後の高血圧発症は25.3%で、高尿酸血症有無では30.7%vs24.0%(p<0.001)。リスクファクターを調整した前高血圧から高血圧発症のリスクのオッズ比は、BMI高値1.051、ベースラインのSBP高値1.072、ベースラインのDBP高値1.085に対して、高尿酸血症は1.149であった。尿酸値の4分位の最低群に対し、最高群の5年後の高血圧発症の修正オッズ比は女1.970、男1.369であった。

2025年1月15日水曜日

女性での高感度CRP、コレステロール、リポ蛋白aでの30年間の心血管イベントの転帰

NEJM,2024,vol.391,no.15
Inflammation, Cholesterol, Lipoprotein(a), and 30-Year Cardiovascular Outcomes in Women

Women's Health Study(WHS研究)は1992-1995年に登録された39876人の女性、医療従事者でのコホート研究。主要評価項目は心筋梗塞、脳卒中、冠動脈インターベンション、心血管死など。27939人(54.7歳、白人94.0%、BMI:25.9)が評価。中央値27.4年(22.6-28.5年)観察。心血管イベントは3662発生。高感度CRP、LDL-c、Lipoprotein(a)の30年の修正ハザード比は、一番低い5分位に比して一番高い5分位では、1.70(1.52-1.90)、1.36(1.23-1.52)、1.33(1.21-1.47)。スタチンの内服者は57.5%あり、スタチン内服時点以後での修正ハザード比でも1.65、1.62、1.42であった。3662件の心血管イベント例では2151例がスタチン内服していた。

2025年1月8日水曜日

呼吸困難、嚥下困難、構音障害をきたした72歳女性

NEJM,2024,vol.391,no.15
Case Records of the MGH
Case 32-2024: A 72-Year-Old Woman with Dyspnea, Dysphagia, and Dysarthria

2年前からの亜急性の労作性呼吸困難。この数ヶ月で徐々に悪化し、歩行中の酸素飽和度は91-94%に悪化。血液検査は正常、胸部XPでは軽度心拡大、両側の間質性陰影。体重はこの間、5kg減。Dダイマー:3259ng/mL、その後、中断。10ヶ月前に部屋間の移動で息切れ。一時的な顔面の左右差で、左の口唇から流涎。電話での対応時に声が不明瞭なのに親族が気づく。その2ヶ月後の心エコーでは卵円孔開存、左右シャント、中等度TR、右室圧60mmHg。その後、両下肢の筋力低下があり、歩行器を使用。既往歴は重度肥満、心房粗動、高血圧、脂質異常症、副甲状腺機能亢進症。動脈血ガスではPCO2:74,PO2:89、pH:7.32
入院時の神経学的所見では、頻呼吸、忘れっぽさ、構音障害、右の顔面筋の麻痺、右眼瞼下垂軽度、両側の近位筋の筋力低下、左上肢のバレー試験での回内。右バビンスキー反射陽性。MRIでは梗塞巣認めず。

鑑別診断
脳血管障害(脳、脳幹、本例では脳MRI異常なし)
MND(ALS)(本例では腱反射亢進なし、筋萎縮なし、fasciculationなし)
神経根
末梢神経 GBS(純粋な運動神経のみのGBSはある。眼瞼下垂はGBSにはまれ。一過性の顔面筋麻痺も説明つかない)
神経筋接合部 筋無力症(MG)の60%は顔面や眼瞼の非対称を認める。
筋 眼咽頭筋型筋ジストロフィ 

抗MuSK抗体陽性のMGでは40%の患者で嚥下困難、構音障害が初発症状で、眼瞼下垂はないかあっても軽度、筋力低下もほとんどないとされる。

診断的検査、治療
反復刺激誘発筋電図検査では検査前に比して18%電位低下あり。
抗AChR抗体12.5nmol/L(正常≦0.02)、抗MuMK抗体陰性、抗横紋筋抗体30720倍(正常120倍未満)
CTでは胸腺腫なし
5日間のIVIG療法、さらにPSL、アザチオプリン、リツキシマブでの免疫抑制治療。6週の時点で、球麻痺、眼症状、四肢筋力低下は改善。しかし、その後、重度の誤嚥を起こし、そのまま死亡。