2025年6月25日水曜日

カンジダ血症の臨床と治療、後方視的検討

BMC Infectious disease,2024,vol.24
Clinical manifestations and treatment of candidemia caused by different Candida species: a retrospective study

北京清華大学医学院に2020~2023年に血培でカンジダが陽性となった94例で検討した。年齢66.3±13.9歳、男性59例、死亡22例23.4%、10日以内の先行するグラム陽性球菌の菌血症既往31.9%、悪性疾患39.3%、消化器手術後38.3%、経静脈栄養53.2%、広域抗菌薬使用53.2%、ICU入室43.6%、CVカテ挿入213%。
広域抗菌薬の使用、低体重、低Alb血症、経静脈栄養、消化器手術の既往、尿路感染の既往、グラム陽性球菌の菌血症で、カンジダ血症の患者の死亡リスクが高かった。経静脈栄養の期間が長いと死亡リスクはオッズ比10.57で高かった。βDグルカンの陽性率は66.2%で他の報告より低かった。菌種同定ではアルビカンス46.8%、パラシリオーシス23.4%、グラブラータ17%。治療はトリアゾール系54例、エキノキャンディン系37例、アムホテリシンB3例。トリアゾール系はフルコナゾール35例、ボリゴナゾール19例で治療。エキノキャンディン系は39%がカスポファンギンで、7日間のトリアゾール系とエキノキャンディン系の効果は同様であった。Cグラブラータのトリアゾール系の耐性率は30%とする報告もある。今回の検討ではエキノキャンディン系に耐性のものは認めなかった。

2025年6月18日水曜日

咽頭痛と皮疹の56歳女性

NEJM,2025,vol.392,no.16
Case Records of the MGH
Case 12-2025: A 56-Year-Old Woman with Sore Throat and Rash

2日前まで健康。ホームレスのシェルターにて居住。うつ病の治療中。当日、顔、前胸部、腹部、下肢の皮疹に気付きER受診。掻痒感、咽頭痛あり。ホームレスのシェルターでは、シラミ、疥癬の流行の情報あり。リスペリドン等の内服あり
体温38.4℃、酸素飽和度96%、上口唇に潰瘍、前額部、鼻、頬部にピンクの丘疹、背部、前胸部、腹部に表皮の剥離した丘疹、水疱あり。手掌、手背にピンクの丘疹。血液検査でGOT:44,GPT:60、WBC5300,異形リンパ球5.3%

鑑別診断:
疥癬、シラミ(ケジラミ、コロモジラミ)薬疹(SJS、DRESS症候群等)
ウイルス感染(麻疹、風疹、急性HIV感染(40-80%に麻疹様の皮疹を伴う)、HSV、Mpox、水痘)
診断的手技:パンチ生検
診断:生検の免疫組織染色にてVZVが細胞核、細胞質に陽性。血清検査ではVZV-IgM、IgG陰性、HIV-1,HIV-2の抗原、抗体陰性

最終診断:水痘

2025年6月11日水曜日

発熱、嘔気、呼吸不全の52歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.20
Case Records of the MGH
Case 15-2025: A 52-Year-Old Man with Fever, Nausea, and Respiratory Failure

ブエノスアイレスの教育病院ERに初秋に1週間続く咳で受診。1週間前より発熱、咳。胸部XPにてびまん性すりガラス影。15L酸素で酸素飽和度89%。コロナ検査陰性。患者は1か月前に歯科治療歴あり。また、最近ブエノスアイレス郊外のチャコムスの田舎でキャンプ歴あり。特に虫刺やげっ歯類の接触は認めない。血液検査ではHb:19.7,WBC:16500、PLT:54000↓、PaO2:42、PaCO2:70、pH:7.14、肺CTでは気管支肥厚を伴うびまん性すりガラス影。ネイサルハイフロー100%でもPaO2上昇せず、気管内挿管、人工呼吸管理。

鑑別診断
市中肺炎、びまん性肺胞出血、骨髄増殖性疾患
血液濃縮+両側肺病変→毛細血管漏出症候群→重症敗血症、トキシックショック、中毒、アナフィラキシー、ウイルス感染
アルゼンチンのチャコムス地域はハンタウイルスの流行地域。げっ歯類を通じて感染。潜伏期5~45日。発熱、倦怠感、関節痛、筋痛、嘔気・嘔吐などの消化器症状で、1/3は腹痛。腹痛は強く、虫垂炎、憩室炎、胆石に似る。心肺期には著明な低酸素、肺うっ血、ショックとなり、2-4日間持続。入院24-48時間が最も死亡リスク高い。
最終診断:ハンタウイルスによる心肺症候群

2025年6月4日水曜日

扁桃周囲の腫脹、出血をきたした29歳女性

NEJM,2025,vol.392,no.19
Case Records of the MGH
Case 14-2025: A 29-Year-Old Woman with Peritonsillar Swelling and Bleeding

7週間前に咽頭痛。近医にてコロナ抗原、溶連菌抗原陰性。症状持続し、アジスロマイシン投与。31日前に右ののどの腫れ、咽頭閉塞感を自覚しER受診。発熱なし。嗄声、喘鳴なし。右扁桃周囲の腫脹あり。右扁桃は発赤なし、浸出液なし。造影CTでは2.6cm大の咽頭の扁桃周囲にLDAあり。末梢にわずかに造影あり。リンパ節は異常なし。耳鼻科クリニックでフォローとなり、26日前、右扁桃周囲を切開し3mLの血性浸出液を排液。その翌日、疼痛と血性浸出液が持続し、患者は緊急で全麻下で止血処置が実施。その後、症状は改善していたが、8日前にカエル声となり、間欠的に出血するようになり、ER受診。
CTでは右扁桃周囲のLDAは3.5㎝大のLDAを認め、軟口蓋と上咽頭粘膜下層にまで浸潤していた。

鑑別診断:膿瘍、良性腫瘍(パピローマ、フィブローマなど)、悪性腫瘍(扁平上皮癌、リンパ腫、唾液腺癌、肉腫など)

診断
右咽頭の生検→胚性の横紋筋肉腫
免疫組織染色にてdesmin、myoD1が陽性で、myogeninが多巣性に陽性。
経過
本患者では診断的扁桃的手術は実施されたが、腫瘍摘出の場合、重度の嚥下障害が残存し、胃瘻による栄養が必要になると予想され、外科的切除縁をクリアする可能性が低いことから、手術は勧めず、化学療法、放射線療法など全身療法が勧められた。

2025年5月28日水曜日

体重減少、衰弱、食思不振をきたした70歳男性

NEJM,2025,vol.392,no.18
Case Records of the MGH
Case 13-2025: A 70-Year-Old Man with Weight Loss, Weakness and Anorexia

抗うつ薬で治療歴のある70歳男性
6週前に倦怠感増悪。8日前にER受診。CTにて左副腎に19mmの結節認め、画像診断にて腺腫と判断。造影剤を用いたCTAによる頭部、頚部CTでは異常なし。
その後も倦怠感、食思不振持続。この6週で体重13.6kg減少。
患者にはhairy-cell白血病の既往があり、7年間寛解状態。
患者の皮膚はあちこちに打撲痕、皮膚の菲薄化あり。血液検査では血小板減少(9.1万)リンパ球減少(570)あり。カリウム3.1、
入院2日後、進行性の昏迷状態となり、脳波ではてんかん波を認めないびまん性のデルタ波、シータ波を認めた。第5病日には進行性の脳症により気管内挿管を実施。迷走神経刺激装置の存在のため、MRIは実施不能で、CT実施。右尾状核、内包前脚にLDAを認めた。髄液検査では初圧58cm、蛋白92,ブドウ糖2,赤血球500,細胞数67(好中球48,リンパ球32,単球16)。

鑑別診断:倦怠感、高血圧、低カリウム血症、高血糖、気分の悪化、味覚障害皮膚病変(皮膚菲薄化)等→Cushing症候群を疑う所見
髄液異常(細胞数増多、蛋白上昇、著明な初圧高値)→髄膜脳炎疑い

診断:5日目の血培陽性(血液寒天培地で酵母疑い)。墨汁染色でクリプトコッカス疑い。血液、髄液でのクリプトコッカス抗原のラテックス凝集抗原検査で4096倍。24時間尿中コルチゾール400μg(基準値3.5-45)。
→Cushing症候群に伴うクリプトコッカス・ネオフォルマンス感染

2025年5月21日水曜日

現在のCTから予想される生涯がんリスク

JAMA Int Med,2025
Projected Lifetime Cancer Risks From Current Computed Tomography Imaging

カルフォルニア大学UCSFの国際CT線量登録のデータ(米国の143施設および22の医療機構)を用いて検討。2016年と2020年のデータを用いて2023年のCT検査数を推定。米国科学アカデミーの放射線の生物学的影響のリスクモデルを活用した米国がん研究所の放射線評価ツール(RadRAT)を使用し放射線誘発がんリスクを予測した。このリスクモデルでは11の部位のがん、さらに7つの部位のがんについて、日本の原爆被爆者の最近のフォローアップのデータが用いられた。
結果、2023年に6151万人の患者が9300万件のCTを受けたと推定。小児は4.2%。これらの検査により10万3000件の放射線誘発がんが発生すると予想された。肺癌22400件、大腸癌8700件、白血病7900件、膀胱癌7100件、女性では乳癌5700件。成人におけるがん発生件数が多かったのは腹部・骨盤CTと予測(がん件数では37%、CT件数では32%)、胸部CTではがんで21%、CT件数21%と予測された。CT関連がんは、年間の新規がん診断の5%を占めると予想された。

2025年5月14日水曜日

時間毎の暑熱暴露と急性虚血性脳卒中

JAMA Network,2024,vol.7,no.2
Hourly Heat Exposure and Acute Ischemic Stroke

中国全土の200以上の脳卒中センターからなる脳卒中ビッグデータ(BOSC)のデータを用い、18歳以上、脳卒中発症後7日以内に入院、自己申告の発症時刻のわかるものを用い、2019-2021年で気温の高い4-9月の患者を対象とした。100キロ圏内の気象台のデータを用い、発症時刻から24時間の1時間毎の気温、湿度を用いた。条件付きロジスティック回帰分析+時間差を考慮した時系列データ非線形解析モデルにて検討した、329地点、82455人の虚血性脳卒中患者で解析。年齢65.8±11.9歳、男性63.4%、喫煙32.1%、アルコール24.2%、高血圧59.7%、脂質異常症3.0%、AF3.4%。発症3時間以内の来院率11.8%。気温を100パーセンタイル分位とした場合、最も低い1パーセンタイル分位を基準とすると気温12.1度、99パーセンタイル分位の気温は33.3度で、高い気温では、虚血性脳卒中の発症はオッズ比1.88(1.65-2.13)で高く、脂質異常があるとオッズ比は4.68(2.15-10.17)となった。高い気温の暴露の影響は10時間持続し、気温はオッズ比に線形に影響し、北部地域でより強い影響を認めた。

2025年5月7日水曜日

日本におけるHFpEFの疫学、病態生理、診断、治療(総説)

J Cardiac Failure,2023,vol.29,no.3
Epidemiology, Pathophysiology, Diagnosi, and Therapy of Heart Failure With Preserved Ejection Fraction in Japan

佐渡ヶ島での一般市民の疫学の推計では日本の心不全は2005年で100万人(1.0%)、2020年で120万人(1.2%)とされ、米国の2018年2.1%に比して少ない。日本でのHFpEFの院内死亡率は5.1-7.8%。心不全での心臓突然死は日本/韓国でHFpEFの6.1%/年と報告された。
日本では欧米に比して心不全での肥満が少ない(6.5%、米国75%)。肥満が少ないにもかかわらず、アジア人のHFpEFでは糖尿病は少なくない。それはインスリン分泌能、β細胞量が非アジア人に比して少ないためとされる。日本のHFpEFではCKDも多い。高齢者のHFpEFではフレイルも多く55.2%。AFの合併率は55%。
心臓アミロイドーシスはHFpEFの原因として過小評価されている。日本の80歳以上の剖検例では11.5%にトランスサイレチン・アミロイドの沈着が見られた。
HFpEFの治療ガイドラインとして、うっ血に対して利尿剤、高血圧、糖尿病、AFに対する治療、運動とともに、MRA、ARNI、ARBの使用を推奨。2022年のガイドラインではSGLT2阻害薬がHF入院、心不全死亡を下げるとして推奨。
日本のHFpEF患者ではサルコペニア、フレイルが多く、体重減少のあるHFpEFの死亡率は5倍高いとされる。日本の外来心不全患者で、心臓リハビリテーションを受けているのは7.3%にすぎない。

2025年4月30日水曜日

癌関連静脈血栓塞栓症に対する用量減量してのアピキサバン治療の延長

NEJM,2025,vol.392,no.14
Extended Reduced-Dose Apixaban for Cancer-Associated Venous Thromboembolism

癌患者は静脈血栓塞栓症の高リスクであり、その場合、6ヶ月の経口抗凝固療法またが低分子ヘパリンが推奨されている。今回、API-CAT研究として、下肢深部静脈血栓症、肺塞栓症で抗凝固療法6ヶ月実施後のアピキサバン2.5㎎×2回の非劣性を検討した。
1766例(69歳、61-75歳、男性43.4%、乳癌22.7%、結腸癌15.2%、婦人科癌12.1%、肺癌11.3%、体重75.7㎏、BMI:27.0)が無作為化され、866例が減量群、900例が通常群に割付。主要評価項目は12ヶ月後の血栓塞栓症の再燃(incidental含む)。11.8ヶ月後の血栓塞栓症の再燃は2.1%vs2.8%で差なし。出血2.9%vs4.3%、全死亡17.7%vs19.6%、血栓塞栓症の再燃+出血+全死亡で19.9%、22.1%で差なく非劣性であった。

2025年4月23日水曜日

咳、体重減少をきたした79歳女性

NEJM,2025,vol.392,no.15
Case Records of the MGH
Case 11-2025: A 79-Years-Old Woman with Cough and Weight Loss

4週前に感冒様症状の後、咳、痰が持続し、睡眠障害を伴う。昨年から10.4㎏の体重減少あり。5年前に南アフリカ、4年前に南米、6か月前に東南アジアに渡航歴あり。母親リンパ腫の既往。血液検査:血沈:55mm、CRP:1.19、胸部XPにて右胸水。胸水穿刺にて1.3L排液。胸水検査にて、赤血球14000/μL、有核細胞6300で10%が好中球、30%がリンパ球、5%マクロファージ、54%分類不能な細胞。胸水蛋白5.6g/dL、LDH:230

鑑別診断:
胸水のパターンはLight基準より滲出性。滲出性胸水:感染症、炎症、癌。
非感染性滲出性胸水:肺塞栓症、SLEなどの全身性炎症性疾患、薬剤性胸水

診断的検査
胸水細胞の病理学的検討:胸水細胞→形質細胞
CT、PET-CTにて右肺に無気肺、右肺中葉にPET-CTでFDG取り込みあり。さらに胸腔内リンパ節、左上顎洞にFDG取り込みあり。
最終診断:低分化型B細胞リンパ腫
(境界型リンパ腫でのリンパ腫の家族歴は中等度リスク)
治療はリツキシマブ+ベンダムスチンで初回治療4年後の寛解は2/3。本患者はCD20-CD3抗体glofitamab、CD20モノクローナル抗体obinutuzumabの治験参加し、2か月後に寛解。

2025年4月16日水曜日

背部痛、呼吸困難をきたした24歳男性

NEJM,2024,vol.391,no.9
Case Records of the MGH
Case 27-2024: A 24-Year-Old Man with Pain and Dyspnea

1923年3月の症例。3日前までは元気だったが、全身倦怠感、頭痛、背部痛が出現。入院前日より発熱、乾性咳嗽、悪寒出現し、身体がカチカチになり体動困難。呼吸困難、前胸部痛で来院。高熱、頻脈(92-145)、頻呼吸(28-58)。膿性痰。胸部XPにて右上肺、左下肺にコンソリデーション、左肺門リンパ節腫脹。心尖部bruitあり。左手掌、右示指に小充血性斑あり。入院3日目、膿性痰増加、4日目にはさらに全身状態悪化し死亡。

鑑別診断
1918年からインフルエンザのパンデミックあり。

診断
インフルエンザによる気管支肺炎

2025年4月9日水曜日

意識の変容とアシデミアをきたした72歳女性

NEJM,2025,vol.392,no.11
Case Records of the MGH
Case 8-2025: A 72-Year-Old Woman with Altered Mental Status and Acidemia

5年前に膀胱癌の既往があり、フルオロウラシル、マイトマイシンCの化学療法の既往あり。2週間前に血尿、排尿困難があり、シプロフロキサシンの投与を受ける。4日前、膀胱鏡検査にて、放射線膀胱炎、尿管癌の診断を受け、膀胱全摘術が予定された。膀胱鏡検査の2日後、2.5kgの体重増加があり、トルセミド、スピロノラクトンスの投与を受けた。その夜、興奮状態となり、翌朝、娘が救急要請。
7ヶ月前から傾眠傾向があり、高CO2血症のため、BiPAP、利尿剤投与あり。2型DMのため、ダパグリフロジン、メトホルミンの投与、他の投薬あり。
胸部XPでは肺うっ血、両側胸水、無気肺を認めた。
ICU入室時、ABGでpH:7.19、PaCO2:87、PaO2:81、AG:16→23→32、アセトアミノフェン、エタノール、サリチル酸は検出せず。

鑑別診断
ショック状態:敗血症性ショック、心不全、血管内脱水。
代謝性アシドーシス:高AG、呼吸性アシドーシスの代償。しかし、ICU入室後、さらにAG高値。
高AG代謝性アシドーシスの原因:GOLDMARK
G:エチレングリコール、O:オキシプロリン、L:乳酸、D:D-乳酸(まれ)、M:メタノール、A:アスピリン、R:腎不全、K:ケトアシドーシス

血中βヒドロキシ酪酸:9.1(<0.4)高値

診断;血糖正常性糖尿病性ケトアシドーシス
血糖正常性ケトアシドーシスは診断が遅れがちで、診断基準は、アニオンギャップ高値の代謝性アシドーシス、血中ケトン体高値、重炭酸イオンの低値。
糖尿病性ケトアシドーシスの原因:感染症、インスリン治療の中断、心筋梗塞、脳血管障害、膵炎、1型糖尿病の新規発症。本例ではSGLT2阻害薬の使用が考えられた。

2025年3月19日水曜日

アテローム中のマイクロプラスティック、ナノプラスティックと心血管イベント

NEJM,2024,vol.390,no.10
Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events

NASCET70%以上の無症候性内頸動脈狭窄でCEAを実施した連続447例(イタリア、サレルノ大学病院)のうち同意を得た312例。術後、退院までに8例が脳卒中または死亡し、47例が中断し、257例を33.7±6.9ヶ月フォローアップした。
150例(58.4%)で頸動脈アテローマ中にポリエチレンが見つかった。31例(12.1%)にポリビニル塩化物が見つかった。これらプラスティック(MNP)が見つかった群はより若年で、高血圧は少ない傾向を認めた。居住地域に差を認めず。頸動脈にMNPを認めた群では、そうでない群に比して、頸動脈プラーク中のIL-18、IL-1β、TNF-α、IL-6が多くみられ、コラーゲンは少なく、CD3、CD68は多く発現していた。心血管イベントは、20.0%vs7.5%で、年齢・性・BMI・コレステロール値、HDL-c、LDL-c、クレアチニン、高血圧、過去の心血管イベント等で調整したハザード比4.53(2.00-10.27)で、頸動脈プラーク中のMNPの存在は心血管イベントのリスクとなっていた。

2025年3月12日水曜日

慢性腎臓病におけるエンパグリフロジンの長期効果

NEJM,2025,vol.392,no.8
Long-Term Effects of Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease

EMPA-KIDNEY試験(eGFR:20-45、またはeGFR:45-90かつ200㎎/crea・g以上、RAS阻害薬を認容量内服)のフォローアップ研究。SGLT2阻害薬はオープンラベルでの投与。主要評価項目はCKD増悪(eGFRが40%以上悪化、透析、腎移植、eGFR<10)+心血管死。
本試験6609例中、ポスト試験に参加した者4891例。オープンラベルでのSGLT2阻害薬投与はエンパグリフロジン群43%、プラセボ群40%で、中央値2年フォローされ、主要評価項目イベントは26.2%vs30.3%で、ハザード比0.87(0.76-0.99)であった。エンパグリフロジンによる心血管腎へのベネフィットは投与終了後も12ヶ月以上にわたって持続していた。

2025年3月5日水曜日

頭痛をきたした末期肝疾患の56歳女性

NEJM,2024,vol.391,no.24
Case Records of the MGH
Case 40-2024:56-Year-Old Woman with End-Stage Liver Disease and Headache

MASH、肝硬変の女性。股関節の手術後から、全身倦怠感、腹痛で受診。昏迷をきたす。定期的に腹水穿刺。昏迷のため、単語で返答するのみ。肺CTでは、右肺門石灰化、左下肺に線状影。脳CTでは脳小血管病を示唆する白質に軽度低吸収域病変を認めた。特発性細菌性腹膜炎の所見は認めず。腎機能は低下し、利尿剤中止。
転院時、意識清明。転院2日、以前からの頭痛悪化。ずきずき、ガンガン、以前の片頭痛の様に痛いという。転院4日、嘔気あり、脳CT変化なし。転院5日、羞明、右目の視野のぼやけが出現。

鑑別
頭痛で羞明、視野のぼやけがある場合、二次性頭痛などの原因を考慮。
亜急性に増悪:血管原性:脳出血、動脈解離など。髄膜炎、頭蓋内占拠病変。
片側性の視野のぼやけ:頭蓋内圧亢進、眼動脈(脳静脈血栓症、巨細胞性動脈炎)髄膜脳炎(ウイルス性、細菌性、真菌性、寄生虫性)

診断的検査
髄液検査が必要と判断されたが、PT-INR:1.8のため、FFP、ビタミンKが投与。その間、血清クリプトコッカス抗原検査、脳画像検査実施。脳MRIでは基底核に新たにDWI、FLAIRで散在性の小高信号域を認めた。血性クリプトコッカス抗原は64倍。髄液検査では初圧31㎝H2O、糖80、蛋白114、細胞数41、髄液クリプトコッカス抗原2048倍

本例ではPT-INRが1.8のため髄液検査がためらわれたが、PT-INR<2ではFFP投与は意味がなく、4以上で考慮すべき。363例の肝硬変患者に852回の侵襲的手技を行った報告では10回の出血イベントを認めたが、血小板数、PT-INR、Child-Pughグレード、FFPの投与の有無などに関連を認めず。この報告ではPT-INR≧1.3を含む血小板数<5万でも出血イベントを認めず。

2025年2月26日水曜日

高血圧患者における降圧剤治療前後の自宅心拍数と死亡リスク:HOMED-BP研究の事後解析から

J Am Heart Assoc,2024,vol.13
Home Pulse Rate Before and During Antihypertensive Treatment and Mortality Risk in Hypertensive Patients : A Post Hoc Analysis of the HOMED-BP Study

HOMED-BP研究は日本で実施された多施設前向きRCTで高血圧の厳格治療群、通常治療群の比較試験で、その事後解析。40‐79歳、中等度高血圧、457クリニックで最終3022人(59.4±9.9歳、女性50.2%、BMI≧25,38.6%、自宅心拍数69.0、自宅SBP151.8、自宅DBP90.1)のデータを解析した。心拍数で5分割して解析。心拍数の低い第1五分位(心拍数41-61)に対して、心拍数の早い第5五分位(心拍数76-108)は有意に、若年、飲酒率、喫煙率、糖尿病、自宅DBPが高値であったが、自宅SBPや貧血は差がなかった。7.3年(4.8-9.1年)のフォローアップで72例が死亡し、50例で主要心血管イベントが発生。心血管イベントは心拍数での差は認めなかったが、全死亡は第3五分位以上で有意に死亡が多く、1SDの心拍数(安静時で9.4/分、フォローアップ期間中で9.9/分)増加で、ハザード比1.54(1.24-1.92)、1.70(1.39-2.08)であった。ROC解析では、ベースラインの心拍数67.8/分がカットオフポイントで、AUC0.578、感度0.71、特異度0.48であった。

2025年2月19日水曜日

インスリン治療なしの2型糖尿病でのインスリン・エフシトラ(週1回)vsデルグデク(1日1回)

NEJM,2024,vol.391,no.23
Insulin Efsitora versus Degludec in Type 2 Diabetes without Previous Insulin Treatment 

週1回のエフシトラのフェーズ3試験。オープンラベルのRCT、10ヵ国121施設。18歳以上、BMI45以下、HbA1C7.0-10.5で、最低3か月以上非インスリンでの薬物療法歴あるものを対象。主要評価項目は52週後のHbA1Cでのデルグデクに対する非劣性。2022年6月~2024年4月に1267人がスクリーニングされ、928人がランダム化され、エフシトラ群466人(57.6±10.6歳、男性60.3%、アジア人35.0%、HbA1C:8.21±0.96、BMI:30.4、GLP-1併用49.8%、SGLT2I併用38.4%)、デルグデク群462人。52週後のHbA1CはE群8.21→6.97、D群8.24→7.05で、優位性は示せなかったが、非劣性は示された。GLP-1併用の有無でも同様の結果。52週の時点の使用量はE群314.7U/週、D群334.4U/週で、有意にE群で少なかった。有症状の低血糖はE群130例、253件、D群97人、190件でレート比1.34(0.97-1.85)で有意差を認めず。

2025年2月12日水曜日

痛風発作時のコルヒチンを用いた尿酸低下療法の導入による心血管イベント、新規患者での後方視的コホート研究

Lancet,2024
Cardiovascular events in patients with gout initiating urate-lowering therapy with or without colchicine for flare prophylaxis: a retrospective new-user cohort study using linked primary care, hospitalisation, and mortality data

痛風発作後、最初の数か月に尿酸低下療法を導入すると、痛風発作が誘発されるおそれがあり、最初の3-6か月の痛風予防には、コルヒチンが第1選択として推奨されているが、実際には10-20%しか投与されていない。臨床研究データリンクAurumのデータを用いて、コルヒチンの心血管イベント予防について検討した。1997年-2021年のデータ。NSAIDsやコルヒチンの過去の使用歴のあるものは除外。42万人のデータのうち、99800人が解析され、16028人(63.5歳)が新規にコルヒチンが投与され、83772人(62.7歳)がNSAIDsもコルヒチンも投与されていなかった(予防治療なし群)。コルヒチンは平均47.3±33.7日、0.97±0.16mg投与。175.5日フォローアップされ、主要評価項目である心血管イベントは1.4%vs1.8%で、加重IRでは28.8/1000人・年vs35.3で加重ハザード比は0.82(0.69-0.94)(ITT解析)でリスクを減らしていた。

2025年2月5日水曜日

2型糖尿病に合併した慢性腎臓病でのフィネレノンの心血管および腎臓への長期効果、FIDELITY統合解析

Euro Heart J,2022,vol.43
Cardiovascular and kidney outcomes with finerenone in patients with type2 diabetes and chronic kidney disease : FIDELITY pooled analysis

ミネラルコルチコイド受容体の過活動は心、腎、血管の炎症、線維化を引き起こす。MR受容体拮抗薬であるフィネレノンはFIDELIO-DKD研究で腎転帰を改善し、FIGARO-DKD研究では心血管転帰を改善した。そのデータの統合研究。両研究棟もT2D+CKDで、RAS阻害薬が耐容量まで投与中、K値≦4.8で、FIDELIO研究はT2D+CKDで、尿アルブミンクレアチニン比(UACR)30-300、eGFR:25-60またはUACR≧300、FIGARO研究はUACR:30-300,eGFR:25-90またはUACR:300-5000、eGFR≧60のものを対象とし、主要評価項目は心血管転帰、腎転帰とした。統合データでは13026人(フィネレノン群6519人、プラセボ群6507人、64.8±9.5歳、男性69.8%、HbA1C:7.7±1.4、eGFR:57.6、UACR30-300,26.4%、UACR≧300,66.7%、インスリン58.6%、GLP17.2%、SGLT26.7%併用)が解析された。複合心血管転帰(心血管死、MI、脳卒中、心不全入院)ではハザード比0.86(0.78-0.95)であった。腎転帰ではベースラインからeGFRが57%以上低下を腎悪化とした場合の複合腎転帰でハザード比0.77(0.67-0.88)、末期腎不全(透析+腎移植)でHR0.80(0.64-0.99)、eGFR<15は0.70(0.60-0.83)でリスクを低下させていた。全死亡は8.5%vs9.4%で、HR0.89(0.79-1.00,p=0.051)であった。有害事象である高K血症は14.0%vs6.9%で、持続的な高K血症による投与不能例は1.7%vs0.6%であった。

2025年1月29日水曜日

好酸球増加型の重症喘息に対するデペモキマブ年2回投与治療

NEJM,2024,vol.391,no.24
Twice-Yearly Depemokimab in Severe Asthma with Eosinophilic Phenotype

デペモキマブはIL-5に結合する超持続作用型薬剤で、SWIFT-1、SWIFT-2研究として多施設二重盲検試験として実施。11カ国、131施設。12歳以上、2年以上の喘息罹患歴。過去に末梢好酸球数300以上、またはスクリーニング時に150以上で、吸入ステロイドを過去12ヶ月、中~高用量定期吸入中。デペモキマブ群、プラセボ群を2:1に割り付け。主要評価項目は52週間の急性増悪率。792人がランダム化され、762人が解析された。(SWIFT-1のプラセボ群で年齢53.6歳、女性60%、経口ステロイド10%、経口ステロイド8.5mg、気管支拡張症吸入前の対標準1秒量60.8)52週間の急性増悪回数はSWIFT-1で0.46vs1.11、RR:0.42(0.30-0.59,p<0.001)、SWIFT-2で0.56vs1.08でRR:0.52(0.36-0.73,p<0.001)で、急性増悪を減らしていた。二次評価項目である、質問紙法のSGRQでは有意な差を認めず。対標準1秒量も有意差認めず。

2025年1月22日水曜日

前高血圧からの高血圧進行に対して尿酸はリスクの指標である

Hypertension,2018,vol.71
Uric Acid Is a Strong Risk Marker for Developing Hypertension From Prehypertension
-A 5-Year Japanese Cohort Study-

単施設(聖路加国際病院)での後方視的研究。2004年~2009年のデータを使用。30-85歳で、高血圧で治療中の者を除外。正常血圧(BP<120/80)群、男2557人、女4330人、前高血圧(BP:120-140/80-90)群、男2081人、女1503人で検討。高尿酸血症は男>7.0㎎/dL、女>6.0とした。血圧正常群の5年後の高血圧発症は2.9%で、高尿酸血症有無では5.6%vs2.6%(p<0.001)。高血圧への移行の尿酸の閾値は男8.0、女5.0であった。前高血圧群の5年後の高血圧発症は25.3%で、高尿酸血症有無では30.7%vs24.0%(p<0.001)。リスクファクターを調整した前高血圧から高血圧発症のリスクのオッズ比は、BMI高値1.051、ベースラインのSBP高値1.072、ベースラインのDBP高値1.085に対して、高尿酸血症は1.149であった。尿酸値の4分位の最低群に対し、最高群の5年後の高血圧発症の修正オッズ比は女1.970、男1.369であった。

2025年1月15日水曜日

女性での高感度CRP、コレステロール、リポ蛋白aでの30年間の心血管イベントの転帰

NEJM,2024,vol.391,no.15
Inflammation, Cholesterol, Lipoprotein(a), and 30-Year Cardiovascular Outcomes in Women

Women's Health Study(WHS研究)は1992-1995年に登録された39876人の女性、医療従事者でのコホート研究。主要評価項目は心筋梗塞、脳卒中、冠動脈インターベンション、心血管死など。27939人(54.7歳、白人94.0%、BMI:25.9)が評価。中央値27.4年(22.6-28.5年)観察。心血管イベントは3662発生。高感度CRP、LDL-c、Lipoprotein(a)の30年の修正ハザード比は、一番低い5分位に比して一番高い5分位では、1.70(1.52-1.90)、1.36(1.23-1.52)、1.33(1.21-1.47)。スタチンの内服者は57.5%あり、スタチン内服時点以後での修正ハザード比でも1.65、1.62、1.42であった。3662件の心血管イベント例では2151例がスタチン内服していた。

2025年1月8日水曜日

呼吸困難、嚥下困難、構音障害をきたした72歳女性

NEJM,2024,vol.391,no.15
Case Records of the MGH
Case 32-2024: A 72-Year-Old Woman with Dyspnea, Dysphagia, and Dysarthria

2年前からの亜急性の労作性呼吸困難。この数ヶ月で徐々に悪化し、歩行中の酸素飽和度は91-94%に悪化。血液検査は正常、胸部XPでは軽度心拡大、両側の間質性陰影。体重はこの間、5kg減。Dダイマー:3259ng/mL、その後、中断。10ヶ月前に部屋間の移動で息切れ。一時的な顔面の左右差で、左の口唇から流涎。電話での対応時に声が不明瞭なのに親族が気づく。その2ヶ月後の心エコーでは卵円孔開存、左右シャント、中等度TR、右室圧60mmHg。その後、両下肢の筋力低下があり、歩行器を使用。既往歴は重度肥満、心房粗動、高血圧、脂質異常症、副甲状腺機能亢進症。動脈血ガスではPCO2:74,PO2:89、pH:7.32
入院時の神経学的所見では、頻呼吸、忘れっぽさ、構音障害、右の顔面筋の麻痺、右眼瞼下垂軽度、両側の近位筋の筋力低下、左上肢のバレー試験での回内。右バビンスキー反射陽性。MRIでは梗塞巣認めず。

鑑別診断
脳血管障害(脳、脳幹、本例では脳MRI異常なし)
MND(ALS)(本例では腱反射亢進なし、筋萎縮なし、fasciculationなし)
神経根
末梢神経 GBS(純粋な運動神経のみのGBSはある。眼瞼下垂はGBSにはまれ。一過性の顔面筋麻痺も説明つかない)
神経筋接合部 筋無力症(MG)の60%は顔面や眼瞼の非対称を認める。
筋 眼咽頭筋型筋ジストロフィ 

抗MuSK抗体陽性のMGでは40%の患者で嚥下困難、構音障害が初発症状で、眼瞼下垂はないかあっても軽度、筋力低下もほとんどないとされる。

診断的検査、治療
反復刺激誘発筋電図検査では検査前に比して18%電位低下あり。
抗AChR抗体12.5nmol/L(正常≦0.02)、抗MuMK抗体陰性、抗横紋筋抗体30720倍(正常120倍未満)
CTでは胸腺腫なし
5日間のIVIG療法、さらにPSL、アザチオプリン、リツキシマブでの免疫抑制治療。6週の時点で、球麻痺、眼症状、四肢筋力低下は改善。しかし、その後、重度の誤嚥を起こし、そのまま死亡。